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2015/10/9更新

安保法制成立で勢いづく軍需産業
「死の商人国家」への歩み進める安倍政権と経団連

安保法制成立直前の9月15日、経団連は「防衛装備品の海外移転は国家戦略として推進すべきである」とする「防衛産業政策の実行に向けた提言」を発表した。安保法案の「真の目的とは、安全保障ではなく、経団連の金儲けなんです」という山本太郎参議の指摘(7月19日、NHK『日曜討論』)は、的を得た指摘だったといえる。

三菱重工を筆頭とする日本の軍需産業は、安倍政権下で飛躍のきっかけを掴み、アベノミクスを支える柱となる勢いだ。ストックホルム国際平和研究所が毎年出している軍需企業トップ100ランキングの最新版(2014年12月発表)では、三菱重工業(27位)、三菱電機(68位)、川崎重工業(75位)、NEC(93位)がランクインしており、現在、アジア諸国やオーストリアへの兵器売り込みも進行中なので、日本の軍需産業は確実に国際社会で存在感を増しつつある。安保法案成立後、軍需産業はどのような展望を築きつつあるのか?(編集部・山田)

国際デビューとなった「ユーロサトリ」

昨年6月、パリで兵器・防災設備展「ユーロサトリ」が開催され、三菱重工、東芝など大手も参加し13社が出展。初めて設けられた日本パビリオンでは、陸上自衛隊も使用する臨時に橋を架けることができる車両と地雷探知機のほか、新型8輪装甲車の模型を展示(三菱重工)、気象観測レーダー、夜間用レンズ、救命具などとともに戦車エンジン(パネル)、空対空小型標的機なども展示された。

日本の軍需産業は、憲法9条の制約から長らく武器禁輸政策下にあったが、安倍政権が昨年4月に武器輸出三原則を撤廃したのを機に、防衛装備品の積極輸出方針に乗り出しており、ユーロサトリは、実質的な「国際デビュー」となった。

サトリは陸戦兵器、セキュリティなどの見本市であり、警察や国境警備隊向けの装備も多数展示されている。

出展した各社は「将来的に(装備品輸出に向けた)道が開けてくるので、市場調査の意味で来た」(日立製作所)、「まだ様子見の段階」(三菱重工)などと話した。(共同通信)

出展にあたっては防衛省が音頭を取り、武田良太防衛副大臣も視察に訪れており、政権と兵器企業の協調を隠そうともしていない。同副大臣は、紛争助長につながるのではとの懸念に「新たな防衛装備移転三原則でしっかりした基準と歯止めがなされており、心配には及ばない」と話したという。安倍首相と同様、信頼に足る政治家の安心できる(!?)コメントである。

経団連の主流占める軍需企業

兵器輸出の動きは、経団連をあげての取り組みである。兵器製造企業は、経団連の主要メンバーであり、原発メーカーでもある。福島事故で原発部門の展望が暗転した後、業績回復をめざして、安倍政権成立を好機として成長の足場を構築してきた。経団連による「防衛産業政策の実行に向けた提言」(9月15日発表)は、兵器企業が安保法案成立後の飛躍をかけた道標といえる。内容を紹介する。

軍需産業の利益追求が
世界の紛争を拡大・長期化させている

ストックホルム国際平和研究所のホームページに武器の輸出・輸入のデータベースが掲載されている。最大の輸出国はアメリカで、次がロシア。これら2国が大きく、あとはずいぶん離れて中国・ドイツ・フランス・イギリスと続いている。最大の輸入国はインドで抜群に大きく、あとはサウジアラビア・中国・UAE・パキスタンと続いている。日本は22位(ただし、2010〜14年の平均値)。

「主な軍事製品」を見ると、上位は航空・ミサイル・宇宙・情報関係で占められている。宇宙(人工衛星)から地球を見張り、世界中のどこでもミサイルや戦闘機で奇襲する巨大システムの構築が、アメリカが進める戦争のやり方・現代の戦争のようである。当然のことながら、これにはばく大なカネがかかり、これをやっている企業は大儲けできる。

大儲けしている企業は、技術開発と製造設備への投資がばく大になっているはずである。そういう企業は、世界中が平和になったら、投資の回収ができなくなって大きな損失を被ることになる。そのため、世界のどこかで戦争・紛争・挑発が起こったり、続いたりすることが企業の利益につながっている。そのような企業がカネの力を使って、軍隊や政府に対して大きな発言権を持っていることが、紛争を拡大・長期化させている。

