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2015/6/28更新

沖縄・翁長知事訪米の意義
米は振り出しに戻って交渉する可能性がある

沖縄国際大学教授 前泊 博盛さん インタビュー

「辺野古新基地建設反対の民意は出ている、と私の気持ちを伝えた」─5月27日から10日間、翁長雄志沖縄県知事は、稲嶺名護市長や沖縄県議らと共に訪米した。

訪米団は、ハワイ・ワシントンで連邦議会議員、州知事、シンクタンク組織メンバーなどと面談。@普天間飛行場の早期返還、A辺野古新基地建設反対、を訴えた。安倍政権が工事を暴力的に強行するなか、沖縄は基地問題の「もう一方の当事者」であるアメリカとの直接交渉に赴いたのだ。翁長知事は、帰国後「国と国との関係なので、結論的にはいい形にはなりませんでしたが、1回目として私たちがこれだけ話をさせてもらったのは、大変大きな結果」と総括した。

今回の訪米について、沖縄国際大学教授の前泊博盛さんに意義と成果を聞いた。辺野古現地報告(2面)と合わせてお送りする。(編集部一ノ瀬)

宗主国=アメリカ属国=日本

──翁長知事の訪米の意義は?

前泊…訪米団は、のべ50人あまりの議員・関係者と会談を重ねました。これほどの人数と会うのは、菅官房長官でも不可能でしょう。沖縄の力の入れようがわかります。大きなインパクトがありました。

訪米の意義は2つあります。@「辺野古新基地反対」という沖縄の意思を、ハッキリと米側に伝えたこと、Aアメリカが辺野古を実際に必要としているのかの確認、です。

@については、仲井真前知事が、昨年の退任間際に辺野古の埋め立てアセスメントを承認したことで、日米両政府は「沖縄は辺野古を容認した」と新基地建設を正当化する理由に挙げています。しかし、前知事は2010年の県知事選では「普天間は県外移設」という公約を掲げていたのであり、辺野古承認は明らかな公約違反です。沖縄県民は前知事の公約違反に怒り、基地に反対する人物を選び直したのだ、と日本政府とアメリカに伝えに行ったわけです。

Aについては、翁長知事と面談した米上院のジョン・マケイン上院軍事委員長(共和党)やシンクタンクは、「前知事が承認後、現行計画が動き出した。承認は法的効力を持つ」と語り、問題は解決済みであるという立場を示しました。つまり、今回の知事の訪米がなければ、アメリカは「辺野古建設」が沖縄の民意である、と誤った認識のままであったと言えます。

私は、辺野古問題について、アメリカは振り出しに戻って交渉する可能性がある、と見ています。

──安倍政権への影響は?

前泊…アメリカは、「沖縄は基地を望んでいない」との事実を認識しました。安倍政権は、その辺野古にどこまで固執できるのか。問題がこじれ、嘉手納基地の撤去を求める動きに及ぶことを日米両政府は恐れています。

宗主国であるアメリカが「辺野古断念」という判断をした場合、属国である日本はどういう反応をするでしょうか。「対米追従」の安倍政権からすると、辺野古について立ち止まらなくてはならなくなる場面も出てきます。

──沖縄での翁長知事の評価は?

前泊…「知事はよく頑張っている」というのが多くの県民の気持ちでしょう。ただ、安倍政権によって建設作業が強行されている状況を見て、「本当に止められるのか。沖縄の民意は蹴散らされてしまうのではないか」と懸念している県民も半分近くいます。

今後、安倍政権が本工事を着工する時に、翁長知事が抵抗できなければ、緊迫度は、一気に高まることになります。

「自分たちは厄介者?」と感じ始めた海兵隊員

──在沖米兵による飲酒運転などによる逮捕が多発しています。

前泊…米兵犯罪が止まらないのには、@日本政府の態度、A日米地位協定、という2つの要因があります。

日本政府は、米軍基地は必要であり、「住民より政府の意思の方が上」だと思っています。米兵の横柄な態度は、そうした日本政府の態度が招いた結果です。

日米地位協定については、米兵が犯罪を犯しても逮捕されない、という法の下の不平等があります。犯罪を犯した米兵が裁かれるケースは11%ですが、そういう状況では、米兵は「逮捕され、裁かれるヤツは運が悪い」と思うのでしょう。

さらに指摘しておきたいのは、辺野古での座り込みが、ボディーブローのように米兵の心境に影響を与えていることです。沖縄の米兵は、「米軍は日本やアジアを守っている」という教育を受けてきたのに、沖縄に来てみたら、自分たちこそ沖縄の人権を抑圧している厄介者ではないか、と感じ始めています。

基地内の人から聞いた話によれば、「米兵たちは限界まで来ている」とのことでした。そういうストレスが、はけ口を求めて飲酒行為や犯罪に走らせる部分もあるでしょう。

米軍のシンクタンクの人間が私にこう語ったことがあります。「犯罪も犯さないようなお利口さんが、軍人になるわけがない。そんな利口者なら戦場で使い物にならない」「海兵隊員は、地元にいたらレッドネック(南部の農村部に住む、保守的な貧困白人層)になるか、刑務所にいるか、海兵隊に行くしか能がない」。

日米両政府は、そうした18〜22才の若い子どもたちを、親元を離れた遠い沖縄で訓練を受けさせているのです。必要とされない場所で、このまま駐留を強いられている米兵自身にとっても、大変な問題です。

沖縄の自己決定権を国際世論にアピール

──今後について。

前泊…翁長知事は、今回の訪米に続いて、国連でのアピールを予定しています。「沖縄の自己決定権」を主張し、取り戻していくことが今後の沖縄の方向性です。政治、行政、大学など、さまざまなルートで国際世論に訴える動きが活発化しています。

昨年9月には参議院議員の糸数慶子さんが国連先住民族会議の「先住民族の権利の履行」の分科会で発言し、日本政府に対し、「琉球・沖縄の先住民族の意見を尊重するよう」求めました。

安倍首相は「日本は法治国家だ」と強調します。しかし、沖縄の声はこれまで踏みにじられ続けてきました。民主主義のルールに従うことが、日本政府に突きつけられます。

沖縄の民意は、これまで日本の民意に訴えてきました。しかし残念ながら、無知と無関心に包まれている国民に訴えても無理だろう、と国際世論への働きかけとなっています。

翁長知事は、検証委員会で前知事の「辺野古の埋め立てアセス承認」を検証して、辺野古を止める意向です。ただ、知事任せではいけません。

翁長知事は「辺野古反対」ですが、既存の基地については容認している立場です。さらに日米安保も集団的自衛権も認めています。つまり、辺野古は止めても、それ以外の基地は続いていくということです。

沖縄の市民が、どんな沖縄の未来を描くのか。まだハッキリしていませんが、翁長知事の目標とは違う未来像なのかもしれません。ですから市民自身が、自分たちの未来を描くこと。選挙で示した民意は無視され、もう通らないという現実の中で、その実現のために、どうやって民意を示していくかが焦点です。

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