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2014/8/23更新

【中国】  軍事費増大顕著だが、米国の1/5差は依然大きい

「尖閣」めぐる対立今後も激化

愛知大学現代中国学部教授 加々美 光行

「海洋大国化」を掲げる習近平首相。米国の覇権力低下が著しいなか、中国の存在感がますます増している。中国の軍事大国化の狙いは何か?加々美光行さんに聞いた。ウクライナ問題では、対立するロシアと欧米の仲介役を任じ、覇権の拡大をめざす。

しかし、国内では、民族問題・格差拡大に加え、環境問題も待ったなし。紛争件数は、7年間で3倍に激増している。特にウィグル族の独立運動は、武装化しており、民族問題は深刻だ。こんな中、日本では中国脅威論が強調されるが、危機を煽って、戦争国家化を進める安倍政権こそ、我々の脅威だ。(編集部・山田)

「中国の軍事的脅威」利用した安倍政権の対米自立政策

編集部…安倍政権が、中国の軍事大国化や北朝鮮のミサイル発射を主な理由として、憲法解釈を変え集団的自衛権行使を容認する閣議決定を行いました。盛んに中国脅威論が流布されていますが、その実態は?

加々美…中国が軍事大国化しているのは事実です。中国の軍事費は、過去34年間で20倍になっています。昨年度の軍事費は、約12兆2000億円という巨費です。日本のそれは4兆6800億円(2013年度)ですから、約3倍です。ただし米国の国防予算は中国の約5倍、52兆円で、その差は依然大きいと言えます。

しかし中国の軍備増強を、「日本の安全保障」というレベルのみで語るのは、間違いです。中国は、アジア太平洋地域、ひいては世界戦略の問題として考えているからです。

そのうえで安倍首相の集団的自衛権容認を考えるならば、それは安全保障環境の変化という外部的要因から導き出されたのではなく、自民党の結党理念実現という内在的要因から打ち出された政策です。そもそも安倍首相の基本路線は、自民党結党以来の理念である「軍事的対米自立」です。彼の政治理念の基礎には、日米安保が双務的ではなく、日本が片務的義務を負っている、という認識があります。米国への軍事的依存の代償として日本は、政治経済分野では米国に従属するという日米関係を続けてきました。とりわけ沖縄の米軍基地に関して、日本は手出しできない状態です。

「軍事的対米自立」を最初に具体化しようとしたのは岸信介です。岸が首相になるより前、1951年に日米安保条約とサンフランシスコ講和条約をセットで批准されました。これが安倍首相の信念につながっています。安倍政権は、日米安保を双務的なものに変え、沖縄駐留米軍の代わりに自国軍隊を配備したいと思っています。

つまり集団的自衛権行使は、中国の軍事大国化や北朝鮮のミサイル発射があろうがなかろうが、実現したい理念だったのです。

米国は、今後10年間で国防費を5000億ドル(約50兆円)削減することを決定しています。これは、年度毎の国防費の20〜30%(円換算で20〜30兆円)という巨大な軍事費削減が続くということです。削減額は、世界第2位となった中国の軍事費の2倍、日本の5倍です。          

つまり米国は、世界の安全保障に関してもう軍事的介入する余裕などなくなるということです。現実に、ウクライナ問題、イスラエルのガザ攻撃、イラク北部からシリアにわたる中東地域の混乱について、口先介入あるいは空爆を越える介入は困難になっています。

米軍に代わりアジアの安全保障担う自衛隊沖縄進出も

そういう状況のなかでアジア太平洋地域の安全保障を考えた場合、例えば尖閣問題で第7艦隊を含めた米軍が動く可能性は、もはやありません。2014年6月に始まったリムパック(環太平洋合同演習)では、初めて中国海軍が参加しています。つまり、リムパックは対中国包囲的なものではないことを明確にしたのです。

