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更新日:2004/01/18(日)

[海外] 世界社会フォーラム(WSF)とは?
世界の市民活動家、インド(ムンバイ)で国際フォーラム

インタビュー……小倉利丸さん(ピープルズプラン研究所)、秋元陽子さん(アタックジャパン)

シアトルの勝利

編集部:世界社会フォーラムとは、そもそも何なのでしょうか?

秋本:世界社会フォーラム(WSF)とは、毎年一月にスイスのダボスに、先進国政府・多国籍企業・IMF(国際通貨基金)・WTO(世界貿易機関)・世界銀行など世界のトップエリートたちが集まる「世界経済フォーラム」に対抗するために、NGOや市民団体・労働組合などが、同じ一月に世界各地から一堂に会するイベントです。

一九九九年、世界各地からシアトルに集まった市民の抗議行動は、第三回WTO閣僚会議を失敗に終わらせるという、大成功を収めました。

九〇年代後半から、先進国首脳サミットや世界銀行・WTOのなどの国際会議があると、世界各地から集まって抗議行動を繰り広げたり、対抗フォーラムを開くという行動が続けられてきました。こうした行動の総決算としてシアトルの勝利があったわけです。

このシアトルでの抗議活動が、新自由主義的グローバル化に反対する民衆の運動としてマスコミを通しても知られるようになり、これがきっかけとなって、世界の社会運動団体が一堂に会して、民衆のためのフォーラムを開こうという提案がなされました。こうして、二〇〇一年ポルトアレグレ(ブラジル)に約一万五千人が集まって、第一回WSFが開催され、二〇〇二年には五〜六万人、二〇〇三年には、一〇万人もの人々が集いました。

つまり、WSFは、反グローバリズムの運動の中から、どうやって新自由主義に対抗しうる「もう一つの社会」を作っていくかということを課題として生まれ、開催されています。

WSFには、「基本原則憲章」があります。それは、@現在進行している新自由主義グローバリゼーションに対して異議申し立てをする、Aオープンなスペースを提供する、B全ての議論は民主主義的に行い、暴力は排除するということが柱となっています。

小倉:議論されるテーマも、「第三世界に対する搾取とどう闘うか」という基本的課題に加えて、「軍国主義・戦争・平和」「メディア・情報」「民主主義」「エコロジー」「自立可能な開発」「労働」「食料・健康」「差別」「ジェンダー」というようにほとんどすべての問題を網羅しています。(下表参照)

特に、九・一一以降は、アフガン空爆・イラク戦争という事態をふまえて、グローバル化がもたらした軍事の問題がクローズアップされ、特に第三回のWSFでは、経済のグローバル化とセットになって「反戦・平和」という課題が重要なテーマとして議論されました。

「WSFは入れ物であり、プロセスである」とよく言われます。つまりWSFは、場所を提供するものであって、これを様々な運動体が利用して、次のステップの運動をどう構築するのかといった戦略や運動体相互のネットワークづくりに役立ててもらいたいというのが基本的な理念です。したがって、主催者側が一定の方針を出すことはありませんし、過去のWSFで全体を総一するような宣言が出されたこともありません。WSFは、方針決定の場ではなく、あくまで議論のための場として存在していることが大きな特徴です。

これまでの国際主義というのは、前衛党や労働組合が「国」単位に組織され、国単位の組織を連動・統括する国際的組織を作って、コミンテルンのような中心的組織がリーダーシップをとりながら国際的運動を組織するという図式でした。

しかし冷戦崩壊後、この枠組みは機能しなくなりました。ここにきて、「ネットワーク型」といわれる緩やかな繋がりを広げることで、全体としてグローバルな資本主義を逆包囲するという仕掛けと運動が登場してきたのです。

WSFは、全体のプロセスの中の一つの通過点であって、集まって結論を出すことに目的をおかず、次の展開をどうするかを議論する場として存在しています。

民衆のグローバリズム

秋本:WFSは、「中心を作らない」というコンセプトの組織論です。米の「ANSWER」(戦争と人種差別に反対する市民連合)のような大きな連合組織であれ、わずか数人でやっているグループであれ、国籍や規模には関係なく、対等平等な立場で議論を行います。WSFでは、あらゆる宣言や提言が尊重され、議論したことを活動現場に持ち帰り、生かすことが要請されています。

