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2014/3/7更新

福島事故4年目の現実

激増する放射能による健康被害
横行する情報秘匿と世論操作

震災4年目を迎えるにあたって、放射能による健康被害に実態について、鈴木匡さんに話を聞いた。鈴木さんは、福島県田村市で自然農法を実践。事故後は、ヘルパー派遣事業体を運営しながら、「田村市民ねっと」代表世話人として、放射能被害について講演会を開くなど、住民サイドに立った情報発信に努めた。避難する人も福島に留まる人も両方支援するという基本姿勢だ。

福島県は、18才以下の子ども38万人の甲状腺検査を行っているが、「がん発生と原発事故に因果関係はない」との前提に立ったものだ。情報隠しも顕著だ。  (編集部・山田)

百倍を超える小児甲状腺がん

2013年12月時点で、福島県児童の「悪性ないし悪性疑い」の甲状腺異常者は75人と発表されました。100万人あたりに換算すると394人となります。国立がんセンターの「がん統計」によれば、0〜19歳の年齢総人口における平常時の甲状腺がん罹患率は、2・2人/100万人なので、桁外れの患者数です。

※ABCC

原爆傷害調査委員会。調査が目的の機関であるため、被爆者の治療は一切しなかった。 この調査研究結果が、放射線影響の基本データとなった。

※甲状腺検査

震災時に18歳以下だった県民約37万人が対象。1回目の検査でしこりの大きさなどを調査。軽い方から「A1」「A2」「B」「C」と判定し、BとCが2次検査を受ける。県は2回目の検査に向けた態勢を拡充し、41医療機関で実施できるようにした。今年8月ごろから検査を開始する方針。

これについて、福島県放射線健康リスク管理アドバイザー山下俊一氏は、「チェルノブイリで甲状腺ガンが発症したのは5年後からなので、2年目で発症している小児甲状腺ガンは放射線由来とは考えにくい」としています。

山下俊一氏は、ABCC(原爆傷害調査委員会・米国科学アカデミーが設立)の被曝影響調査を受け継いだ重松逸造氏(放射線影響研究所理事長)の弟子です。重松氏は、国際チェルノブイリプロジェクトの責任者として「汚染地帯の住民には放射能による健康影響は認められない。むしろ『放射能恐怖症』による精神的ストレスの方が問題である」との報告書を発表しました(1991年)。

ところが、チェルノブイリ被災地では、事故後5年目くらいから小児甲状腺ガンが激増し、住民らが重松医師に問い合わせると、「広島・長崎で白血病が発症するのは7年後からなので、放射線由来と考えにくい」と回答しています。福島事故でも、山下氏が取り仕切る福島医大や検討委員会は、同じ論理で原発事故との因果関係を認めようとしません。それなら一体何が原因でこの異常事態が発生しているというのでしょうか。

チェルノブイリ事故当時と比べて、検査機器の精度は上がっているために、チェルノブイリより早期に発見されているとする研究者がいます。

米科学アカデミーは、チェルノブイリ事故から20年間で100万人が死亡した、と報告していますが、IAEAやICRPの報告は、事故の影響をできるかぎり矮小化しようとする意図で健康被害が少なく発表されています。低線量被曝による健康被害調査は、国際的な政治判断が大きく関わる分野です。山下氏は日本甲状腺学会々長なので、強い権威をもっている一方で、他の科学者たちが独自の研究成果や知見を出しづらい環境が作られています。

東京の小児科医・三田医師は、のう胞などの異常が見つかった子どもが関西や九州への保養を行うと症状が改善するので、「放射線由来だと思う」と発言していますが、データが少ないので断言はできないのが実情です。東京で開業していて九州に移住した三ツ井弘一医師も、同意見です。

情報独占と秘匿

さらに問題なのは、福島県立医科大学が唯一の検査機関として情報を独占している現状です。同医大は、18才以下の子ども36万人の甲状腺検査を3年以内に終了し、その後も対象者が20歳になるまで2年ごと(その後は5年に1度)に実施する、としていましたが、検査結果の出ている児童は25万人です。3年を過ぎても、3万人の児童が検査を受けていません。