イスラエルがガザ攻撃のような無茶苦茶なことをやっても、何もしないし、できないのです。米国が長期にわたって軍事的存在感を減少させることは、揺るぎのない事実です。安倍政権は、アジア太平洋地域における米軍の肩代わりを担う決意として、集団的自衛権の容認に踏み切りました。米軍が東アジアから撤退するのを見越して、その肩代わりをするつもりです。

ただし、米軍の肩代わりだけを担わされて、沖縄の軍事負担はそのままとなれば、対米自立どころか、対米隷属に導いた愚かな指導者として、非難されることになります。在沖縄米軍基地は再編されようとしていますが、米軍に代わって自衛隊が入るということにならなければ、安倍首相の戦略は破綻します。これが、安倍首相の集団的自衛権容認の背景です。

現在世論は、集団的自衛権容認に批判的ですが、自衛隊の沖縄配備が実現すれば、世論は大きく変化し、安倍首相の支持率が上がる可能性についても考えておく必要があります。

「海洋大国化」路線と世界戦略

尖閣問題について米国は、日米安保条約第5条の規定からいって「介入する」と言ってきました。しかし、ウクライナ紛争でも介入できない、中東でも一切介入できないとなると、東シナ海だって介入できる見通しはないでしょうし、中国はこうした米国の影響力低下を認識し、世界戦略に織り込みつつあります。

中国は、ベトナムを敵に回して戦争を再発させることは絶対にできません。実際、5月、中国が西沙諸島に石油試掘施設を設置し、ベトナム国内で大規模な反中暴動が発生。中国側もベトナム漁民を拘束するなど緊張しましたが、「8月まで」としていた作業を中断し、7月16日に早々に石油施設を撤去しました。

最大の理由は、ベトナムの背後にロシアがいるからです。ソ連時代も含めてロシアは、ベトナムに肩入れしてきました。ロシアと友好関係を構築したい中国は、石油掘削施設を撤去し、対露仲介役を果たすことでアメリカに恩も売りたいのです。

しかし、東シナ海は違います。米国が軍事介入しないとみれば、中国が強行策に出る可能性があります。そうなれば、戦争に近い状態となります。こうしたなか1月27日、日中双方の政府関係者を含め海洋安全問題の専門家間で提言がまとめられました。提言の内容は、不測の軍事衝突に対処するため、日本の海上保安庁と中国国家海洋局の間にホットラインを設けることなどです。ところが、この提言の実現化に向けた作業は、全く進んでいません。

中国の関心は、現在、ウクライナや中東の混乱に向けられているので、東シナ海は比較的平穏です。しかし、習政権は今後も尖閣に対する「日本の実効支配」の無効化を目的に、中国公船による「領海侵犯」を続けるでしょう。しかしながら、不測の事態への対処も話し合いが進まないとなれば、状況は流動的で、いずれ大きな問題になる可能性もあります。

米ロ新冷戦時代

世界は今、米ロが対立する「新冷戦時代」に入ったという識者もいます。ウクライナ紛争を契機に欧米とロシアが鋭く対立。マレーシア航空機撃墜に関して、ロシアへの批判が強まり、EUは、ロシアに対する追加制裁を発表(7月30日)し、米国も加わると表明していますので、相当強腰に出てきています。

こうしたなか中国は、ロシアと欧米諸国の仲介役を担おうとしています。3月から4月にかけて習近平首相はEUを歴訪し、特にドイツのメルケル首相と突っ込んだ首脳会談を重ねました。5月下旬以降には、プーチン大統領と電話会談も含め、度々話し合っています。さらに7月にはメルケル首相が成都から中国訪問を開始し、北京で習首相と会談しました。この会談内容は公表されていませんが、ロシアと欧米の関係について集中的に議論したことは明らかです。

