[海外] 台湾/総統選挙をふりかえって
──単福
中国に投資する経済の動向は「独立派」も無視できない
台湾の総統選挙が終わりました。投票前夜に陳水扁が銃撃される、という不可思議な事件が起こり、その結果、三万票の差で陳水扁が勝利を得ました。無効票が三二万票もある、という異常事態の中の出来事です。「もし」は考慮すべきではありませんが、本来敗北が濃厚であった候補が逆転勝利した?(させた?)銃撃事件でした。
国民投票は、「棄権運動」が有効に働き、成立しませんでした。これからの台湾は、将来を巡ってさらに、混乱が続くでしょう。しかし、台湾経済は、中国の市場に投資しており、経済の動向は無視できないのも現実です。
独立派が勝利するとすれば、「中国市場に依拠しない経済体制の確立」が不可欠でしょう。台湾の経済界の多くは、現状を望んでおり、必ずしも民進党の意見が経済界から支持されている、というわけではありません。
民衆の多くは、「中国との共存を望んでいる」というのが大勢ですが、そのあり方は、右から左まで多くの幅があります。かつての国民党主流派の「祖国反攻」は激減しましたが、「中国共産党との統一」を願うのもまた少数です。親戚訪問も含めて、交流が進むことを願っている、というのが多くの民衆の意見です。しかし、政治のあり方を巡っては、国民党の独裁時代を疎ましく思っている世代が大勢を占めているため、その間隙を民進党が埋めている、というのが実情です。
‘02年の市長選挙で顕著だった民進党の劣勢
二〇〇二年、この総統選挙の前哨戦というべき選挙が行われました。それは、台北市と高雄市における市長選挙です。この二つの市は、かつて特別市(国家の直轄市)であった、台湾の二大都市です。
台北市長選挙は、陳水扁が市長をしていたこともありますが、どちらかといえば、政党支持率が反映するところではなく、むしろ無党派が多い都市型を代表するところです。陳水扁は市長選に出たときは、「独立」という言葉を前面に出さず、選挙戦を戦い、当時の旧体制の批判勢力として登場し、勝利しました。しかしその後は、国民党が取り返したところであり、今では、国民党優勢といわれているところでもあります。
選挙の結果は、国民党の馬英九が圧勝し、民進党の李応元候補は、約三六%の得票率を何とかもぎとったものの、その差は大きく開き、陳水扁が取った票をさらに二〇万票減らす、という結果に終わっています。市議会選挙に至っては、民進党の得票率は三割を切り、野党側(反民進党)は三分の二の議席を獲得しました。台北市での民進党の劣勢は、より顕著となりました。
高雄市は、かつて高雄事件(美麗島事件)が起こったところでもあり、「民進党の牙城」とされているところです。市長の謝長廷は、民進党の最高幹部の一人でもあります。現職の謝長廷の楽勝と思われた選挙でありましたが、結果は、国民党の黄俊英氏にわずか二万票差に詰め寄られるという辛勝となりました。民進党は勝利することは出来ましたが、謝長廷は前回より得票数を減らす厳しい結果に終わっています。
陳水扁民進党主席は、この選挙終了後「台北市長選挙の結果は、国民の警告と鞭撻を反映している」と表明しました。台北市長の馬英九の個人的人気の高さ、というだけでなく、民進党の経済政策の行き詰まりに対する不信を表した結果であるといえます。
台湾の「新世代」の動向は次の選挙に表れる
今回の選挙は、前回の総統選挙と何が違っていたか?それは、@国民党の分裂により、連・宋が対立した、A元国民党総統の李登輝が陳水扁に付いた、という点です。その結果、民進党が漁夫の利を得た選挙でした。
また、二年前の台北市・高雄市での市長選挙と今回の総統選挙との違いは、@陳水扁が、まだ国民の支持を得ていない状況であった、A陳水扁の経済政策が支持されていない状況下にあったこと、だといわれています。
こういった状況が、総統選挙の投票前夜まで大きく変動していなかったことは、選挙前の予想(連有利)にも表れていました。
連戦は、「旧世代を引き継いだ政治家」といえます。宋楚瑜にしても、台湾省主席の頃に地方分権化を進めましたが、「新世代」とはいえない政治家です。「新旧をつなぐ世代」ともいえます。
次回は、「馬英九対陳水扁」の闘いになるでしょう。新世代としての馬英九は、陳水扁と同様、台北市長から台湾総統への道を引き継ぐ可能性は大いにあります。
今回の選挙結果は、三三万票の無効票がきちんと点検されたなら、逆転する可能性がないとはいえないものです。不透明に終わったこの選挙を、台湾の人々がどう受けとめているのかは、次の選挙に結果が表れる、と思っています。