『岩井弼次―75年の足跡』

岩井会 編/創生社・3000円

2001年 11月25日
通巻 1094号

確固たる信念に裏打ちされた「勤労大衆への奉仕」

 大衆に奉仕する、大衆を信頼するという命題がある。
 大衆とは何か、大衆をどうとらえるのか、さらには信頼するというのはどういうことなのか、これらはすぐれて実践的課題であり、基礎となる信念の問題でもある。
 岩井弼次の生涯を貫くものは、確固たる信念に裏打ちされた「勤労大衆への奉仕」であり、すぐれた思想性にもとづく行動力であったといえよう。
 どこからこうした確固たる信念が生まれ、思想が醸し出され、実践行動する力が得られたのか。逆説かも知れないが大衆からの信頼が然らしめたと思われてならない。
 岩井弼次が共産主義思想に到達した時代は、まことに苛烈な時代、一言で言えば天皇制国体護持を柱とする帝国主義の成長、爛熟の時期であった。関東大震災のさなか、逃げまどう市民のかげで朝鮮人・社会主義者らの虐殺があり、昭和初期の3・15、4・16などの弾圧事件が相次いだ時期である。皇国皇民化がすすむ時世に、あえて荊の道を選んだ意思の強さには今さらながら畏敬の念を禁じえない。
 「岩井さんの残されたものを訪ね求め、その思想に学ぼうとするのは、彼の生涯を通じてこのような信念が持続され、生活と結びついていたと確信するからである。
 戦前、天皇制国家主義の暴虐のなかで闘いの火を燃やしつづけ、戦後動乱の時代をしたたかに生き抜いた諸活動のなかから、何かを、確かな遺産として、変革の時代を担う世代へ引き継がねばならない」(『しかばねをこえて』第2集「まえがき」)
 1989年の東欧・ソビエト社会主義体制の崩壊があり、WTO(世界貿易機関)加盟を契機に中国が「資本主義経済」の道を突き進むといった事態をうけて、岩井次世代の人々の間でも動揺がないとはいえないが、オルタナティブ(選択可能)が現実課題となった今こそ、岩井弼次の示した原則に忠実な生きた思想が、主体的基礎として要求されるのではなかろうか。
 岩井弼次が75歳の生涯を闘いのなかで終えて、はや32年が経つ。岩井精神を継承しようと誓った人々も、あるいは故人となり、多くは老境に差しかかっている。
 いまここで、もう一度岩井弼次の足跡を見つめなおすことで、次世代の闘いに何かを引き渡すことができるのではないか、そんな思いからこの資料は編まれた。
 岩井弼次は寡黙の人であり残された文言、記録は決して多くない。むしろ先生の影響を受けた人々の間で岩井精神の多くが語られ、実践のなかで生かされてきた、といっていい。
 そのような語り継がれるべき精神が、この1冊に込められていると思いたい。
(岩井会)
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《目次》
○戦前・戦後の活動―戦前の『医療社会化』運動/戦前の思い出と今後の医療について/新しい旗をかかげよ/民医連飛躍の年としよう/…
○中国訪問―中国の保健・医療・衛生について/人民に服務する医療…
○思い出―堀口恒次/水野進/岩本嚴/森下春次/小鹿原健二/豊田正義/上田等…
○手記/資料/略年譜…
▼上製四六版・300頁・頒価3000円(お申込みは人民新聞社まで)

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