人民新聞オンライン

タイトル 人民新聞ロゴ 1部150円 購読料半年間3,000円 ┃郵便振替口座 00950-4-88555/ゆうちょ銀行〇九九店 当座 0088555┃購読申込・問合せ取り扱い書店┃人民新聞社┃TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441┃Mailto: people★jimmin.com (★をアットマークに)twitter
HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

2014/6/17更新

【検証】原子力規制委員会の再稼働審査─
「世界一厳しい」の大ウソ

木村 雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)に聞く

原発再稼働を審査する原子力規制委員会の新基準に関して田中委員長は、「世界一厳しい基準ができた」と公言し、安倍政権も閣議決定した「エネルギー基本計画」で、同基準を「世界で最も厳しい水準」と明記した。その理由として「シビアアクシデント対策、あるいはその時のマネジメントについて、世界一と言っていい厳しい基準」、「地震、津波などヨーロッパでは考えなくていい厳しい自然現象に対する要求をしている」ことを挙げている。しかしこれには、疑問の声が大きい。「世界一」の根拠を具体的に示していないばかりか、過酷事故対策について欧州加圧水型原子炉(EPR)の安全水準に達していないことも明らかだからだ。

具体的には、EPRと比べて日本の新規制基準には、@安全上重要な系統設備の多重性が少なく(EPRは独立4系統、日本は独立2系統)、Aコアキャッチャー(原子炉圧力容器外に流出した溶融炉心を受け止める設備)の設置要求がない、B格納容器熱除去設備(コアキャッチャーを水で循環冷却する機能と原子炉を水棺にできる機能を併せ持ち、溶融炉心を長期冷却する設備)の設置要求がない、C頑健な原子炉格納容器(航空機衝突に耐え、設計圧力を高めた二重構造の格納容器)の設置要求もない、という甘い基準だ。

言葉のイメージだけで厳格を装っても幻覚に過ぎない。事実に照らして新規制基準の安全性を検証し、再稼働を審査する原子力規制委員会の内実を検証する。再稼働阻止全国ネット木村雅英さんにインタビューした。(文責・編集部)

「再稼働第1・安全第2! 」の規制委 
火山のモニタリングも事故後の拡散シミュレーションも妄想的な願望

編集部…規制委と院内交渉したそうですが…。

木村…5月29日、参議院議員会館内で原子力規制庁と、@新規制基準、A地震・火山・地質・避難、について交渉しました。

フクイチ(福島第一原発)の汚染水対策や廃炉化に目をつぶって、優先審査する川内原発ばかりか12サイト18基の原発の再稼働審査に猛進する規制委・規制庁に、審査の内実を問い、疑問点をぶつけるためです。規制庁側の出席は、地震・津波対策、PWR(加圧水型原子炉)担当、技術基盤、防災政策、監視情報などの担当者が計6名でした。

まず、地震リスクについて聞きました。

国会事故調は、事故の主因について「津波のみに限定すべきでない」として、冷却材喪失事故(LOCA)の原因として地震による配管破断の可能性を述べています。また、元東電技術者・木村俊雄さんは、東電が発表した「過渡期現象記録装置データ」を解析し、雑誌 岩波『科学』11月号で「地震による配管破断」を主張しています。

これについて規制委側は、「岩波科学などの指摘は見ている。規制委のイチエフ『事故分析検討会』で論点整理して報告書を作成中」として、見解を明らかにしませんでした。ちなみに同検討会は、第5回(昨年11月)以来、中断したままです。

「科学的・技術的」に安全第一と考えるならば、イチエフの事故原因追求と「新基準」への反映が当然です。が、規制委は事故検証を事実上避けています。福島事故を真剣に検討すれば、地震による深刻な原子炉破壊に目を向けざるを得ず、新規制基準の見直しと原発の改修・補修が不可避となり、再稼働が大幅に遅れるからです。

