政・業に甘く民に厳しい地方自治体財政再建計画

財政破綻の最大原因は
土地開発公社を
使ったバブル処理

原因にほうかむりし、住民に負担押しつけその場しのぎ

2001年 3月5日
通巻 1070号

 

 昨年12月、記者の居住地である兵庫県尼崎市で「行財政改善計画」が発表され、3月議会で審議中である。その中身は、保育料の大幅値上げ(最大87%)、小学校統廃合、市バス高齢者無料パスの年齢引き上げ(65才→70才)など、市民サービス低下、大幅負担増を強いる一方で、他市と比較しても高い市長退職金や議員期末手当には全く手を着けないというもので、保育所父母をはじめとした反対運動が起きている。
 堺市(大阪府)では、児童ホーム職員の全員首切りが発表され、猛烈な反対運動の成果で一旦は白紙撤回された。泉南市(大阪府)では、水道料金24.96%値上げが提案され、審議中である。これら職員(特に非正規職員)の解雇を伴う行政サービスの低下、市民負担増も、財政再建を理由に強行されようとしている。国の財政再建は、省庁再編でお茶を濁され、その目処さえ立たない情況だが、地方自治体においては、公債費負担比率(借金比率)15%以上の自治体が全体の六割に達し、「財政再建団体への転落」との危機感が叫ばれ、生活により密着した領域を切り捨てる「財政再建」が着実に実施されている。今地方自治体で「財政再建」の名の下で何が行われようとしているのか また、その原因は何なのか 探ってみる。

目 次 

尼崎市「第一次行財政改善計画」

大阪府「財政再建プログラム」

財政再建団体転落の元凶
=土地開発公社/福岡県赤池町の場合

赤池町にみる財政再建団体化の経緯
土地開発公社の潜在的債務
旧自治省の責任/土地の流動化・
  不良債権処理としての公社を悪用

土地開発公社の現状

 

 

 

尼崎市「第一次行財政改善計画」


 尼崎市(宮田市長)は、「危機的な財政状況を改善するため」として、「第一次行財政改善計画」を策定。3年間で累計52億円、2001年単年度で21億円の経費削減を行うとしている。経費削減のため、先述の諸施策の他、職員260人削減(3ヵ年)、大型ゴミ有料化(10キロ以下300円を基本にした従量制)、老人医療費助成削減(支給要件としての所得制限額を段階的に県基準と同額とする)、児童ホーム有料化などが予定されている。
 これほどの市民への負担を求めながら、市長・議員報酬には全く手をつけず、わずか4年間で3500万円の市長退職金、透明性の薄い交際費も、削減対象となっていない。さらに問題なのは、公共事業の見直しが一切なされていないことである。赤字の大きな要因である公共工事については事業の中止を含む是非の検討がなされることなく、以前から問題が指摘されてきた入札制度の改善=談合の排除への言及はない。政・業へは甘く、民には厳しい内容と断じて差し支えない。

 

 

大阪府「財政再建プログラム」

 大阪府は1998年、「国際化の中での生き残りを図る」として「大阪経済の再建と財政の再建」のための指針を発表した。概要は、(1)国際競争に勝ち、魅力ある都市を作るためのふさわしいインフラ(空港・港湾・国際会議場・ニュータウン)を整備する。(2)しかし財源がないので、府民負担の増大と府職員のリストラ等で賄う、(3)インフラ整備により景気が浮揚し税収の伸びによって、府民サービスを回復する、というシナリオである。
 しかし、結果は惨憺たるものである。インフラ整備による不経済の活性化はなされず、関西空港をはじめ、公共事業の見直しによる中止はゼロ。しかも中小企業への発注率が48%(全国平均72%)と全国最下位で、大企業中心の発注となっており、中小企業が多い都市にもかかわらず、施策が逆転している。つまり、府民負担の増大以外の成果は出ていないのである。
 大阪府は、私学助成費(府単独分)・医療費公費負担事業費(老人・障害者・母子家庭・乳幼児)、府立高校20校廃止、高校入学金・授業料大幅値上げ、学童事業補助、共同保育所への補助金をことごとくカットし、府職員も10年間で7000人リストラするという。

 

 

財政再建団体転落の元凶
=土地開発公社/福岡県赤池町の場合

土地開発公社の土地保有状況(1996年度末)※カッコ内の数値は、保有面積に占める割合

〔資料〕日本経済新聞調査結果より(1997.10.4)

  保有面積(ha) 10年以上保有分
 

うち10年

以上(%)

取得金額(億円) 累積利子(億円)
都道府県 7,690.2 630.6(8.2) 346.9 337.9
政令市 1,406.5 61.2(0.4) 412.6 281.0

3大都市圏の内

30万人以上の市

429.7 16.5(3.8) 458.5 407.4
総合計 9,526.4 708.3(7.4) 1218.0 1,026.3


 「財政再建団体」―自治体の財政危機が表面化する中、この言葉が頻繁に登場する。自力で赤字を解消できず、国の管理下に入り、財政再建を進めていく自治体のことだ。現在、再建団体の指定を受けているのは福岡県の赤池町。再建団体になると、自治体行政は、どうなるのか。
 赤池町が自治省に財政再建団体の指定を申し出たのは92年1月。土地開発公社や町立病院の赤字を町の一般会計で引き受け、赤字が膨大に増えたためだ。同年2月に町は財政再建計画を決め、自治省の承認を受けた。92年度から2002年度までの12年間で、約32億円の累積赤字の解消を目指していく内容だ。
 財政再建団体になり、確かに累積赤字は削減された。91年度に約32億円だった赤字は、97年度には約11.4億円となり、6年間で約20億円が削減された。町も、当初の再建計画より2年早く、2000年度末には、再建が完了するとみている。

