[社会] 復活した青空カラオケ
よみがえった青空カラオケ
一月一日午前一〇時。JRの大阪環状線に面した天王寺公園の有料ゲート横で、カラオケの音楽が高らかに響き始めた。「皆さん、明けましておめでとうございます!」カラオケ店のママ・Hさんが、笑顔であいさつする。
「とにかく強制排除」で問答無用の態度だった大阪市に一矢を報いようと、多くの人の協力を得て、元日の朝早くから、テントを張ってカラオケ屋台を復活させたのだ。「大阪市のご指導に従いまして、撤去させていただきました」と昨年一二月の強制撤去の件を、皮肉の効いた言葉でさらっと振り返りつつ、あいさつが続く。
「『コアラが眠れない』とも言われましたが、この場所ならそんな心配も必要ありません。そして何よりも、再開を望む皆さんの声にお応えすることが出来て、うれしく思います」。わーっ!お客さんから拍手と歓声が上がる。青空カラオケの復活、みんな本当に嬉しそうだ。「もうカラオケ歌われへんなぁ、思てそこ歩いてたら、カラオケの音するやんか!ホンマびっくりしたわ!」
カラオケ強制撤去、その後
これまで本紙でお伝えしてきた通り、昨年一二月一五日、大阪市は二〇数年続いてきた青空カラオケを行政代執行によって強制撤去した。二〇数年間黙認してきたカラオケを、一切の話し合いを拒否し、いきなり「出ていけ」と実力行使に出たのだ。
「あったらあったでうるさいけど、無かったら無かったで寂しいね」これは、カラオケ屋台が「一掃」された通りで聞いた、通行人のつぶやきだ。
現在、かつての「カラオケ通り」の道の半分と、有料ゲート付近は、工事フェンスで囲われたり、フラワーポットがむやみに置かれていて、これがむしろ通行のじゃまになっている。
つい最近まで賑わっていた通りを歩いてみた。まだ人通りが少ない時間帯だったせいか、もともとアクリルの柵で挟まれた通りを、さらに工事用フェンスで囲われた通りは、冷たさをより感じさせる。どこか「強制収容所」にでも通じているかのような印象だ。
大阪・下町のコミュニティだ
二日以降は、テレビ等で報道されたことも手伝って、カラオケの常連さんたちの姿がさらに増えた。「テレビで見たよ!やったね!」「また歌えて嬉しいわー」。
カラオケ屋台を囲んで、歌う人、順番を待つ人、踊る人、たくさんの観客…。かつての青空カラオケの賑わいが戻ってきた!
たとえお金が無くっても楽しめる。吉本とか、ショッピング、寺社・名所めぐりといった、商業資本や行政に踊らされるような、お仕着せのレジャー・娯楽でなくたっていい。青空カラオケは庶民自身によって、長年だんだんと培われ、育っていった娯楽だ。自分から楽しめるからこそ、二〇数年も続いてきたのだ。
集まってくる人たちは、「久しぶり、何してんねん?」といった具合に話し込んだり、即席の酒宴が始まったり。「お兄ちゃん、寒いねー」「これ、美味しいよ」と初対面の人とすら親しくなれたりもする。遠巻きにして見物する人たちも、日向ぼっこを兼ねて、いい時間潰しになっているようだ。
ああ、青空カラオケって、単に歌うだけの場所じゃなくて、下町のコミュニティとしても機能しているのだなぁ。
ここには毎日を生きていく人たちの姿がある。人と人とが気軽に触れあえる雰囲気がある。
「天王寺公園が死んでいく…」
さて、大阪市の説明によれば、元「カラオケ通り」の八メートルある道幅の両端に、それぞれ二bずつ植樹帯を設け、穴が空いたりデコボコになった部分もある舗装を、透水性のあるものに張り替えるのだという。工事は今年度中で、予算は八千万。
しかし、その一帯の地下は、ちょうど駐車場になっているため、「果たして木を植えたり、透水性の舗装にして、駐車場に影響は出ないのか?」という指摘もあり、「結局、フラワーポットを置くぐらいしかできないのではないか」とも噂されている。
大阪市のウソは、バレバレだ。要は、日雇い労働者や野宿生活者が楽しみにしているものを潰したいのだ。そして更には、彼らを公園など「公共の空間」から追い出して、「小ギレイ」にしたいと願っているのだろう。ごくたまに、「ルンペンどもが何やっとんねん。止めろや」と吐き捨てるようにつぶやきながら、通り過ぎる人がいたりするのだが、その言葉によく表れている。騒音や都市公園法など口実に過ぎない。
Hさんは言う。「大阪市は『都市公園法違反だ』とおっしゃいますが、公園が、こんなに緑が少なくなって、市民が気軽に憩うことができなくなった。おかしいじゃないですか。青空カラオケをまた始めることで、公園のあり方に一石を投じたい」。
工事用フェンスなんかで庶民の生活・文化はつぶせない
青空カラオケは、四日の日曜まで続けられた。その間、大阪市は昨年同様、しつこく「除却命令」やら「弁明書」提出せよ、と言ってきたり、正月休み返上のてんやわんや。Hさんら店側は「公園と青空カラオケが共存できる方向で考えて欲しい」と弁明書で訴えたものの、相変わらず大阪市は聞く耳持たず。挙げ句の果てに「天王寺署に都市公園法違反で告訴する」と言い出してきたので、とりあえず店側は、五日、テントを畳んで自主撤去した。
大阪・天王寺のビル街の片隅に、四日間だけ復活した青空カラオケ。それは、行政に潰されても、何度も何度も芽を出す庶民の文化の力強さを感じさせてくれた。いくら公園を工事フェンスで囲おうとも、民衆の生活や文化はつぶせないのだ。