といっても、これだけ大きな運動ですから、切り盛りするための議論の場として「世界社会フォーラム国際評議会(WSF IC)」があり、これがWSFの実質的な核となっています。WSFの開催を呼びかけたアタック・フランスをはじめとして、ビア・カンペシーナ、クッチ(ブラジル労組のナショナルセンター)、韓国民主労総などで構成されています。そして、このWSF ICに結集したほとんどの団体が主体となって「社会運動団体宣言」のドラフトが提案されます。

しかしこの「社会運動団体宣言」はあくまで「たたき台」です。社会運動団体が提案する「たたき台」に対し、様々な組織・グループがアトランダムにどんどん再提案・意見表明を行い、それらを盛り込んで、全体の「宣言」を作り上げていきます。こうしたプロセスをアタックでは「参加型意志決定プロセス」と呼んでいます。昨年二月一五日の世界同時反戦行動と九月一三日のカンクンにおける第五回WTO閣僚会議への抗議行動の呼びかけは、ここにおいて決定されました。当面、世界の市民運動は、このWSFでの議論と行動提起を中心に動いていくことになるでしょう。

ブラジルからインドへ

編集部:アジアで初の開催だということですが。

秋本:今回開催地がインドになったのは、二つの理由があります。まず、米国によるイラクへの軍事侵攻が起こり、アフガニスタンも含めアラブ・中東地域が焦点となっているためです。もう一つは、ポルトアレグレ(ブラジル)でのWSFは、ラテンアメリカとヨーロッパからの参加者が多く、アジアからの参加者が少なかったためです。アジアからの参加者を増やすことが一つの目的です。

ですから、今回のWSFでは、@戦争反対、Aカースト制度などの社会的排除の問題、B帝国主義・軍国主義への反対、などが主要テーマとして重視されています。

それから、今回の特徴としては、WSFへの財団の助成が改めて大きな問題となるだろうと思われることです。前回まではフォード財団から五〇億jもの寄付を受け、批判されてきました。こうした企業系財団や西側財団への依存を完全に断ちきれないでいますが、こうした財政構造は第三世界のNGOが抱える大問題の一つであり、ここから脱却をはかることが大きな課題になっています。

また、昨年カンクンで行われたWTO閣僚理事会への反対運動の中で、フェアトレードの重要性が呼びかけられましたが、この方針は今回のWSFにも引き継がれます。南の国々の貧困な人々の自立を支えるための運動は、欧米中心に活発ですが、元々インドもそういう運動が活発な国です。今回は日本からもたくさんのフェアトレードの組織が参加するようです。 

小倉:具体的なスケジュールをみると、午前中には、チョムスキーやサミール・アミンらも出席する四〇〇〇人規模のパネルディスカッションが連日予定されており、昼の時間帯は、被爆者や少数民族、開発による犠牲者などの当事者による証言の時間があります。参加者たちが独自に企画するセミナーやワークショップは、八〇〇を越えます。夕方から夜にかけては、二万人規模の反戦集会やコンサートが予定されています。

また、これとは別に、反戦運動諸団体は、一八日にテントを立てて、丸一日かけて「どうやって世界的な反戦運動を作っていくか?」というテーマで徹底討論します。最終日の二一日は、閉会式を兼ねた集会とデモを行って閉幕となります。

反戦運動との関係でいえば、イラク開戦一周年にあたる三月二〇日の統一行動の取り組みや、世界規模でのブッシュ再選阻止、ブッシュ政権打倒をどのように運動として進めるかが、大きなテーマになると思います。

編集部:WSFが創り出した成果は何でしょうか?