次に、断層の長さからマグニチュードを推定する回帰式の問題点を指摘、「より保守的に」と言いながら、実は安全側に立たない姿勢を糾弾しました。

2000年代以降に起こった地震は、基準地震動を超えるものでした。新潟県中越地震(2004年)では2516ガル、岩手・宮城内陸地震(2008年)では岩手県一関市で4022ガルを記録。中越沖地震(2007年)で停止した柏崎刈羽原発構内の地震計は、1500ガルにも達していました。

この現実を考えると、川内原発の基準地震動=620ガルはあまりに小さすぎるのです。この日、規制委側は、基準地震動について「九電からの資料待ち」として、620ガルを受け入れたことを隠しています。「まだ審査中」というので、「より厳しく審査するべきだ」と念を押しておきました。

そもそも、活断層だけが大地震を起こす訳ではありません。2000年の鳥取県西部地震、04年の新潟県中越地震、05年の福岡県西方沖地震と首都圏直下型地震として襲った千葉県北西部の地震、07年の能登半島地震、08年の岩手・宮城内陸地震などは、すべて活断層として政府がマークしていませんでした。

東日本大震災にしても、海溝型地震で、イチエフ近くに活断層があったから大災害になった訳ではありません。地震国日本で原発を稼働して、安全が確保できるはずなどないのです。

「新規制基準」から見ても「立地不適」な川内原発

木村…次に、川内原発で問題になっている火山リスクについて聞きました。九電と原子力規制委は、「川内原発の半径160`圏内に位置する複数のカルデラが、破局的な噴火を起こす可能性は十分に低いうえ、全地球測位システム(GPS)などによる監視体制を強化すれば、前兆を捉えることができる」としています。

しかし、火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長は、「我々は巨大噴火を観測したことがない。どのくらいの前兆現象が起きるか、誰も知らない」と発言しています。

田中委員長にしても「カルデラ噴火については、人類はきちっとした観測はやっていない」と発言しているばかりか、政府自身も、福島みずほ参議の質問主意書に対する政府答弁書(5月13日)で、(噴火の)前兆を捉えた例を「承知していない」、にもかかわらず「捉えることが可能な場合もあると考えられる」としています。つまり、事実上捉えることができない、少なくとも、捉えることが不可能な場合がある、と認めているのです。

つまり、いくら火山のモニタリングをしても、巨大噴火によるリスクを回避することは困難なのです。

新規制基準では、火山に対する影響評価の要求も新たに加わり、@半径160キロ圏内の火山を抽出、A将来の活動可能性を調査、B火山活動の兆候を把握した場合、対処方針(原子炉停止・核燃料の搬出など)を策定、C火砕流が原発に到達するなど対処不可能な事態が生じる可能性が小さくない場合は、立地不適となり、再稼働は不可能に─となっています。

この基準からすれば、川内原発は「立地不適」の条件にあてはまるのです。

規制委は、モニタリングの専門家会議の設置を決めましたが、その開催や結論を待たずに適合性審査合格を出すようです。専門家会議の報告が出た後では、到底「合格」など出せないからです。

UPZ30qは屋内待避で『大丈夫』?

防災・避難計画についても、議論しました。規制委は、モデル検証もしない拡散シミュレーションにより、UPZ(緊急時防護措置準備区域)30`を押し付けました。これは、イチエフ事故では40`近くも離れた飯館村にまで放射能雲のかたまりが到達し、高濃度汚染された現実を無視したもので、米国が80`圏外に出るように指示したこととも矛盾します。

先日、大飯原発の運転停止を命じた福井地裁判決は、近藤駿一前原子力委員長の「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」を採用しました。不測事態は、250`に及ぶとしています。さらに、原発が立地する各地での風船飛ばしの結果等を見れば、UPZ30`があまりに狭すぎることは明らかです。

UPZ30`の根拠とされたのが、拡散シミュレーションです。地形を考慮しない1次元モデルで、しかも年平均で評価しているのです。

つまり、蓄積されている膨大な気象情報を無視し、実際には起こっていない風を使って計算しているのです。

評価基準の実効線量100mSvも高すぎますが、「緊急時の被ばく線量及び防護措置の効果の試算」もひどい内容です。原発の各関係自治体では、避難について、交通渋滞で避難できないなど未解決問題が山積している中で、田中委員長が指示して規制庁が数か月間、苦心の計算を重ねてつくりだしたものがこの「試算」です。

