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2015/8/26更新

クーデター・共生の否定・憲法破壊…
安保法制は戦争と徴兵制への道

関西大学法学部教授 高作 正博

8月1日、兵庫県川西市で「子どもたちに平和な未来を」と題する安保法制反対集会が行われた。同集会での高作氏の講演「安保法案は戦争と徴兵制への道」の要旨を掲載する。(文責・編集部)

※ ※ ※

今、政治の場で起こっていることは、安倍政権によるクーデターです。クーデターとは、他の機関の権限を奪い取ることですが、安倍政権は、主権者である国民しかできないはずの「憲法改正」の権限を奪い取り、勝手に改正しようとしているからです。

クーデターは時間が経つと定着してしまうので、今止めるしかありません。裁判所が何とかしてくれるという考えは、間違いです。裁判所での審理は数年あるいは数十年かかりますから、その間に事態は進行し定着してしまいます。「やった者勝ち」となってしまいます。

安保法制論議は、憲法学者たちが反対を表明し始めたことで、流れが変わりました。研究者がぎりぎりこの段階で、なぜ反対するようになったのかは、重要です。ポイントは二つです。

@学問の営みとは、事実や根拠を挙げて定説を問い直すことです。ところが安倍政権は、事実や根拠を示すことなく立憲主義を否定しているので、研究者は立場を越えて反対を表明したのです。学問の成果を何の根拠もなく取り消す政治権力に対し、反対しています。

A共生の否定です。世の中は、さまざまな考え方・価値観の人が共存しています。考え方が違うからといって追い出す・抹殺することがまかり通ってしまうと、立場が変われば自分が抹殺されてしまうので、共生の維持が近代社会の前提となってきたのです。

考え方が違うマスコミをつぶせというのは、「共生・共存」という前提を否定しているので、完全に暴論です。

共生を維持する仕組みの一つが、「民主主義」です。それは、どんな考え方でも表明することができる権利が保障され、選挙において多数を取れば、合意を形成して議決することで、共生が保証されるのです。ところが、今の政治は、見解の違う国会議員を馬鹿にするような発言を首相自ら行っています。共生が前提となっていないのです。民主主義という共生の大前提を破壊しているために、研究者はこぞって反対しています。

共生を維持するもう一つの仕組みが、「立憲主義」です。誰が政府のトップになっても、同じ憲法の下で政治を行う、というルールです。時の政権が都合のいいようにルールを変更できるようになると、共存の前提が崩れるので、反対をしています。

法案の問題点

今回の安保法案が「戦争法案」といわれるのには、大きく二つの理由があります。まず、「一体化論」による歯止めをなくしたことです。従来の憲法解釈では、わが国に対する武力攻撃がなく、直接武力行使をしていない場合でも、他国が行う武力行使への関与の緊密性などから武力行使したと法的評価を受ける場合は、違憲とする考え方を採っていました。この考え方の下で、自衛隊は「後方、非戦闘地域」に限定して派遣することができる、とされていました。

ところが、7・1閣議決定によって、自衛隊派遣地域について、他国が「現に戦闘行為を行っている現場」ではない場所まで範囲を拡大し、今の瞬間にドンパチやっていなければ、OKになりました。つまり、前線・後方、戦闘地域・非戦闘地域の区別を消去し、地域的限定をなくしてしまったのです。このため自衛隊は戦闘当事者となって、他国の武力行使と一体となってしまう可能性が、高まりました。こうした根拠で同法案は、自衛隊を戦闘に巻き込む「戦争法案」であると言えます。

二つめは、武器使用権限の拡大です。従来の解釈において「武力行使」とは、「国家又は国家に準ずる組織」に対する「組織的・計画的な戦闘行為」でした。つまり、「国家対国家」の武器使用は「武力行使」であり、これを憲法は禁止しています。

ただし、相手が国家でない場合の武器使用は「武力行使」に当たらないため、暴徒を鎮圧するための治安出動と、海賊対処については、合憲とされていました。また、自衛隊の側として、「自己保存型」「武器等防護」については、ぎりぎり合憲としてきました。

ところが、7・1閣議決定では、@「任務遂行のための武器使用」、A「駆け付け警護」、B「武器等防護」に伴う武器使用、が解禁されました。@によって、PKO・人道復興支援・治安維持活動においても武器使用が可能となりました。また、Aは、戦闘が行われている場所に行って、武器を使用するという前提の話になりますので、まさに戦争当事国になります。また、Bでは、米軍等の武器を守るために武器を使用することになります。

つまり、審議中の安保法案は、自衛隊が、@どこまで行けるか?、A何ができるか?について、限定をなくしたという意味において、「戦争法案」と考えなければなりませんし、今回の安保法案は、「日本が戦争当事国になる」との決意表明です。

