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2015/10/20更新

フィリピンから現代世界を見てみれば@

私たちは全ての帝国主義に抵抗する

弁護士・人権団体「カイサカ」委員長バージニア・ラサ・スアレス

10月下旬にフィリピン・セブ島を訪れた。地域の貧困・災害問題への対応から、新自由主義に反対し国際平和活動にも取り組む人権団体「カイサカ」との交流のためだ。@米兵によるジェニファー・ロードさん殺害事件から観た、Aフィリピン・米国政府との新協定(EDCA)の問題点を学ぶフォーラムに参加したので、概括して報告する。なお今後、フィリピン現地からの報告を掲載する予定だ。(編集部・ラボルテ)

米兵による殺人事件

昨年10月11日に、美容師ジェニファー・ロードさん(当時26歳)が米海兵隊員ペンバートン被告(当時19歳)によって殺害されました。米海兵隊員は、彼女を4軒ほどのバーへ連れ回したあとに、脅迫してモーテルへと連れていきました。ロードさんがトランスジェンダーであることに気づいたペンバートン氏は逆上し、モーテル内でロードさんを殺害しました。

フィリピンでは、年間20万件以上、犯罪が起きていますが、この事件は他の犯罪と絶対的な違いがあります。それは米兵が関わっていることです。

ペンバートン被告は、米兵であったために、フィリピン当局ではなくVFA(訪問米軍地位協定)に基づいて米国政府の保護を受けました。また、事件に至るまでの証言を関係者から得ることは難しく、ロードさんの母親には「訴訟を起こす必要はない。金銭和解に応じてほしい」と、米軍側の関係者より裁判所の外側から提案されました。その後、約2100万ペソ(約5400万円)での司法取引も提案されています。

母親はこうした提案を全て断っており、「ジェニファーを失ってからどれだけつらい思いをしているか。娘が家に帰ってくることはない」「抱きしめることも、この手でふれることもできない」と話しています。

この事件の加害者を裁き、VFAを解消しなければ、これからも同じ事件が起きるでしょう。ロードさんが殺害されて1年になります。私たちがこの問題に取り組むのは、亡くなったロードさんのためだけではありません。あなたやあなたの友人が同じ被害をこうむらないためにも、さまざまな人たちに呼びかけないといけません。

断ち切れない米国支配

EDCA(防衛協力強化協定/14年締結)についてお話しします。EDCAが締結される以前の協定として、VFA(訪問米軍地位協定/98年締結)があり、それ以前のものとしては、VFA・EDCAの根拠とされているMDT(米比相互防衛条約/51年締結)があります。VFAは、法律ではなく行政的協定だとして、議会の同意を得ることなく実効されました。また最高裁も、VFAを紛争事案とせず黙認したのです。外国軍の活動を禁ずる私たちの憲法は、これを認めるでしょうか。このVFAが締結されたことによって、約20年近く、私たちの権利は、米軍と米兵によって侵害されてきました。例えば、ジェニファー・ロード事件のように、どのように米軍が犯罪に関わってきたか、明らかだと思います。

MDTは、第二次世界大戦後にフィリピンが主権回復したあとも米軍基地を置く根拠となった条約です。88年に外国軍の活動禁止が盛り込まれた新憲法が制定されましたが、91年のクラーク空軍基地撤収後も、米軍との関係が書類上継続することとなりました。その後に、MDTを基にして国会の批准を必要としないVFAが締結されることとなります。

VFAは、フィリピン国内での米軍の存在を認め、米兵犯罪の裁判権は「フィリピン政府の要請があれば、米国の国益に反しないと判断した場合のみフィリピン政府に裁判権を認める」など、主権侵害の強い協定です。これによって、人々は暴力をはじめとした被害を受け続けてきました。VFAのせいで、政府は数々の犯罪を法律で裁くことができなかった。VFAは多くの人々や国会議員から数々の問題提起がなされてきましたが、14年にフィリピン政府と米国は、国会の同意を必要としない新たな「協定」であるEDCAを締結しました。

新協定がもたらすもの

EDCAとは、米国がフィリピン国内、ルソン(北部)・ビサヤス(中部)・ミンダナオ(南部)のどこにでも基地や施設を建設、部隊を展開することを認める協定です。EDCA締結の理由として、91年にクラーク空軍基地などが閉鎖されたことがあります。また、フィリピン軍基地や政府施設の使用も可能です。明文化はされていませんが、EDCAを根拠に、米軍はフィリピン軍そのものを利用するでしょう。

フィリピン訪問記

セブ島の露天商解体と「浄化」(ビューティフリケーション)