原因は計画がずさんであったためですが、「調査」が目的とされ、@結果を受診者や父兄たちに説明しなかったり、A甲状腺にしこりやのう胞が認められても、カルテや超音波画像を本人に開示しなかったり、B他の医院での受診(セカンドオピニオン)を事実上禁止したり、などの問題が指摘されています。

また、県が委員らを集めた秘密の「準備会」を開き、「がん発生と原発事故に因果関係はない」ことなどを共通認識とすることを事前に打ち合わせていたことも報道されています。準備会の存在を外部に漏らさぬよう口止めもしていたというのですから、不信感は募るばかりです。

福島県立医大の調査チームは、5人1組のチームでエコー検査を実施していますが、医師は「一人以上」が基準で、短期のレクチャーを受けたレントゲン技師や臨床技師が検査しています。このため、診断結果を聞いても、「答えられる立場でない」と、説明してくれないそうです。検査時間も短く、がん専門医なら20分かけるのを平均で3分程度、短い場合は10秒という例もあるようです。このため、甲状腺検査を実施している県立医大は、「誤診が起こる」として、10億円という破格の賠償責任保険に加入していたことも報道されています。

子どもや保護者がエコー画像の提供を求めても、「情報公開請求してくれ」と言われるばかりです。開示請求した親の子どもだけが念入りに調査をされる、という事例も報告されています。これに疑問をもつ北海道がんセンターの西尾正道医師は、福島で画像を保護者に渡す検査を続けています。

西尾医師は、半年毎にエコー検査を受けて経過を診る必要がある、と言っています。カルテの保存期間は法定5年ですが、画像は3年と短いので、患者本人が保持しておかないと、処分されてしまう可能性が高いのです。

カルテやエコー検査画像等については、いまだに本人に見せることはなく、印刷画像も開示しない。所見についてセカンド・オピニオンを求めたり、診察・治療を受ける機会が奪われています。

チェルノブイリでは、小児甲状腺がん患者の6割が白血病になった、という調査結果があります。子どものがんの進行は速いと言いますが、転移も速いので、「早期発見早期治療」が大原則となるべきです。そのためにも、すべての検査結果資料をいつでも開示できるようにすべきです。

他にも情報秘匿が蔓延しています。福島県は、県内中学校までの子どもおよそ28万人に積算線量計(ガラスバッジ)を配布しました。ところがこの線量計は、放射線の高いところに行っても警告音ひとつ鳴るわけではなく、数値も表示されません。3カ月後に回収され、記録された児童生徒の被曝データを取り出し調査報告書を作るためのものです。本人が結果を知りたければ、「情報開示請求してください」との対応です。

県と医大は、「個人情報」を理由に、基礎自治体に対して検査データを開示することも拒絶しています。双葉町は、町独自で子どもたちの血液検査を実施したのですが、結果を発表していません。住民を真実から遠ざけようとしているとしか思えません。福島県の検査体制は、住民から医療・診察を受ける権利を奪い、自己の身体に対する情報へのアクセスを阻害しています。

突然死の増加

低線量被曝による健康被害は、がんだけではありません。2012年の調査では、子どもの糖尿病と肥満が増えています。一般的には、被曝を避けて室内でポテチを食べながらテレビゲームをやるなど、生活習慣が原因とされていますが、「内臓への放射線の直接影響もある」と語る医師もいます。

突然死も増えています。高齢者は影響が小さいと言われますが、セシウムは筋肉に溜まりやすいので、心筋梗塞などを起こしやすい、とベラルーシーの外科医=ユーリ・バンダ・ジェフスキー氏は言っています。高齢者が食生活を変えるのは困難で、春には山菜を採って食べるし、線量の高い茸も気にせず食べることも原因でしょう。放射線によって血管の老化が進む、と説明する医師もいます。

