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2016/3/14更新

超監視社会へのインフラ整備
個人情報大量流出避けられず経済的損失も

プライバシーアクション代表 共通番号いらないネット世話人 白石 孝さん

マイナンバー制度の運用が始まった。法案審議の際、2〜4千億円とされていた導入経費は、地方自治体の持ち出し分=3千億円、民間の経費も含めると、1兆円を超える巨大公共投資となる。「社会保障と税の一体改革」という当初の目的は、「IT国家戦略」に変質し、庶民のふところを狙った「課税の適正化」となる。「いらんわマイナンバー討論・交流集会」(2/22大阪)での講演要旨を紹介する。(文責・編集部)

始まった「強制付番」制度

番号制度とカード(国家身分証制度)は、世界中にありますが、目的や運用実態は大きく違います。そこで日本のマイナンバー制度の特徴を整理すると、@拒否できない強制付番制度であり、A目的を限定せず官民共通で幅広く利用する、という特徴があります。2002年、住基ネットの運用が始まりましたが、この住民番号制度を引き継ぎ、官民共通で幅広く利用する制度へと大きく変化しました。住民登録=番号付与ですから、韓国・北欧諸国・シンガポール・マレーシアなどと同様の「強制付番制度」と言えます。

このため、昨年10月から配布されている番号通知カードの受け取りを拒否しても、番号そのものは付けられています。この番号から逃れるには、@住民登録を返上する、A「番号を付けるな」という訴訟を起こす、しかありません。@は、既に住民登録している人が返上するのは、現実的ではありません。Aは、判例があります。大阪高裁は、住基ネットについて「違憲」との判決を出し、市側もこの判決を受け入れて確定したので、住民登録はしているが番号は付かないという住民がいます。昨年12月に提訴された「マイナンバー」全国訴訟も、付番されたマイナンバーの消去を求めた同様の裁判と言えます。

民間利用で高まるデータ流出リスク

これに対し、番号制度の目的を税や社会保障分野に限定した諸国があります。ドイツ、イタリア、オーストラリアは納税分野に限定しており、、カナダは当初は民間利用を認めていましたが、2000年からは民間利用を禁止しています。またオーストラリア政府は、1980年代に国民総背番号制度を国会に提出しましたが、国会で否決されたために撤回し、納税に限定した番号制度を導入しました。

昨年、日本の税理士グループによる現地調査でも、番号の利用分野は税と社会保障分野に限定されており、カードも発行していません。また、選択権(番号を利用しない権利)が保障されており、利用しなかったとしても適正な納税者として認められています。税の捕捉率も高いことがわかっています。

こうした諸国と比べて日本の番号制度は際だった特徴があります。日本の番号制度は、住民登録・介護保険・児童扶養手当などを扱う各自治体が持つデータと、銀行・健保組合・証券会社や生保企業など民間団体が持つ個人データが、名前とマイナンバーで結び付けられることになります。

日本政府は、情報連携に「符号」を入れて変換するので、「全ての個人情報が芋づる式につながることはない」としていますが、信用できません。利用分野が広がれば広がるほどデータ流出のリスクは高まり、同時に詐欺など経済的損失も大きくなるのは明白です。

政府はさまざまな対策を講じてはいますが、長期にわたって完璧な防御を維持することは不可能で、5〜10年後に大きな問題が起きることは避けられないでしょう。

韓国や米国は先行事例ですが、データの大量流出や成りすましによる詐欺被害など、深刻な問題が起きています。

到来する超監視社会

身分証カードについて世界を見ると、@義務制、A選択制、Bなしという3種があります。@の典型例は韓国です。軍事クーデターで政権を握った朴正煕政権が「北からのスパイを摘発するため」として導入。1997年まで常時携帯義務を課しました。国防と治安管理のための制度です。他にも国内に多数の人種・宗教・民族が混ざり合っている国では、個人を識別するためとしてカードを持たせるという場合があります。

ワンカード化そして義務化へ

日本は、現在A選択制ですが、義務制に向かう危険な兆候があります。昨年5月、自民党は「マイナンバー制度の利活用推進ロードマップ案」を発表。6月の閣議で政府方針に格上げされました。同案では、「マイナンバーカードの全員所持」が目標として明記されています。2017年3月までに2500万枚、19年の3月までに8700万枚のカード発行を目指し、在留外国人を含めて全住民の7割にカードを持たせることを目標にしています。

さらに2018年前後には、マイナンバーカードに埋め込まれたICチップ全領域を活用して、免許証・健康保険証、民間のキャッシュカードやポイントカードの機能を併せ持たせた「ワンカード化構想」が既に始動しています。こうなると、カードを持たずに社会生活を営むことはほぼ不可能になり、全員所持となりますし、その時点で「義務化法案」が出されると予想しています。

2020年東京オリンピックが、カード拡大の着地点とされ、カード不所持者に対し「入場規制」が行われます。入場券の他に本人確認カードを所持しない人は、テロリストおよび関係者とみなして入場を拒否するという構想です。

ただし政府は、「生体認証」を併用することも検討しています。カードがなくても指紋や顔認証によって個人が確認されれば、入場できるというものです。既に全国の自治体窓口へは、顔認証装置の導入が始まっています。

ちなみに、マイナンバーカード申請時に提出した顔写真は、15年間保存されることになっています。監視カメラがあちこちに設置され、顔認証技術の開発も急ピッチで進んでいます。こうして収集された顔写真データが、将来警察にも共有され、不審人物の割り出しに活用されることも想定されます。マイナンバーカードは、管理・監視社会にむけた基盤となる道具として利用される可能性が高いと思っています。

マイナンバー制度の本質とは

マイナンバー制度は、@個人情報の大量流出による経済的損失に加え、A超監視管理社会に道を開くという危険性があり、それは他国と比べて際だっています。例えばスエーデンやデンマークは、福祉国家のためという目的が明確です。全ての人が福祉・保健・教育を公平に享受するための財源として税金徴収が合意され、番号制度が受け入れられています。このため、痛税感は日本よりも低く、権利と義務が公正に機能していると言えます。

しかし今の日本政府は、福祉国家を目指していません。小さな政府で市場原理主義に基づく競争社会という方向です。番号制度を肯定しうる唯一の大義名分である福祉国家をめざさない以上、番号制度の真の目的とは、@民間企業の利益に資する、A国家による管理・監視の道具でしかない、ことがはっきりしてきています。これが、日本のマイナンバー制度の特徴であり本質です。

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