編集部 脇浜 義明

セブ市議会で露天商の市場が解体された問題で公聴会があり、我々が世話になった人権団体「カイサカ」のコーディネーターが証言することになるというので、傍聴に行った。

露天商追放運動は、ビューティフリケーション(西成地区のジェントリフィケーションと同じ再開発手法)と呼ばれる。露店(兼住居)を解体、更地にして民間資本に売却し、コンドミニアムや百貨店を建設するという再開発手法である。

日本でも、戦後が終わり復興期に入ったとき、闇市や「不法」占拠バラックの解体と近代的都市建設が同じ手法で行われた。震災のときも同じ手法で貧困地区が一掃され、災害資本主義が実行された。災害がないドヤ街撤去では、人為的災害、つまり火事があった。大都市三宮の駅前は、私が学生時代、闇市の名残の「ジャンジャン市場」という貧乏人向けの露店マーケットがあった。ある晩不思議にもそこが火事になり、その翌朝警察と神戸市役所が綱を張って立ち入り禁止として、その後都市計画建設が始まり、現在のような流行の最先端をいく繁華街となった。

カイサカの活動家にその話をすると、セブ島も同じように不審火事を契機に解体の出発点となったという。

火事と強制排除

14年1月11日、ウォーリック・バラックス(米軍基地宿舎だった)地区のカーボン・マーケットという露店街が原因不明の火事となり、240露店(兼住宅)が焼け落ち、残ったのは24店舗だけだった。火事の余韻が消えないときに、市役人と議会議長が解体チームを連れてやってきて、事前通知もなく、被災者が建てた仮小屋解体を命令。市役所は焼け跡を立ち入り禁止として、焼け残った24露店の店主の立ち入りも認めなかった。片づけなどで店に入りたい場合は、保証金として5万ペソ(約13万円)を払えと言われた。3月3日、露店商人たちが記者会見で市役所の蛮行を訴えようとしたとき、SWATや地区(バランガイ)警察が暴力で阻止、多くの怪我人が出た。

カーボン・マーケットを解体した市役所は、ビューティフィリケーション(地域美化)として、民間土地開発業者に土地を売り、近代的ビルのデパートや中産階級用の公営住宅を建てる予定で、そこには外国資本の参入も予定しているという。一方、追い出された露店商人は、29`離れた電気も水道もないブドラーンという山地へ追いやられる。

これに対し、露店商人たちは「セブ市露店商人連合」を結成して闘いを継続、貧しい市民も安く買い物できる露店市場の継続、あるいは移転先を元々の生活圏の近くにせよと、彼らの闘いを支援している。もちろん、「カイサカ」の活動家たちは彼らを支援している。公聴会後、露店商人の指導者のおばさんを紹介してくれ、私たちも励ましの言葉を述べて、握手を交わした。

なぜなら、米国政府は財政危機の下にあるからです。一例を言えば、08年の米国の軍事費は中国の軍事費の6倍、フィリピンの国内総生産の6年分に当たります。米国の軍事費はとても巨大です。VFA・EDCAは「中国に対する抑止力のため」と言われていますが、一方で米国の財政は「仮想敵国」である中国からの巨額の対外債務で支えられているのです。

米国は私たちを利用するだけで、助けてはくれないのです。VFA・EDCAを通してフィリピン政府が誰の利益を念頭に置いているのか、よく理解できます。私たちが得られるものは人権侵害でしかありません。

理解すべきことは、米国は自身の帝国主義的な利益のために行動しているということです。91年以前、アジア最大の軍事基地はフィリピン国内にありました。現在、アジアで最大の米軍基地は日本と韓国にあります。また、シンガポールやオーストラリアにも展開されています。

近年では、自衛隊がフィリピン国内で活動しています。なぜか?それは、EDCAが、米国を対象にしているだけでなく、米国との共同軍事演習を繰り返している日本の軍隊も対象としているからです。フィリピン国内での軍事演習に参加する米兵の多くは日本国内の基地を拠点としています。日本政府もフィリピン国内での軍事的展開を模索しており、「米国政府と日本政府によるフィリピンの共同利用」という帝国主義的な文脈にあります。

米国は第二次世界大戦前も、日本の占領期を終えた後も、口実を見つけてはフィリピンへ「戻って」きます。今も続いていますが、「それがフィリピンのため」という根拠はありません。例えば、中国との問題で言えば、中国はフィリピン領土を不法占拠していますが、米国が無視し続けることによって「平和的」に占拠し続けています。

最後に言いたいことは、「私たちは全ての帝国主義に抵抗する」ということです。中国がフィリピンに侵略してくるなら、私たちは中国に抗います。米国がフィリピンを支配するなら、私たちは米国の支配に抗います。日本が帝国主義国家に戻るのならば、私たちは日本の帝国主義に抗います。私たちは自分たちの力で自分を守ることができます。

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