持病の悪化も含めて寿命が5〜7年短縮する、という調査結果も出ています。その他にも、眼底血管の動脈硬化などの症状が既に現れています。

侮れない関東の放射能汚染

健康被害は、関東全域に広がる兆候を示しています。原発事故直後、関東地方全域にヨウ素131が降りました。半減期は短いのですが、強い放射線を発します。文部科学省の放射線モニタリング情報のグラフを見ると明らかですが、東京・新宿には、3月19〜24日に降下しています。ひたちなか市が突出していますが、新宿区は、福島市や宇都宮市よりも多くなっています。4000Bq/u以上は、放射線管理区域に指定される程の放射線レベルです。新宿・さいたま・市原などが該当します。このグラフから見るかぎり、甲状腺へのダメージは、関東の子どもたちの方が大きかった可能性があります。このグラフはヨウ素131だけですが、ヨウ素が降ったということは、他の核種も降ったと思われます。

関東の子どもたちの健康検査結果が悪い理由が、ここからうかがえます。関東の子どもたちは、福島と違って検査を受けない子が大半ですから、発見されていないだけかもわかりません。

2011年のデータを元に淡水魚の汚染を地図に落として可視化したものが、ネイチャー紙に掲載されました。淡水魚の汚染状況から淡水の汚染を推し量るデータです。淡水魚の汚染マップを見ると、原発から400q離れた静岡でもセシウム137の汚染が確認できます。森林に降った放射性物質は、雨で川に流れ込み、下流域を汚染します。利根川沿いの線量がこれから高くなることも予想されます。

子どものがんの進行は速いのです。政府は、こうした汚染マップを積極的に広報し、早期発見早期治療のために検査を呼びかけるべきです。

チェルノブイリ法では、年間放射線被曝量が5_Svを越える地域の住民には、移住の権利が認められています。日本は20_SV超で警戒区域(居住不可能)という甘い基準です。しかも、チェルノブイリ事故が起こる前、ICRPの安全基準は0・2_Svだったのが、事故後1_Svに引き上げられたのです。欧州各国はより厳しい基準を設定しており、1_SVは科学的な安全基準とは言えないのです。

しかもこのICRPは、原発推進のための政治的団体なので、「住民の健康という視点は全くない」と、理事自身が語っています。チェルノブイリの基準なら、福島県人口200万人のうち170万人が居住する地域は、放射線管理区域として生活してはいけない区域となります。

棄民宣言としての「復興加速計画」

安倍内閣の「復興加速指針」(13年12月20日閣議決定)は、事実上もう除染はしないという方針が示されています。除染に効果がないことを、政府自身が認めたものです。南相馬市の予算の半分が除染に費やされていますが、その税金は、地元ではなく東京のゼネコンに回っていくのです。

除染してできた汚染物の処理場・保管場所もありません。現在、汚染物をフレコンバッグに詰めて野積みしていますが、これが2段3段と積み重なり、今や青い川のようになっています。

双葉町などに中間管理施設を作る予定ですが、同時に住民を帰還させようともしています。汚染物の最終処分場となる地域に人を帰すというのは、理解できません。

さらには、県内市町村に簡易な減容化施設を建設しています。汚染物の焼却施設です。先行して鮫川村で作られましたが、試運転10日目で火災事故を起こしています。放射性物質の管理は、集めて集中管理が原則です。安倍政権は、放射能を環境中に拡散し、薄めてなかったことにする、という方針だと思います。

その上で、1_Sv/年の被曝管理を自己責任に帰すというのです。県外避難という選択肢を閉ざした上で自己責任を迫るのですから、政府としての責任放棄であり、福島は国家から切り棄てられたのだと思います。全国の原発立地住民は、事故がいったん起これば切り棄てられるという現実を知るべきです。

経済成長路線見直す正念場

これからの日本をどういう方向に進めていくのか?正念場だと思います。日本の産業は、電気・鉄鋼・自動車が中心ですが、景気をよくして経済成長を求める空気が強まっています。今一度一人ひとりが立ち止まり、エネルギー問題にしても、自分の頭で考え選択すべきです。これなしに、議会制民主主義は機能しません。

3・11は、経済成長路線を見直す契機となるはずでしたが、事故前に戻りつつあります。地球全体が巨大地震活動期に入っています。東京直下・南海トラフの巨大地震も、間近に迫っています。目先の経済成長を追い続けていると、2度目の事故を迎えてしまうのではないか、と危惧しています。目を覚ましてほしいですね。

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