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更新日:2004/04/19(月)

パレスチナ/ハマスの指導者ヤシン師をミサイルで虐殺したシャロン
──TVプロデューサー&ディレクター 後藤和夫

イスラエル軍が子どもたちを面白半分で撃つ「日常」

二四日。私は一人の老人の前にいた。車椅子に座り、毛布を身にまとった彼は、支えなければ倒れてしまいそうなか細い身体をしていた。

私のガイドは、老人の頬に軽く自分の頬を当て、敬虔な会釈を交わした。

「こちらへどうぞ」

澄んだ眼で、老人は私を呼び寄せた。

「遠方からの客人よ、何でも聞いてほしい」

周りを取り囲む男たちに、険はなかった。みな穏やかな表情をしていた。逃げているのでも、隠れているのでもない。普段どおりの静かな空間。いつもどおりの彼の生活。彼が信徒たちに会う、決して広いとはいえないいつもの居間。彼に会いに多くの市民が訪れる。私の面会が終わるのを待つ人が、控え室で待っている。

ほんの数時間前、老人の自宅を訪ねる前に、私は難民キャンプにいた。数日前からイスラエル軍の戦車とブルドーザーが、難民キャンプの民家を完全に破壊していた。家を壊された住民は、行くところもなく路上に座っていた。ガス弾のガスを吸って、四肢が麻痺した子供を抱いて、母親は訴えた。「テロリストはどっちだというの?」

あたりには途方にくれた市民と、瓦礫の中で行き場もなく、それでもじっとしていられない子供たちが、笑い声を上げて遊んでいた。こちら側に銃を持った男たちなどいなかった。

それでも二〇〇b先の監視台からの発砲が続いた。私を狙ったのではない──だろう。瓦礫が散乱する砂埃の路上で遊ぶ子供たちを、イスラエル軍が面白半分で撃っているのだ。

こんな日常がそこにあった。この異常が「常態」として続いていた。

人々を助け支えているハマス

二〇〇〇年九月以来、完全に武力制圧されたパレスチナ。ユダヤ人入植地と境をなすガザ地区の難民キャンプ。自治政府の機能はストップし、追い出された市民たちに援助の手は届かない。 ──誰が助けてくれる?

「誰も助けてくれない」 ──食べ物は?

「ハマスがわずかばかり援助してくれる」 ──アラファト政府とハマス、どっちが頼れる?

「ハマス」

ハマスは人々を支えていた。ハマスは人々を助けていた。その最高指導者は、人々の大きな尊敬を得ていた。

私は緊張していた。目の前の今にも倒れそうなか細い老人が、ハマスの最高指導者なのか。この優しい眼をした老人が「自爆テロ」の首謀者なのか。

「私たちを過激派と呼ぶのはやめてください。私たちはイスラエルが占領をやめて、私たちの独立を認めればそれでいいのです。私たちは土地を奪われ、五〇年以上難民生活をしているのです。私たちの欲しいのは自由と独立だけなのです。そのための抵抗運動なのです」。

「私たちはただ自分たちの土地に帰還したいだけです」

──自爆攻撃について教えてください。

「私たちは『自爆攻撃』とは呼んでいません。これは『殉教作戦』なのです。私たちは一切の武器を持っていませんし、軍隊も持っていません。私たちが唯一持っているのは、殉教に行く人なのです」。

「私たちは、ただ自分の土地に帰還したいだけなのです。この大きな夢を、世界の誰が持ってきてくれるのですか?それが実現するならば、私たちは即座に停戦に合意します。そして和平に向かう第一歩として、ガザとヨルダン川西岸の独立だけで納得します」。

「過激派ハマス」の最高指導者は、小さな声で淡々と私に語りかけた。至極当然のことを言っていると思った。かつてハマスは、「パレスチナ全土の解放」を標榜していたが、最高指導者は今、現実的な譲歩を見せていた。「ユダヤ人を武力で追い出す」とか、「殲滅する」とか、過激な発言はなかった。

「客人よ、私はただ普通のこと、当然のことを言っているんですよ」と、老人は高い声で笑った。握手をすると、今にも折れてしまいそうな細い手だった。

老人の家は、五〇年前、国連が難民のために建てたコンクリートの家と同じような質素な一軒家だった。指導者といえど、決して贅沢な家ではなかった。普通の人々と同じ家だった。ガザに住む人たちは、皆この家を知っていた。歩いて一〇分ほどのところに、老人が最初に説教をした小さなモスクがあった。ここも有名だった。みんなが知っていた。

決して華美な生活をすることのない聖職者。だから彼は、パレスチナ人の精神的指導者だった。彼は、逃げも隠れもしなかった。彼は堂々としていた。それをイスラエル側も当然知っていた。

占領からの解放。当然の権利。

自由と独立。当然の要求。

「いつでも殉教作戦に行くよ」

三月二二日。イスラエル軍はこの老人、シェイク・アフマド・ヤシンを暗殺した。その時、イスラエル国旗のダビデの星は、「鉤十字」に変わった。ナチによって、六〇〇万人の同胞を虐殺された記憶の持ち主・アリエル・シャロンは、「第二のヒトラー」となった。逃げも隠れもしない車椅子の老人を、ミサイルで虐殺したのだ。恥を知れ!

この挑発によって、今パレスチナの地に民族浄化が行われようとしている。

国際社会は、この暴挙を許しておくのだろうか。ブッシュはこれを黙認することによって、そして武器を提供し続けることによって、二一世紀最初の国際戦争犯罪人になる。

反撃は必ず起こるだろう。占領に大義などない。被占領者たちの抵抗の闘いを、私は否定することができない。ジハード(聖戦)を否定することができない。ジハードはあるに違いない。

ガザの友人に電話をした。ヤシン師の葬儀には、通常葬儀に振舞われるアラビックコーヒーの代わりに、オレンジジュースが振舞われたという。追悼ならばコーヒーなのに、その日は「祝福」のオレンジジュースだったという。

祝福? ヤシン師は、殉教することによって「聖人」になったのだった。

ハマスの主催する、子供のためのサマーキャンプに行った。サッカー好きの少年が言った。 「いつでも殉教作戦に行くよ」 ──死んだら好きなサッカーができないじゃないか?

少年は笑顔で答えた。

「天国でやるよ」。

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