秋本:WSFの最大の成果は、市民運動が世界的な同時性を持ったことです。市民運動のグローバリゼーションが大きく進んだことで、新自由主義への「対抗勢力」が初めて形成されました。例えば、イラク反戦運動の世界的広がりと同時的行動は、WSFの存在抜きでは考えられません。WSFは、世界的に共同歩調をとっていくための、ある種の作戦会議の役割を担いました。一昨年末から昨年にかけての世界統一行動をプロデュースしたといっても過言ではありません。このような世界同時とも言える反戦運動は歴史的にも存在しませんでしたし、大きな「対抗する力」を見せることができました。

同様に、昨年九月にカンクンで行われたWTO閣僚理事会に向けてどのような行動を積み上げていくかということも、WSFで議論されました。

今回のWSFでも、三月二〇日に予定されている世界反戦デーに向けての行動提起や調整が行われるでしょう。

このようにWSFは、グローバル化していく資本主義に対して世界規模のネットワークをグローバルに作っていく重要な会議になりつつあります。

民営化と闘うアジア労働運動

編集部:日本の参加グループはどのような企画を準備していますか?

秋本:日本のAPWSL(アジア太平洋労働者連帯会議)は、女性労働者の組織化の問題などを話し合うフォーラムを企画しています。

アタック・ジャパンは、「民営化と規制緩和は不可避なのか?」というタイトルで、ワークショップを予定しています。私たちがずっと労働問題を取り上げてきたのは、今の日本が抱える問題を最も象徴的に表現していると考えるからです。今回も民営化に反対する当事者である国労闘う闘争団が参加します。

「日本の労働者が民営化とどう闘ってきたのか?」という報告で終わるのではなく、海外の人とぶつかり合って、討論をして、違いを認識しあい、説明し合う作業のなかで本当の連帯が作られていくのではないかと思っています。

今年いよいよ台湾の国営鉄道の民営化が具体化されます。このため日本のJR資本が韓国に行き、台湾に行って民営化の手ほどきをしています。「どのように組合を懐柔して労働者を管理するか」というノウハウを教えているわけです。

つまり、日本の国鉄民営化の問題は、日本だけの問題ではなくて、今や東アジアの問題になっていることは明白なのです。そして現在の焦点は、台湾の国鉄民営化なのです。

そこで私たちは、「日本の国鉄闘争がなぜ負けているのか?負けてきた歴史をどう教訓化するか?」が重要だと考えました。戦闘的に闘っている韓国の国鉄労働者の闘いと、負けて弱体化している日本の経験とを、台湾の闘いに生かしていきたいと考えているわけです。日本の負けた歴史が、台湾の闘いに生かされれば、それはすごいことです。

福祉国家を目指すキャンペーンのコーディネーターをしているノルウェーの労働運動活動家であるワヒルさんから基調報告をしてもらいます。ワヒルさんには、「我々はどうして民営化に反対するか?」という点について、福祉という観点から「民営化の持つ暴力」や労働運動について話してもらいます。

またフランスの独立労組SUD―PTT(連帯・統一・民主)と南アの反民営化フォーラム(APF)の活動家からも報告を受けます。

小倉:アジア平和連合(APA)というアジア規模の反戦平和運動団体が、日本の窓口であるAPAジャパンと協力して、「軍隊とジェンダー」のテーマで、一〇〇〇人規模のセミナーを開きます。コーディネータをピープルズプラン研究所の笠原ひかるがつとめ、アジアの米軍基地を抱えている地域からの発言者の中には沖縄の高里鈴代さんも含まれています。反差別国際運動(IMADR)が四〇〇〇人規模で人身売買問題のパネルディスカッションを開き、日本からは武者小路公秀さんが参加します。その他、ピースボートが船上と併設される若者キャンプでのイベントを行い、原水協もワークショップ等で参加します。野宿者やセックスワーカーの支援運動をしている人たちも日本から参加し、発言する予定があります。

小倉:WSFは新しい運動と言われますが、そこで議論されている内容は、従来から指摘され議論されてきたことです。WSFでは、日本では少数派となってしまったマルクス主義的世界観や「グローバルな帝国主義・資本主義に反対する」といった言い方には誰も違和感を持ちません。

したがって、日本の左翼がWSFに注目してこなかった方が不思議なくらいです。日本では聞かれなくなってしまった「階級」や「搾取」という問題が、世界レベルでは実はホットな話題になっていることを再認識できます。