日本の軍需企業トップ10

三菱重工業はダントツの首位になっているが、主にF-35Aの米国企業による製造への下請け生産業務委託や、ヘリコプター、戦車、護衛艦、新空対艦誘導弾、魚雷など、錚々たる品揃えである。米国やフランスといった諸外国の軍需産業に比べれば、これらの企業の兵器部門の売上高に占めるシェアは小さく、三菱重工でも9%に過ぎない(トップのロッキード・マーティンは78%)。

これは武器輸出がこれまで原則禁止となっていたことが影響している。したがって、安保法制が成立した現在は、これら財閥系企業の売上高における兵器のシェアは拡大していくことになるのだろう。

「防衛装備品の海外移転は国家戦略として推進すべきである」とする同提言は、10月に発足する「防衛装備庁」(後述)への大きな期待を表明し、「装備品の運用、教育・訓練等の提供なども行う必要がある」としている。他国への兵器売り込みにあたっては、軍事訓練サービスも同時に提供すべきだ、との提言だ。

実際、昨年4月に防衛装備移転三原則が閣議決定されて以降、日本と欧米やアジアの諸国などとの間で防衛装備・技術協力に関する協議が、大きく進展している。その一つが、三菱重工や川崎重工がつくる最新鋭の潜水艦だ。オーストラリア海軍は、新型潜水艦の導入を決め「日本との共同開発」を検討している。10年計画で12隻を整備する予定で、総額500億豪ドル(約4兆6000億円)という予算は、日本の1年分の防衛予算に匹敵する巨大プロジェクトだ。

今年5月には、中谷元防衛相がアンドリュース豪国防相との電話会談で「(オーストラリアの)潜水艦発注手続きへの参加に前向き」と表明。6月に訪日したアンドリュース国防相と安倍総理は、会談で「南シナ海での中国による岩礁埋め立て問題を平和裏に解決するため、規範に基づいた国際秩序の維持が重要」との認識で一致。「潜水艦共同開発」についても協議が行われ、国防相は、その後、海上自衛隊の最新鋭潜水艦「そうりゅう」型を建造する神戸市の三菱重工と川崎重工の造船所を視察した。

また、インドが導入を検討しているUS─2大型飛行艇(新明和工業)は、15機導入予定で総額1650億円の商談だ。同機については、インドネシアも導入を検討しており、今後中国の海洋進出を警戒するアジア諸国への売り込みが期待できる。

こうした兵器売り込みに一役買っているのが、「能力構築支援事業」だ。日本は2004年以来、米国・インドと協力して東南アジア諸国の軍隊の能力向上に協力。軍人の訓練・研修などを提供してきた。名目上は「人道支援、PKO等に関する人材育成」と謳われているが、実際は、軍事力強化に直結する教育訓練だ。たとえば、ベトナムに対して海上自衛隊による海軍潜水艦要員の訓練・研修を行ったが、インドが繰艦・運用訓練を行い、日本が潜水衛生学研修や救難訓練などを分担した。先述したインドネシアへの飛行艇売り込みも、こうした支援事業が一役買っている。

ほかにも、「開発」途上国を対象に、武器購入資金を低金利で貸し出すほか、日本政府が自国の軍需企業から武器を買い取り、相手国に贈与する援助制度も創設する。防衛省はこの武器援助を通常のODAとは別枠で運用する計画で、特殊法人を通して「開発」途上国や日本の兵器関連企業への直接の資金援助を行うという。

こうした政府の手厚い支援の見返りに、軍需産業には多くの防衛官僚、自衛隊幹部が天下りしている。「安全保障」という大義名分が、軍需企業、防衛省、政治家の金儲けの「大きなツール」としても使われている。

「防衛装備庁」の新設

10月1日、防衛装備庁が発足した。自衛隊装備品の開発から取得、維持まで一元的に管理する同庁は、人員1800人、予算規模は、1兆5千億円の直接契約に加えて、陸海空自衛隊が地方で調達する装備を合わせると約2兆円。防衛省全体の4割を占める巨大官庁が誕生したことになる。初代長官には、防衛省の渡辺秀明技術研究本部長(60)が就任した。渡辺氏は79年に防衛庁に入庁し、一貫して防衛装備品の技術研究分野を歩んできた。

