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2014/5/4更新

鵜飼哲さん(一橋大学)インタビュー[全3回]

私たちはいまどこにいるのか、どこへ向かうべきなのか
安倍政権・歴史認識・アジアの未来に向けて@

安倍政権による、戦争国家への根本的な改造が進んでいる。重大な戦争政策を次々と閣議決定し、改憲と集団的自衛権の行使を本気で進めている。また反中国・反朝鮮を最大限煽り、侵略戦争の歴史を賛美する。あまりに動きが早く、問題も大きく、一体どうすればいいのか。

一橋大学の鵜飼哲さんは、国家を超える民衆の論理について長年発言しながら、この間、反弾圧・反レイシズムの社会運動にも積極的に関わっている。私たちが安倍政権の全体像をつかみ、歴史的視点と世界構造の中でどうすれば良いのかを考えるために、話を聞いた。第1回は、「安倍政権の狙いの全体像について」。(園良太)

第2回「世界の中で、歴史の中で―軍事問題と歴史的レイシズム」(1514号) 第3回「私たちはどうすべきか、未来に向けて」(1515号)

〈安倍的なもの〉との対決―安倍政権の全体像とは?

最悪のレイシスト&セクシスト

私は40数年間、学生運動や社会運動に関わってきました。安倍晋三は私と同世代で、安倍政権の再登場を許した歴史的責任は私にもあると感じています。第一次安倍政権も日本の民衆の力で倒したものではないし、現在の安倍政権に対する実質的な抑止力は、むしろ歴史的に構築されてきたアジア諸国の強い警戒心のほうでしょう。

安倍が自民党の副幹事長時代の2000年12月に、元従軍慰安婦の女性たちの告発を受けた「女性国際戦犯法廷」が開催されました。それを取り上げたNHKの「問われる戦時性暴力」に安倍や自民党の中川昭一が介入し、非常に暴力的な改ざんが行われました。私も番組に関わった者として、改ざんを糾弾する作業に参加しました。

あのような形で公共放送に手を突っ込んだ人間が、昨年秋に秘密保護法を強行採決したことの意味を、私たちは正確に掴むべきだと思います。安倍は公共メディアの中立性、編集権、権力からの自律の原則を、公然と土足で踏みにじった男です。女性国際戦犯法廷に関するテレビ番組の改ざんを強要したことひとつ取ってみても、安倍が最悪のレイシストでありセクシストであることを示しています。

9条改憲に向け〈前〉〈後〉を包囲

「岸=安倍的なもの」とは、端的に言うと、「日米安保」を前提にこの国のあり方を肯定してきたことです。国内では大企業中心の産業構造を優先し、その中でしか民衆に将来を構想させないこと、旧植民地出身者をはじめとする外国人は国民的政治空間の外部に徹底的に排除することです。

私がこの間強調しているのは、憲法9条の〈前〉と〈後〉に注目することです。前の1〜8条は天皇に関する条項で、10条は「日本国民たる条件は法律でこれを定める」という国籍に関する条項です。9条を前と後から挟み込んでいる条項が、いま実際の改憲に向けて9条を包囲しています。現行憲法体制の中で「戦争放棄」の理念をつねに包囲していたものが、「トロイの木馬」のように、いまやその主張を貫徹しようとしていることに思い当たります。

反天皇制、反排外主義は、私たちの世代の運動が重要性を認識しながらも十分に進めてこられなかった課題です。「護憲運動が割れるから天皇制の問題は持ち出さない方がいい」と言う憲法学者の方もいますが、私は天皇制の問題を突き詰めなければ「安倍的なもの」は繰り返し回帰すると考えています。それでは右派の改憲攻勢に、十分な思想的深度で対峙することはできないと思います。

「日の丸・君が代」を問答無用で子どもの頭に叩き込む

かつての自民党政権は利益誘導で成り立っていましたが、バブル崩壊以降はそれができなくなりました。その危機をネオリベラリズムで強行突破しようとしたのが、小泉政権でした。その弊害があらわになったタイミングで、安倍が登場しました。

第一次安倍政権は小泉改革の弊害に対して何らかの手当てをする「フリ」をしなければなりませんでした。小泉と同じ劇場政治では新味がないこともあり、独自の手法として上からの排外主義を徹底的に煽りました。主なターゲットは朝鮮民主主義人民共和国ですね。ただし、第一次安倍政権は経済政策が乏しかったため、地方の経済的困窮に手当を施す方針を示した小沢民主党に敗北します。しかし、この時も民衆の力で安倍内閣を倒したわけでありません。

「岸=安倍的なもの」は戦後日本の民衆運動にとっての「宿敵」であり、自分たちの力で倒さない限り繰り返しさまざまな形で回帰してくるでしょう。今度こそ本当に民衆の力で「安倍的なもの」が打倒できるかどうか、この歴史の壁を日本の民衆がどう乗り越えるかが問われています。

