[海外] カンボジア/地雷除去体験記続き
いきなり襲ってきた恐怖
館長が帰ってきた後、除去作業に入る。手順は先刻と同じで、トラップの有無を確認した後、信管を取り外す。
まず地雷の側面を慎重に掘っていき、完全に露出させる。指の先に神経を集中し、少しでも引っ掛かりがないか確認しつつ、少しづつ掘っていく。何も考えない。ただひたすら指先に集中する。時々、「対戦車地雷だし、トラップに引っ掛かって誘爆起こしたら一瞬でミンチになるだろうな」とかそんな考えが頭をよぎるが、恐怖感はあまりない。怖いといえば、僕がその作業やってる横で(つまり五s以上の火薬がつまった爆発物の横で)何気なくタバコ吸ってるアレンと、それを全然気にしてない周りが怖い。こういうアバウトな所だから、自分でも地雷掘りができるんですし、まあ大した問題でもないと思うのですが、気分的に嫌です(わがままだ)。
側面の安全を確認したら、地雷の真下を掘って下にもトラップがあるか確認します。それからペンチを使って信管を外す。信管を外してしまえば、踏もうが叩こうが地雷は爆発しません。
「これでOKだ」。館長が言う。張り詰めていた空気が和みます。いつの間にか汗びっしょりになってます。とりあえずタバコに火をつける。…うまい。一服した後作業を再開する。一個目の地雷を処理したことで少し余裕ができ、改めて今自分の置かれている状況を認識する。 自分のいる場所→地雷原。 今やってること→木の棒一本で地雷掘り。 これまでの経験→ゼロ。 地雷関係の知識→本読んだり話を聞いたりしただけ。 最寄の病院まで→軽く四時間かかる。 結論→なんか非常にやばいことになってないか?僕?
「今さら何言ってんだ?」って感じですが、この時までほとんど感じなかった「恐怖」が、突然心の中で暴れだしました。本当に突然に。
思わず辺りを見回す。そこかしこに地雷が埋まっている気がして(実際埋まってたが)足を動かせなくなる。
「どこや?どこにある?」今自分が立っている場所から一aたりとも動けないような気分になる。自分が今まで掘って来た場所は大丈夫なのか、すら分からなくなる。ついには自分の今、立っている場所に、地雷が埋まっている気がする。大声で叫んでそこらじゅうを手当たり次第掘り返したい衝動に駈られる。
どこかにある、しかし決して見えない爆弾。踏めばどうなる?死ぬのか?自分が今立っている場所が信用できない。このままではまずいと感じる。足を動かさないよう注意深く立ち上がる。自分に言い聞かせる。落ち着け。落ち着かなあかん。事故ったら周りも巻き添えにしてしまう。落ち着け、冷静になれ。 「オ・チ・ツ・ケ、レ・イ・セ・イ・ニ・ナ・レ」
しばらくそうして自分に言い聞かせた後、作業を再開する。恐怖感は消えていない。怖いやんか畜生!いやだ、死にたくない、こんな所で死んでたまるか。もう一度皆に会いたい。せめてもう一度だけでもメール書きたい。くそったれが。生きて帰る、生きて帰ってやる! 「ゼ・ッ・タ・イ・ニ・イ・キ・テ・カ・エ・ッ・テ・ヤ・ル」
色々な思いが頭をよぎる。覚悟してここに来たはずだった。日本出る時も「これが最後かも知れない」と思って飛行機に乗った。けれども、実際に現場に来てみたら、こんなもんだった。覚悟が足りなかったのか、死を前にすると誰でもこうなるのか、未だに分からない。時々、心の隅に「早く終わらんかな」という思いがわいて来たけれど、絶対に自分から作業を止めるつもりはなかったから、ひたすら地面を掘り続けていた。〔U〕(つづく)