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更新日:(2004/02/15)

[情報] 映画『さらば箱舟』
さらば箱舟
(監督・寺山修司)

出演
小川真由美
山崎努
原田芳雄

「文学だけでなく、演劇・映像・写真と幅広い分野に影響を与えた、寺山修司の遺作である。鮮やかな色彩に前衛的な舞踊、ノスタルジックな舞台設定、劣等感と解放への願望といった、寺山作品に見られるモチーフが全部ここに集約されている。そして、彼の作品の随所に散りばめられていた「時間」というテーマが、この作品ではメインになっている。

主な人物は三人。本家の大作と、分家の捨吉、そしてその妻スエである。冒頭、幼い大作を連れた老人が、砂浜に穴を掘り、リヤカーいっぱいの時計を投げ込む。そして大作に、「坊ちゃん、これで時間は本家だけのものになりましたよ」と告げる。時が経って大人になった大作は、時間だけでなく、女性の噂にも事欠かない伊達男。一方捨吉は、本家の娘のスエと結婚するも、二人の仲に反対だったスエの父が、彼女に付けさせた貞操帯が外せず、未だに契りを結ぶことができない。ある日、夫婦間で契りがないことを大作にからかわれた捨吉は、カッとなって彼を殺害。スエを連れて村を出るが、何日も放浪した末、結局村に戻ってきてしまう。ふたたび村での生活を始める捨吉だったが、ものを忘れていく奇病にかかり、大作のまぼろしを見るようになる。一方、本家では、跡取りを名乗る子連れの女性が現れて……。

映画の随所に見られる「時計」のエピソード。大作の死後、前述の老人がリヤカーいっぱいの時計を持って現れて、「これで自分で好きに時間をコントロールできる」と、村人たちに時計を売る。たった一つの時計を皆で見ていた時代から、一人ひとりが時間を持つ時代へ。それはあたかも個人主義に移行していく現代を象徴するかのようである。人々の共通認識はだんだん失われてゆき、物語の終盤、村人達は皆、東京を思わせる隣町へと出て行ってしまう。

ノアの箱舟は、神が用意した箱舟に乗って、みんな助かった。しかし人は豊かさを求める時、神のような単一的な価値観には集まらない。より自由な方向へと惹かれてゆく。スエは言う。「隣町なんてウソ。みんな消えてしまう。一〇〇年経ったらその意味分かる」と。

そして物語の舞台から一〇〇年後の現代、個人主義はさらに加速。携帯やインターネット、引きこもりがクローズアップされ、人々の間に共通認識はほとんどない。そんな現代を予測して、映画の中で寺山はこう語りかけているようでもある。「豊かであることは孤独であることかも知れない」と。(評者・齋藤恵美子)


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