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更新日:2004/04/19(月)

[コラム] 渡辺雄三自伝第8回

戦時中の罪の深さにさいなまれ酒で荒れた元憲兵の寮生

当時、何年たっても戦争の後遺症から抜け出せない学生がいました。彼は寮生で、日頃は大人しく控えめな性格でしたが、一旦酒を飲み出すと人格が一変し、凶暴になるので、寮生から恐れられていました。

彼は、拳銃と実弾を隠し持っていました。何故、手放すことができなかったのか?それは、彼が憲兵で、しかも旧満州のソ連国境近くに配属されていたからでした。彼はスパイと疑われた中国人を尋問し、自白しなければ拷問し、それでも抵抗する者を射殺していました。

その罪の深さに苛まれた彼は、拳銃と実弾を捨てることができず、日本に持ち帰っていました。しかも彼は、それを酒で紛らわせていました。

実は、川北旅館の後継ぎであった私の従兄も、敗戦で中国から帰国後、夜になると部屋に引き篭もり、一人で酒を飲み、刀を降り回して、唐紙や障子、箪笥を切り裂き、数年足らずで、悲惨な最期を迎えました。

党の「広範な統一戦線」方針で三笠宮と大学で極秘の勉強会

ジュネーブ協定が調印され、朝鮮戦争が終わり、共産党も「広範な反米統一戦線」に路線転換した時でした。職員細胞から連絡があったので行くと、「絶対に他人に言わないでくれ」と念を押されたので了承すると、意外な事が依頼されました。

「三笠宮が大学に来る。護衛の私服警官も付いて来るが、彼を通してやってくれ」、と言うのです。「何故か」と聞くと、「党は広範な反米統一戦線に方針転換した。ついては、宮中工作のため、三笠宮と勉強会をこの大学内ですることになった」、というのです。

当時、警官は情報収集のため、学内に入ってきて掲示板をメモしていました。私達は彼らを見つけると、取り囲んで妨害し、学外へ追い出していました。それで、こんな要請になったのです。

当日、私一人で大学正門から構内を見渡せるところにいて、監視していました。大学正門前で自動車を降り、警護の警官を後ろに三笠宮が大学の建物内に入るまで確認しました。

これは、表向きには「にいなめ会」との名前で、会報も出ています。私は高槻市の図書館で確認しましたが、最近になって廃棄処分にされていました。

中身はシベリアに居住するツングースやギリヤークなど、モンゴリアン諸部族の祭祀の調査報告でした。天皇家の由来を明らかにしようとした研究会であることが一見して判りました。

三笠宮は紀元節の復活が持ち上がった際、『帝王と墓と民衆/オリエントのあけぼの』を、光文社のカッパブックスから出版しています。これを読むと、「彼には脈があったのかな」、と私は思っています。

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