 

 

赤池町にみる財政再建団体化の経緯


 赤池町が準用再建団体申請に至った原因を整理すると、第一に90年度の赤字額が4億円弱に達し、赤字比率がすでに17%近くに達する財政状況となっていたことがあげられる。
 準用再建団体申請の直接的な原因となったのは、第二に土地開発公社に関する債務・債権を普通会計で引き受けたことにある。土地開発公社解散に伴い、赤池町の普通会計で負担すべき債務は21億円に達した。第三は、土地開発公社の赤字引き受けと同質の問題である病院会計の累積債務5億円弱を解消するために、91年度普通会計で求められる補助金等の額が6.5億円弱に達したことによる。

【財政再建団体】 …1955年に地方財政再建促進特別措置法が制定され、54年度末で赤字を出し、法の適用を受けた自治体を指す。今使われている財政再建団体は法を準用した「財政再建準用団体」が正式名称。市町村の場合、実質収支比率で赤字が20%を超えると、再建団体にならない限り、起債を制限される。

 各地方自治体では、財政の急速な悪化に伴い財政健全化へのさまざまな努力が展開されている。その際、重要なことは、普通会計だけでなく、第三セクター、土地開発公社等の外郭組織のうち最終的に地方財政が負担する必要が生じる潜在的債務が、大きな要因となっていることに注意が必要だ。

 

 

土地開発公社の潜在的債務

 土地開発公社とは、地方自治体が単独または共同して出資、設立した法人で、学校や公園、工業団地や道路の建設などのために必要な公有地となるべき土地を先行して取得する目的で設けられた組織体である。公社による土地の先行取得は、銀行などからの借入資金を主体に実施され、地方自治体が具体的な事業に着手する段階で、普通会計などから代金を支払い、土地を公社から取得する仕組みである。
 こうした仕組みの中で、公社に先行取得した大量の土地が眠り、その結果、土地取得のために借り入れた資金が利払いも含めて累増し、公社の資金繰りが悪化、最終的に地方自治体の財政に影響を及ぼすのである。
 これが、土地開発公社の取得した土地が塩漬けとなり、その債務が利払いと共に拡大することで地方財政全体を悪化させる構造である。こうした構造は、前述の赤池町に特有の問題ではなく、首都圏や近畿圏など都市部も含め多くの地方自治体が抱えている問題である。
 取得後の時間の経過によって利払いは累増し、最終的に普通会計などの負担となる保有価格は上昇する。地方自治体が公社から土地を買い取る段階では議会承認等が必要とされても、公社自体が土地先行取得を行う場合には、事前報告や説明の行われない場合が多いため、恣意的で無責任になりやすい。

 

 

旧自治省の責任/土地の流動化・
  不良債権処理としての公社を悪用

 今は隠れた赤字である土地開発公社の不健全化は、政府・自治省が誘導していった面を見落としてはならない。
 自治省により土地開発公社の機能が特に強化されたのは、バブル経済崩壊後、土地の流動化策や不良債権処理が求められた時期である。
 地方財政審議会の「91年度の地方財政に対する意見書」において、地方単独事業による生活密着型社会資本整備の積極的推進が指摘されたことを受け、旧自治省は、土地開発公社の一層の活用を求めた。その際、地方債の起債制限比率の弾力化、用地取得資金を積み立てるための土地開発基金の拡充も求めたのである。 さらに、自治省は93年度以降から土地開発公社の事業対象を拡大させている。土地の流動化を進めるために、従来は道路や公園などの公共事業用地の買い上げを主体としてきた先行取得を、商業用地やオフィス用地としての土地の買い上げを認めるほか、国鉄清算事業団用地や生産緑地指定にはならなかった市街化区域内農用地なども対象としている。
 また、市街地開発事業用地の先行取得は、従来、都道府県と政令指定都市の公社にのみ認められてきたが、そのほかの公社にも認める措置を行っている。さらに、95年9月の経済対策で、土地取引の活性化や不良債権処理の促進のため、一段の土地開発公社事業の拡大を求めたのである。

 


土地開発公社の現状

 

 以上のように、バブル経済崩壊後における公共事業の拡大、土地の流動化、不良債権処理なども視野に入れた地方自治体の土地開発公社悪用による公共用地先行取得の活発化が、財政危機を生み出した大きな要因である。先行取得した土地の事業化が実現せず、塩漬け状態となり、開発公社の財務状況を圧迫しているのである。公社の土地取得のための資金調達は、民間金融機関等からの借入が主体となるため、取得した土地が地方自治体によって事業化されない場合には、借入金の金利負担が累積する。最終的には、事業化できず赤池町の例に見られるような土地開発公社の解散などによって地方自治体は累積した債務のコストを負担することになるため、地方財政を破綻に導いているのである。
 名古屋市の先行取得による未利用地の資産価値減少による損失が1200億円に達すること、大阪府土地開発公社の存続にむけ無利子融資の実施が不可欠となったこと、山梨県行政改革委員会行政運営等改革部会による土地開発公社損切り処理の必要性の指摘、川崎市の民間売却努力と塩漬け用地の用途変更など、全国の地方自治体が同様の問題を抱えている。
 地方財政の危機は、単なる歳出の削減だけで克服できる状況にはない。政府・自治省を含む財政破綻の原因と責任の所在を明確化することからしか、解決の道はない。赤字のつけを市民負担に転嫁する「行財政健全化計画」は、非難の対象となって当然であるし、実体を伴った分権化の流れには繋がらない。

 


> 参考記事→尼崎市会予算案否決 「行財政改善計画」見直し迫られる (1071号)

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