2000年 10月25日
通巻 1058号

 種の伝播と在来種化は人間の移動と定住に基盤を置いてきた。例えば中国の王朝が滅びるとき、一族は種を持って逃れた。日本の在来種はこうした大陸の動乱期に渡ってきたものが多い。

 農村では貴重な在来種を門外不出としてきた。その例外は、嫁入り道具として在来種を持たせる古くからの習慣だった。京都の伝統野菜の種は、逆に嫁を出さず婿をとることによって成立した。

 最初に種が移動しはじめたのは、一万年前に中東から出発した小麦だった。採集生活から採種生活への転換は、蓄積という農業体系を人類にもたらした。この農業の歴史は、人間の「命を支える体系」と共に「欲望の体系」を生み出した。

 この「欲望の体系」の延長戦上にホットマネーがあり、遺伝子操作種子がある。栽培植物が持つ人間のエゴをむき出しにした性格を受け止め、何のために種を採るかが問われるのだろう。

 一ヵ所の冷蔵保管では、地球温暖化に適応できる種のダイナミズムを確保できず、ミサイルや地震によって消滅の危機がつきまとう。あらゆる地域に在来種を確保するためには、あらゆる地域で種をとり続ける運動が必要だ。この運動の広がりによってグローバルスタンダードに対抗する「移動と定住を基盤とする開かれた地域」を生み出していければと思う。    (I)

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