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更新日:2004/02/04(水)

[文化] 人間の感情の豊かさは社会的「学習」の結果
──「男のための脱暴力グループ」水野阿修羅

「正義は何してもいい」と怒る訓練

前回、明治時代の「男らしさの形成」でちょっと触れたが、私が授業の時によくやる化粧がある。明治天皇が明治六年までしていたといわれる化粧だ。

顔を真っ白に塗り、眉をそり落とし、書き眉をする。唇に赤を塗り、歯は真っ黒に染め(お歯黒)。男である天皇が、なぜこんな化粧をしていたのかはまだ学問的には論議されていない。その一方で明治政府は、条例で男の化粧やピアスを禁止している。

「男の化粧に、学生がどう反応するか」を見るためのものなのだが、眉をそると、意外なことが判明した。感情が顔に表れにくいのだ。暴走族の若者もやっているが、感情が出にくいので、不気味な感じになる。

「貴族の男の化粧は、ステイタス(地位の象徴)だ」という説があるが、私は「感情を表に出さないのが高等(?)な人間だ」という考えの表れだと思う。

私は、中学二年の時に、栃木県から東京の「学習院」にほど近い中学に転校した。そこの地域には、学習院に通っている子が多かったのだが、彼らは一様に感情を表さない。私がテレビを見て笑っていると、バカにしたような顔で私を見るのだ。悲しさも表さない。「感情を露骨に出さないのが、上流だ」といわんばかりだった。私もいつしかその仲間入りしようとして努力した。感情がパッと表に出ないので、「いつも冷静だ」と勘違いされた。しかし、田舎育ちのせいか、すぐカッとはならない性格だったため、一八才の時、角材を渡され、「これで人を殴れ」といわれた時は困った。

これもすぐ訓練だと思った。「怒ってもよい」「正義は何をしてもよい」と学習した私はどんどん怒るのがうまくなった。今度は「瞬間湯沸器」である。すぐ、ムカッとなる。

心の中の「怒り」を表に出せない人

数年前、大阪市の女性センター「クレオ大阪」で「シャイな男あつまれ」という講座が開かれた。私は参加者に鏡を渡して、「笑って下さい。悲しんで下さい。怒って下さい」と言った。すると、二〇人ほどの参加者の中に、「怒れない」という人が二人出てきた。女の人の中には「怒り」を表現できずに、精神障害を引き起こす人が多いと思っていたが、「まさか男性が」という思いで、その時は整理がつかなかった。

ところが、DV(家庭内暴力)をふるう男の中に、講座の中では怒りを表せない男が結構いる。カッとならないわけでなく、カッとなると自分でもセーブできないので、怒らないようにしてるという。言葉では「暴力反対」と言っている男が、カッとなると、妻や子どもに手が出るという。

カッとなれば人を殺せるが、冷静な時は怒りを表現できない人と、冷静に人を殺せる人の違いは何なのだろう。

「ひきこもり」の男性と話をしてみると、心の中では「怒り」がメラメラと燃えてるのに、それを言葉では一切言えない人が多い。

彼ら(女性もいるが、ひきこもりの九割は男性だという)の多くが、小さい頃、勉強ができたという。今の受験制度の中では知識の多さで「優秀だ」と評価される。感情の多さは、知識のジャマとなる。そうして大人になった彼らが、高校、大学、社会に向かった時、生身の人間とのつきあい方(感情の扱い方)を学んでいないので、失敗する。成績の優秀さと人間の豊かさは、必ずしも一致しないのだ。〈知る〉ことと〈感じる〉ことは、一緒ではない。(つづく)

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