「100テラベクレルのセシウム137が環境中に放出されるような仮想的な事故を想定」し、「予防的防護措置」として木造家屋屋内退避とコンクリート構造物屋内退避をならべ、屋内退避で被ばく線量が低減するグラフを見せて、「UPZでは、放射性物質の放出前に、予防的に屋内退避を中心に行うことが合理的」と結論しています。

セシウム放出量はイチエフの百分の一、放出は炉停止12時間後に5時間、放出高さは50m、気象条件は年間からサンプリング、などなど非現実的な条件を設定した「試算」です。

被ばく量の絶対値が意味を持たないにもかかわらず、被ばく量結果をIAEA判断基準(実効線量100mSv/週、ヨウ素50mSv/週)と比較して、効果ありを演出するという非科学的「試算」です。

何よりも怪しげなのが、「屋内退避」の「遮へい効果」と「密閉効果」です。

例えば、木造家屋の放射性プルームからのγ線の低減は、IAEAでも10%なのに、防護措置低減率を25%としています。原発の地元は木造家屋が多く、致命的ともいえるかさ上げです。イチエフ事故で2日間の自宅待機を住民に強いた場合に、どれだけの被害が出たかの検証もしていないのです。

規制庁防災課担当は、「屋内退避」を何度も強調しています。過酷事故時、5〜30`圏の住民は「屋内待避」ということにしようとしているのです。

規制委は、たくさんの現実性のない前提をおいて、もっともらしい濃度分布図を見せて、30`を我々に押しつけました。およそ「科学的・技術的」とはほど遠く、「再稼働ありき」の政治的判断だと断定して差し支えありません。

そもそも、規制委員会の中立性は、担保されていません。田中俊一委員長は、広瀬東電社長や自民党議員とは何度も面談しながら、住民の安全を重んじる新潟県泉田知事とは全く会おうとしません。

委員長を含め3人は、「原子力ムラ」出身です。これは、「原子力規制行政に当たっては、推進側の論理に影響されることなく、国民の安全の確保を第一として行う」(衆議院付帯決議1)、「独立性、中立性の確保」(参議院付帯決議5)という規制委員会設置法の付帯決議に違反しています。

さらに、9月に任期が切れる島田・大島両委員の後任に、元日本原子力学会会長の田中知東京大学教授と、元日本地質学会会長の石渡明・東北大学教授を充てる予定です。田中知氏は、原発メーカーや電力会社などでつくる「日本原子力産業協会」の理事を務め、東電の関連団体「東電記念財団」から50万円以上の報酬、原発メーカー・日立GEニュークリア・エナジーなどから研究費の奨学寄付として110万円を受け取っていました。あからさまな原子力ムラ出身者です。

安倍政権の原発再稼働に向けたなりふり構わぬ人事権行使です。設置法の衆議院付帯決議「原子力規制行政に当たっては、推進側の論理に影響されることなく、国民の安全の確保を第一として行うこと」を遵守して人事案を撤回するべきです。

一方、規制委は、電力会社と癒着し推進側の論理に強く影響され、川内原発をはじめとする既存原発の再稼働のために邁進するばかり。こちらの田中俊一委員長も解任するべきです。

×××××

■原子力安全基準とは?

●安全基準骨子

◎事故時に原子炉を冷却するため、電源車・消防車を分散配置/◎格納容器フィルター付きベントの設置(沸騰水型のみ)/◎燃えにくい電源ケーブルを使用し、外部電源の多重化/◎免震機能を持つ緊急時対策所/◎活断層の真上に原子炉建屋などの設置禁止/◎最大級の「基準津波」を想定した防潮堤/◎航空機テロ対策として緊急時制御室を設置

  HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

人民新聞社 本社 〒552-0023 大阪市港区港晴3-3-18 2F
TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441 Mailto:people★jimmin.com(★をアットマークに)
Copyright Jimmin Shimbun. All Rights Reserved.