自衛隊には、日常から外国軍と一体化し任務を遂行する「ユニット・セルフ・ディフェンス」という考えがあるようです。安保法案は、これに向かって進められているものだと考えられます。

必要性の根拠なき法案戦争への世論誘導

「安保法制」の必要性について、政府は説得力のある説明ができていません。尖閣が「自国領土」だというのなら、個別的自衛権で対応可能です。「朝鮮半島有事の時に邦人を乗せた米軍艦船を守る」という説明も、米軍は邦人を乗せることはないことが明らかになりました。「ホルムズ海峡の機雷対策」という説明も、陸上のパイプラインがあるので、説得力がありません。

同法案は結局、権力者にフリーハンドを与えるものであり、根拠もないのに無理矢理やろうとしている「戦争法」なのです。「出掛けていった自衛隊が、襲われそうになっている民間人を見殺しにできますか?」という感情論が、推進側から頻繁に語られます。

しかし、そもそも軍隊が感情で動くことはありません。軍隊には「武器使用基準」があり、逸脱すると命令違反となりますから、現場の指揮官が感情に流されて武器使用するなど、あってはならないのです。

安倍政権は安保法制について、有事の際の「邦人救出」が目的の一つだと説明します。現地の警察などを差し置いて、自国民救出のために軍隊が出て行くことは、異常です。しかし、歴史的に見れば、この「邦人救出」が上海事変を招いたという危険性を見ておく必要があります。「邦人救出」は、常に海外派兵のための口実に使われます。

安倍政権が世論を誘導し、私たちを支配しているのは、「支配者が支柱とたのむものは、輿論以外にはない」(D・ヒューム)からです。

最近でも大阪都構想の住民投票の結果を受けて、「シルバーデモクラシー」という言説が見られました。「年寄りが若者の意見をつぶしている」というものです。後になって、そんな事実がないことが明らかになりました。また、最近「中国との緊張が高まった」として、安保法制推進の強力な理由に挙げられています。

その象徴的な事件として、「中国海軍レーダー照射事件」が提起されます。これは、13年1月、東シナ海で中国海軍が、海上自衛隊の護衛艦に火器管制レーダーを照射して、戦争の一歩手前までいった、というものです。

ところが、緊張関係を避けるために、自衛隊と中国軍の間には、合意事項がいくつかあるそうです。その中に「一定の距離をとって近づかない」という合意があり、合意を破って近づいてきたのは自衛隊の側だった可能性があります。

これまでの戦争では、ウソによって世論が誘導されてきました。かつて湾岸戦争の時に「イラク人兵士がクウェートの病院に入ってきて、保育器の赤ちゃんを出して保育器を持ち去った」と、15歳のクウェート人女性が米連邦議会下院の公聴会で証言した「ナイラの証言」は、広告代理店がシナリオを書いたウソだということが分かっています。

「憲法破壊」阻止のために

安倍政権による「憲法破壊」を前にして、私たちは何ができるのでしょうか。

まずは「街へ出ること」。「とにかくもう隷従はしない」という決意を持つことです。ジーン・シャープ(アメリカ政治学者)は、『非暴力行動198の方法』で、「服従、協力、屈服が独裁者の権力維持の方法である」と指摘しています。

私たちは、非暴力抵抗・説得、社会的・経済的・政治的非協力、非暴力的介入を行う必要があります。例えば、「不服従」の表現として携帯電話の呼び出し音を「安倍やめろ」に変えて、みんなで一斉に鳴らしたりしておく、ということもできるでしょう。

「無礼な振る舞いをする」こともできます。これは02年、フランス大統領選挙でシラク大統領が再選されたときのことですが、対立候補に極右のル・ペンがいました。「右派」対「極右」の構図で、一部の有権者は、投票所で洗濯ばさみで鼻をつまんで投票する、というパフォーマンスを行いました。シラクもル・ペンも承認しない、ということです。

また、座り込みではなく、「立ち尽くし」という行為も考えられます。役所のロビーなどで座り込みをすると「違法行為」で排除されますが、「歩いている途中」という体裁で、抗議のスタンディングをするわけです。これで200人も「立ち尽くし」すれば、占拠状態となります。

また、「反対なら対案を出せ」という推進側の土俵に乗る必要はありません。「安保法制」という違憲の提案をしてきている側にこそ立証責任があるのです。私たちは、彼らが出してきた「変えたい理由」を批判し、つぶせばいいだけです。

いま、各地で「安保法制」反対で多くの団体・市民が立ち上がっています。私たちが直接行動しなければならないのは、代表者に任せておけないからです。今後も外から議会や内閣に圧力をかけ続けて行かなければなりません。「安保法制」を全面廃案にするまで、がんばりましょう。

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