人民新聞オンライン

　本紙「新春特集」の市田良彦、生田武志氏の対談は面白かった。「革命」論議の「混乱」に拍車をかけた記事であった。「革命」概念の混乱は、昨夏の民主党「選挙革命」が火をつけた。菅副総理の「これは明治維新以来の民主『革命』だ」発言から、小沢幹事長は秘書逮捕事件で「検察との全面対決」、そして鳩山首相の「どうぞ戦ってください」談話へと続く。
　筆者は幕末・維新の文献資料や歴史書を乱読しているが、ある雑誌特集で歴史小説の大御所・司馬遼太郎と歴史研究の大家・井上清の対談を目にした。司馬は「あれは『革命』だったと思う」と言い、井上「さあ、あれは『革命』ですかねえ」とあいまいに返事している。両大家の対談がこれだから、「革命」論議が混乱するのは当然だ。
　民主連立政権が許容範囲一杯の社会福祉政策に力点をおくかぎり「革命」はおきないし、新政権は安定政権として持続するのではないか。
　問題は「左翼の立ち位置」が定まらないことだ。ソ連社会主義が「崩壊」した後、中国がアメリカと日本の資本主義を飲み込む時代に入っている。中国共産党はこれを「社会主義完成の過渡的形態」だと言っているそうだが、これも「革命」論議の混乱に拍車をかけている。このような混乱自体が「革命」なのかもしれない。（Ｆ）

　フォークゲリラがどうのとか、歌声喫茶がどうのという時代が日本にもあったらしいな。まだ「広場」があった頃だ。社会運動の場が歌を失うのはなんでか。いや、確かにいますけどね、ギターを抱えて「怒りの歌を歌う」とか言うオッチャンやら、「九条守ろう九条節」とかいう自作の演歌を歌い出すおっちゃんとか。でも何か違う。韓国のデモでは日本に比べてもまだ民衆歌謡が人びとのあいだに受け継がれているようにも思えましたが、一部の若者は斜めをむいて歌謡を無視してギターをかき鳴らしてもいたから、まぁそんなもんだよな、とも思う。
　僕などは７０年代生まれのせいか、ギリギリ記憶のどこかから藤圭子的な「歌」に感応するものが出てくる。かつて作家の五木寛之は藤圭子の歌を「演歌」ならぬ「怨歌」と称して、「怨歌は未組織労働者のインターナショナル」だとか書いています（『ゴキブリの歌』角川文庫）。いい話じゃないですか。
　歌というのは、声と言葉の間にある。誰かが「それらしい」言葉を吐いているとき、「やかましい！」という抗議の声が上がる。そこから運動が始まったら、それはもう歌です。歌を固い言葉に固着させずに、言葉と声の中間を泳ぐには、どこか官能的な言語能力がいる。言葉で現実と性交するような能力を取り戻すこと、僕の２０１０年の課題にします。（Ｏ）

　昨年12月18日の新聞。茨城で9人を殺傷した「金川被告『死刑』に笑み」を浮かべたという。「早く死刑にしてほしい」とも。奈良の少女殺人の被告、大阪の姉妹殺人の被告、大阪教育大附属池田小学校大量殺人の被告、いずれも「早く死刑になりたい」が口癖だった。
　マスコミは、被害者の家族の怒りを、これでもかこれでもかと報道し、犯人がいかに非道か強調する。金川被告は「蚊を殺すのと人を殺すのは同じ」と言ったとか、「自殺は痛そう」と言ったと述べるが、なぜ彼らがそこまで言うに至ったかを探ろうとしない。
　「死刑希望殺人」がなぜ増えているのか。昔は貧困が原因となった事件が多かった。永山則夫は、事件後「無知の涙」を流し、多くの理解者を得たが、「死刑」をなくすことなく「死刑」にされた。今の「死刑希望殺人犯」の多くは、自分の中の「怒り」が何なのかわかっていない。本人にもわかっていないのだから、マスコミにもわかるわけはないか。森川被告は、「ゲーム以外に、やりたいことはない」と言う。
　男は勝たねばならない。男は成功せねばならない、と言われ続けてきた男たちの、ゲームでなく現実世界で勝てない時の「死刑希望殺人」。これからも増えるだろう（Ａ）