ロシアは、日本と中国に天然ガスを大量に輸出すると約束していたのですが、ロシアが袋叩きにあっているのをみて、中国は沈黙しています。一方、安倍首相は、プーチンと首脳会談を積み重ねていたので、「日本はロシアに強い」と言われてきました。ところが、マレーシア航空機撃墜事件が起こり、欧米と足並みを揃えるために不本意ながらロシア制裁に踏み切ることを明らかにしています。ロシアが袋叩きになるなかで日本はどうするのか?問われています。

民族紛争に打つ手なし

編集部…ウィグル族の反乱が頻発しています。中国の民族問題の現状と未来を聞かせてください。

加々美…ウィグル側は、現在の紛争を「戦争だ」と言い、「犯行という言い方は、事態の深刻さを理解していない証拠だ」と主張しています。つまり、中国中央政府と全面的に争う覚悟です。ウィグル族は、アル・カイーダを中心とする原理主義武装グループと結びついて戦争をやろうとしています。戦術としても無差別テロという方法論に傾斜していることからも窺えます。

2013年に発表された数字では、農民暴動・労働争議・環境保護・民族問題を原因とする社会的争乱の件数は、年間で20万件にのぼっています。2006年は、年間約6万件でしたので、7年間で3倍以上に激増したことになります。習近平の任期は残り8年間ありますので、このペースで増えていけば、争乱事件は60〜70万件になりますし、なかでも民族問題は大きな比重を占めています。民族問題の深刻化に対し政府の打つ手はなく、相当な混乱が予想されています。背景を説明します。

中国が統一国家として成立してきた伝統的な力学は、「華化」と「漢化」です。

「漢化」とは、@中国語を受け入れ、A漢民族の文化を受け入れることです。ベトナムや朝鮮は、近代以前には「漢化」に近い状態だったのですが、辺境にあったおかげで「華化」を免れ、中華に編入されずに済んだということです。日本だって相当程度「漢化」していたのですが、明治維新を契機に「華化」から離れていったわけです。

革命に勝利した共産党政権は、1956年から少数民族の登録を始め、約400の少数民族が登録されました。現在は、これが漢民族を含めて56にまで減少しています。これは、重い意味をもっています。中央政府は、革命当初から民族としての登録を極力抑え、「華化」を進めてきたと言えます。

胡耀邦は、1980年に初めてチベット視察を行い、悲惨な現状に涙を流したと伝えられています。翌81年から民族問題の解決に向けて改革を始めたのですが、87年、民族問題の解決を見ることなく失脚します。現在、漢民族は11億の人口を抱える巨大民族となっていますが、これは少数民族を「漢化」してきた結果です。

ウィグル・チベット・モンゴルといった独立を求めている少数民族は、「華化」はすれども「漢化」せず、という状況です。これらの少数民族が独立要求を掲げているのですが、中華の側からすれば、「これまで千年以上つきあってきたのに、今になって別れようというのはおかしいじゃないか」ということで、紛争に至っています。

「華化」の崩壊は、中華世界の根幹倫理の崩壊につながるので、中国政府は絶対にこれを認められないのです。これをよく理解しているダライラマは、独立を前面に出すのをやめて、香港のような高度自治を要求しました。ただし、ダライラマが想定している「高度自治」は、イタリアのバチカンがモデルです。バチカンは、世界に1億人以上の信徒がいて、それを法王が統括するというスタイルです。

これを認めた場合、中国がどうなるのか?全く想定できないので、中央政府は認めようとしていません。

モンゴル自治区内では、既に漢民族が9割を占め、モンゴル族は1割に過ぎないので、ここまで「漢化」が進んでしまえば、独立は不可能です。モンゴル自治政府は、チベットとは違う対応を模索しています。

これに比してウィグル族の独立運動は、海外の戦闘グループと連携し、「戦争」というレベルで進行していますし、中央政府は、これをテロとして徹底弾圧の対象にしていますから、これにチベット独立運動も加わり、対立激化の方向で進んでいくでしょう。いずれにせよ、民族問題は、20万件にのぼる争乱事例の重要な部分を占めており、中国の危機を招く大きな要因になっています。

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