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更新日:(2004/03/27)

[情報] 『スパイ・ゾルゲ』映画評/藤井新造

《スパイ・ゾルゲ》に登場する三人の人物

篠田正治監督は、今、何故この映画を製作しようとしたのか。その動機を映画案内のパンフでのインタビューでみてみよう。

「政治家や国民は、自分の気分で身びいきに見るから判断を誤るが、ジャーナリストでスパイであったゾルゲや尾崎は、収集した情報を曲げることなく、日本を冷静に分析した。彼らの論を読むと、日本がレントゲンにかけられたようによくわかる。当時の日本の問題を一番正確に語ったのは彼らでしょう」と答え、それ故、彼らを映画化したかったのである

周知のように、彼らは一九四一年一〇月国際スパイ容疑で逮捕され、一九四四年一一月極秘のもと処刑された(ブリタニカ『百科辞典』より)。容疑は日本政府により「国際スパイ諜報者」として告発されたが、事実はソビエトの共産党本部(最初はコミンテルン)へ、日本国上層部の政治的動向(経済社会情勢)、軍部の動き(特に軍隊の配置)などの情報を送っていたのである。それ故、日本政府(軍部が掌握)はゾルゲらの「諜報活動」をさして、「売国奴」または「国賊」としての印象を日本人の記憶に強烈に叩き込んだ。

本当にそうであったのか。

「我々はソ連のための宣伝に従事したのではない、各方面の個人や社会の各層に向かって、ソ連の国力を慎重に評価するように教えようとしたのであった。…日ソ懸案の平和的解決に努力するように勧めたのであった。」(「獄中記」より)

二人に共通することは、日本軍がソビエトへ侵略しないことを願い、そのような政治的工作を行ったことであろう。

篠田は、彼らの活動を真実に近いところまで追い求めた映画《スパイ・ゾルゲ》を製作したかったのである。

篠田監督の映画人として、今までに蓄積してきた経験と知識と才能の全部を投入した意気込みをみることができる。彼は、「この映画が最後の作品」と語っている。

「戦争の原因」を取り除くことを追い求めたゾルゲ

上述したように、映画の主役はゾルゲ、次に尾崎である。したがって二人の人物を軸に映画を展開し、最後にベルリンの壁の崩壊まで見せてくれる。ここでは、三たび今日における彼らの評価が観る側に要求されるように設定している。

彼の「獄中記」を読めば、鮮烈にゾルゲの人間像が浮かび上がってくる。 ゾルゲは、若い時にドイツ兵として第一次世界大戦に三度も志願兵として参加し、大きな負傷を受けた。治療のため、約六ヶ月野戦病院で過ごし、多くの本を読み「新しい侵略戦争の根底に横たわる動機」について考え始める。

ドイツ帝国の敗北で経済機構は崩壊し、「無数のプロレタリアと共に、飢餓と不断の食糧不足を体験」したゾルゲは、ドイツ帝国主義精神の虚像をも実体験した。

その後、彼はベルリン大学に入学、歴史・経済・哲学について本格的に勉強し始める。その結果、三冊の著作(例えば『ドイツ帝国主義』一九二七年)を著し、「どうしたらヨーロッパにおける自己破壊と果てしない戦争の繰り返しの原因を除くことができるか」という根本問題の研究に没頭している。

こうして、学者への道へ歩みはじめた彼であったが、ドイツ共産党とソビエト共産党は、豊かな才能と知識を持つ彼を政治活動へ導いた。

彼もまた「ロシア革命と国際労働運動が今後の生きる道を示してくれた」と、言い切っている。

人間性豊かだった尾崎秀実、そしてまた「戦争する国」になった日本

尾崎秀実についてはどうか。

今の人達、はこの美しい本の題名『愛情はふる星の如く』を知らない人がほとんどではなかろうか。私は一九五〇年にこの本を手にしていたが、今回あらためて新版を読み、尾崎の人間性、特に家族愛に溢れる妻(英子)と娘(揚子)に対する手紙に再度心を打たれた。

尾崎は、時代の荒波に敢然として身を抛うつ態の男でありながら、「自らを時代の犠牲者の祭壇に捧げた私は、また最も愛する妻子をも同じく、その道連れにしなければならなかったのです」と悲痛な心境を吐露しながらも、自分の生き方を後悔していない。

しかし、家族を想う彼の心中の呻き声が、家族への手紙においても伝わってくる。尾崎が「この一生にいたるところに深い人間の愛情を感じた」友人の一人とはゾルゲであり、アグネス・スメドレーであった。私は、スメドレーの著作『偉大なる道』(朱徳の伝記)、『中国の歌声』、エドガー・スノウの『中国の赤い星』をよく読み、深い感銘を覚えた。

上記の本は、あたかも神々の予言者の声を聞くごとく、出版後の一九四九年に中国革命は成功し、新しい統一国家が誕生している。スメドレーは中国革命の進行を一編の大河ドラマにして、常に世界に向けて発信した秀れたジャーナリストであった。世界に対する現状認識も正確に把握している。

「…私は、レーニン廟の上からたくさんの男の人々たちが演説するのは聴いたが、女の人の演説はたった一度しか聴いたことがない。それは国際婦人デーの演説だった」と、誕生して間もない「新しい社会」ソビエトでの性差別を鋭く、しかも皮肉たっぷりに批判している。

二〇〇三年はゾルゲ・尾崎が処刑されて丁度六〇年が経ち、二人の人物の映画もできあがった。そして今、日本は彼ら二人が遭遇した過酷な時代と異なるが、アメリカのイラク戦争に加担する、またも戦争をする国家になった。

ただし、大きい違いは、日本と世界の市民が手をつなぎ、この戦争を阻止できる状況にあることだ。

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