さらに同庁は、「防衛装備移転三原則に基づく輸出や国際的な共同開発を推進する」ことも目的としている。つまり、武器輸出や国際的な共同開発の窓口・許認可も担うことになる。

安保法案成立で、自衛隊は地球規模での米軍の戦争に協力することになった。米軍との協力関係は、米軍と友好関係を結ぶ諸国との協力にも道を開いた。防衛装備庁は、こうした軍事的な協力関係を武器の分野でも広げ、武器の輸出や共同開発・生産を担うために、国内の軍需産業を海外に売り込んだり、海外の軍需産業と結びつけるための中心官庁となる。

昨年4月に成立した「防衛装備移転三原則」では、一応、武器の輸出を「平和貢献・国際協力の推進に資する」「日本の安全保障に資する」場合と限定しており、武器を大々的に輸出するためには、「国際協力」「安全保障」の範囲を広げる必要があった。そこで、経団連は集団的自衛権容認、安保法制の成立を安倍政権に働きかけてきたのだ。つまり、自衛隊が「地球上のあらゆる場所」に出かけることのできる体制をつくることで、あれもこれも日本の安全保障に資すると、さまざまな国に武器を輸出することができるようになるというわけだ。

日本の軍需産業の跳躍台

同庁は、戦闘機や護衛艦などの大型プロジェクトに専任チームを設けて試作から量産、整備まで管理する。民間企業や大学の技術力を取り込むため、装備品に応用できる研究への資金援助にも乗り出すという。

また、旧防衛庁時代の官製談合事件のような不祥事を防ぐため「監察・監査評価官組織」を設け、装備品の入札の状況や調達手続きの妥当性、担当者と業者の接触状況などを調べるという。これで談合や癒着といった弊害の心配は無用、というわけだ。

さらに、意思決定の手続きを簡素にし、自衛隊の迅速な派遣につなげる。部隊運用に伴う国会答弁や関係省庁との調整を担うため、約40人の文官を統幕に配置。部隊の配備や基地の整備などを担う整備計画局も新設する、という。自衛隊を名実ともに軍隊へと変貌させる役割も担うようだ。

ちなみに、防衛省概算要求が決まり、過去最大5兆911億円(昨年度当初予算比2・2%増)と発表された。垂直離着陸輸送機オスプレイ12機(1321億円)、哨戒ヘリコプター「SH60K」17機(1032億円)をまとめて発注し、高速走行が可能な「機動戦闘車」36両も初めて盛り込んだ。

軍需産業は、国内外で売り上げを伸ばす「成長産業」となり始めている。防衛装備庁は、これを官側で支えるプラットホームの役割を期待されている。

すでに日本は、F─35戦闘機の製造などに参画している。米国に対しては、昨年7月にパトリオットミサイル部品の移転、本年7月に護衛艦のイージス・システムの製造などに係るソフトウェアおよび部品の移転が決定された。また、昨年7月にイギリスとの空対空ミサイルの共同研究が決定され、11月から開始されている。オーストラリアに対しては、今年5月に将来潜水艦の共同開発・生産の実現可能性の調査のため技術情報の移転が決定された。インドとは、先述したUS─2(救難飛行艇)の輸出について協議されており、フランスなどとの交渉も進展している(経団連「提言」より)。

防衛装備庁の発足は、新防衛装備移転三原則と新安保法という法整備の上に作られた日本の軍需産業の跳躍台といえるだろう。

官民一体となった兵器売り込み

経団連は、先の提言の冒頭で次のように述べている。「安全保障関連法案が成立すれば、自衛隊の国際的な役割の拡大が見込まれる。自衛隊の活動を支える防衛産業の役割は一層高まり、その基盤の維持・強化には、国際競争力や事業継続性等の確保の観点を含めた中長期的な展望が必要である」。さらに「今後は、政府の国・地域別戦略に合致した展示等をオールジャパンで実施することが求められることから、防衛関連団体を含め官民一体となった展示や販売の戦略を展開する」。

そう、官民一体となった兵器の売込みを展開していくという決意を経団連自身が表明しているのである。

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