しかし、なぜ日本で反グローバリズムの運動が大きなうねりになっておらず、左翼が影響力を失ってしまったのかについては、考えておかねばなりません。

一つは、左翼運動が自己再生能力を作り出せず、世代交代に失敗したという問題です。これには、新左翼の内ゲバという「左翼の戦争責任論」も関係しているでしょうし、社・共という旧左翼の対立もあります。たとえば、日本の原水禁と原水協がこれまでのいきさつを越えて連携しながら反核運動を展開できない現実があり、こうした中で反核市民運動が、両方の運動体とフランクにつきあうのも困難です。つまり現場活動家が、そういった内部の調整で非常に消耗してしまったり、現場レベルではオープンに開きたいと思っていても、労働組合相互のヘゲモニー争いに巻き込まれて消耗してしまうという現実が見受けられます。

ただ、こういうどうにもならない現実や古い体質をリセットすることはできないので、これを乗り越える新しい力や勢力が、折り重なるように出てきて、古いものが脱皮を迫られるという風になっていくしかないと思います。新左翼は、ある種そういう運動だったのでしょうから、可能性がないわけではありませんが、まだ見えていません。

しかし世界レベルでみると、そういう新しい力が次々と生まれていますし、日本はアジアの中では、サミット・OECD加盟国であり、WTO・IMFの主要な出資国です。南北間の対立の中では、主犯格の国なのですから、この国の中で私たちが、どう政府や多国籍企業と闘うのか?について、また日米軍事同盟の問題も含めて、アジアの人々は非常に大きな関心を寄せています。

ですから、私たちはどのような宿題を持つべきかを考えて行くことがまず大切で、内向きな組織の縄張りやヘゲモニー争いをしているようでは、アジアの人々とつながることはできません。

そういう意味でもWSFに参加し、世界とアジアの変革の息吹の中でもう一度自分たちの姿を見直すきっかけにしたいと思います。

グローバルな民主主義

小倉:WSFのなかには、各国に窓口のようなものを作って欲しいという議論もあります。実際イタリア社会フォーラムのように国の名前を冠したフォーラムもいくつかありますし、私自身日本でWSF連絡会を呼びかけていますが、私はこれが日本の代表になることには反対しています。民衆の運動を代表するというのなら、その正当性や手続きが問題になります。したがって、複数あっていいと思います。

アタックが提唱するトービン税は、示唆に富むものですが、仮に成立したとしても、集めた税金を誰がどのように配分するのかという問題があります。「国連ではだめだ」という議論は既にあります。国を代表する人々を集めた国際組織の枠組みで、一国一票という民主主義では、納得できなくなっています。

さらには、意志決定の前提となるコミニュケーションの問題もあります。民主主義の前提はみんなが議論して決めるということです。十分納得する議論をするためには共通する言葉でしゃべらないといけません。現状の共通言語は英語ですから、第三世界の農民が自分たちの言葉で議論できる場というのは、保証されておらず、事実上コミニュケーションの外におかれています。

今回のインドでのWSFでも、言葉の問題が、最も重要な問題の一つになっています。多言語であるインドの相互の通訳、さらに仏語・スペイン語・英語・日本語・中国語・朝鮮語など外国語の通訳など、主催者にとってどうコミュニケーションを保証するかが、大きなテーマとなっています。

つまりWSFは、「もう一つの世界は可能だ」をスローガンにしていますが、まだその対案を出すほどには成熟していません。先進的で刺激的な実験は世界各地にありますが、例えば、サパティスタの運動を日本の大都市に適用できるかといえば、当然異なった取り組みにならざるを得ません。そもそも私は日本の現状を変革するという課題を担うとすれば、都市をどうするのかという問題を抜きに「もう一つの世界」は構想できないと思っています。

ですから、WSFに行けばその答があるのではなく、私たちがWSFに何を持っていけるかです。例えば東京や大阪でどういうオルタナティブを創れているか?という「おみやげ」を持っていって議論し、「おみやげ」すなわち宿題を持って帰って、その宿題をどうこなすかを考えていきたいと思います。

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