「教育は調教だ」と公言する文科省官僚

秘密保護法に対する闘いは広範に闘われていますが、第一次政権時に教育基本法の改悪を行った安倍の、きわめて危険な教育政策に十分な対応がなされているとは言えません。99年の国旗国歌法制定以後、10・23通達体制の東京から橋下維新支配下の大阪まで、体制の側の論理は「日の丸・君が代の問題はもはや議論させない」ということです。日の丸・君が代を問答無用で子どもの頭に叩き込む、内心の自由云々はその後の話だ、という論法です。

99年に私たちは「これは教育ではなく調教だ」と批判しましたが、今や文科省の官僚が「教育は基本的に調教だ」と公然と言い放つまでになっていて、自民党の改憲案は全くこれと符合しています。初等、中等教育だけでなく、高等教育もこの論理と無縁ではありません。今や独立大学法人のどこにも日の丸は上がっていますし、大学の教育内容への国家の介入も決してありえないことではありません。

今の時代に問われているのは、安倍自民党が用いる言葉と私たちの言葉の間で、どちらが民衆の心を獲得するか、ということです。教育という権力関係の場で若い人々の心に届く言葉を発明することは、この間私たちができなかったことの中でも最も重要なことの一つだと思います。

災害を利用する「ショック・ドクトリン」

また、私たちは東日本大震災の複合災害で社会が受けた打撃の全体と向き合う必要があります。震災や戦争による社会基盤の崩壊を新たなビジネスに利用する「ショック・ドクトリン=惨事便乗型資本主義」が東北の被災地でフル稼働しています。それは今の世界の資本主義を駆動させる根本的なメカニズムです。しかし、民衆運動の側では最初から原発事故に課題が集約されてきたことに不安を覚えてきました。

今回の震災では、津波で2万人を超える人が亡くなり、生産のインフラが完全に破壊され、町が丸ごとなくなっています。とりわけ被災地の生産者、漁民・農民の不安と向き合うことは、原発の収束労働に動員されている労働者の過酷な状況に向き合うことと同様に大事なことではないでしょうか。この点は、反TPPの闘いにも具体的につながります。

東京オリンピック招致のために、IOC総会で安倍は、福島の汚染水は「完全にブロックされている」と大嘘をつきました。オリンピックに向けた東京の再開発で復興が進んでいない東北や北関東の被災地から労働力を奪うことになるのに、それを「復興五輪」と称しています。このような、二重三重にでたらめなコンセプトには改善の余地はなく、返上だけが正しい選択です。

米軍・自衛隊 被災地を軍事化に利用

震災直後から警察、自衛隊、米軍、韓国軍に加え、イスラエル国防軍の医療班までが、被災地支援に参加しています。前年のハイチの地震とも比較できるような、震災を軍隊の積極活用に利用する国際的支援が、今回は最初から徹底的に行われました。米軍の側では、直前に「沖縄の人々は怠惰だ」などと差別発言したことで批判を受けていたケビン・メアが元締めになって「トモダチ作戦」が展開されました。また現在福島にはフランスの原発ロビーが体系的に介入していて、日本の原発ロビーと緊密な共犯関係が作られています。

体制側は、災害救助で得点を稼ぎ、自衛隊はテレビ番組などを通じて「愛される自衛隊路線」を進めています。『永遠のゼロ』のような形で自衛隊と靖国をつなげる意識操作も行われています。しかし被災地の現場では、自衛隊が命令でしか動かない非人間的な集団であるという実態も知られています。現地の人が「そこに人が生き埋めになっている」と言っても命令がないために何もしないということもあったそうです。現地で自衛隊と接した人が必ずしもみな感謝しているわけではありません。

教育統制で現実を隠し、オリンピックに民衆を巻き込むという戦略

こうした巨大災害とそれに続く事態は、日本のような自然災害が多い国では国家の原像でもあります。民衆が災害時に頼らざるを得ない存在として「国家」が喧伝され、一方で国家への依存心が強くなっています。しかし他方では、震災翌日の原発事故によって国家に対する信頼は一気に崩れました。この2つの矛盾した過程が衝突しているのが、現在の状況です。

教育を統制して外側の現実を見えなくさせることと、2020年オリンピックのような「ショック・ドクトリン」に民衆を巻き込んでいくことが、「安倍的なもの」が系統的に追求している政策の核心にあると思います。

反原発運動はもちろん非常に重要ですが、そこだけに視野が限定されると、先日の東京都知事選のように、原発再稼働を阻止するには保守層にウイングを伸ばさなければという発想から、倒錯的な政治判断が導き出されます。

世界資本主義の危機と日本固有の戦後体制の危機が具体的に組み合わさって、私たちを拘束しています。視野狭窄は直ちに安倍政権を助けることになります。「今は大変だから」と、例えば教育問題のような重要な課題を後回しにすれば、そこに敵はつけ込んでくるでしょう。それぞれの世代で、できるだけ多くの歴史的遠近法に即して状況を考えていけるよう、日々自分を鍛えていかなくてはならないでしょう。(次号に続く)

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