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2013/11/2更新

前近代的労働条件横行する除染作業
激しいピンハネとずさんな安全管理

「福島では今、数十年前の寄せ場が再現されている」―こう語るのは、福島連帯ユニオン書記長・佐藤隆さんだ。「寄せ場」とは、ゼネコンを頂点とする建設業界の重層的下請け構造の末端で短期日雇い労働者を送り込む場所で、釜ヶ崎(大阪)や山谷(東京)が有名だ。公共事業華やかなりし高度経済成長期に大都市部に作られた。

その寄せ場が、除染作業や原発収束作業という被曝労働の現場である福島に再現しているという。激しいピンハネとずさんな安全管理がまかり通っている現実を表現したコメントだ。

昨年11月、除染作業に対して賃金とは別に支払われる危険手当=1万円が、労働者に渡っておらず、業者が中抜きしていた実態が明らかになった。発注者である環境省は、「実態調査する」としたが、ゼネコンに調査を命じただけで、うやむやのままだ。

安全管理の点でも同様だ。防塵マスクすら支給しない業者が後を絶たず、適正な防護装備を要求した労働者を不当解雇するという事案(後述)もある。こうした前近代的労務管理がまかり通るのは、@労働者派遣制度が合法化・拡大されたことと、A多重請負構造によって業者の雇用責任が曖昧化され、制度的取り締まりもできなくなっているためだ。

富山から福島に来て除染労働に就いてきた中田啓治さん(43才・仮名)に実態を聞いた。中田さんは、危険手当の支払いを求めて業者との交渉を組織し、別の業者でマスクの支給を求めたら、逆に解雇通告され、拒否すると、半ば軟禁状態で説得を受けたという。 (文責・編集部)

どこへ消えた?「危険手当」

編集部…除染労働に就いた理由は?

中田…富山で働いていたのですが、震災の影響で仕事を失いました。津波被害の激しい三陸地方の瓦礫の片づけか解体作業へ行こうかと思い、富山のハローワークで応募したのですが、日当1万円くらいで、食事代と寮費が差し引かれます。条件としては、そんないいなぁという感じではなかったです。そんな時に田村市の先行除染作業の募集が始まりました。食事・寮付きで1万2千円くらいだったので、応募しました。

中田さんは、ノートに被曝線量を
記録している

編集部…被曝に対する不安は?

中田…あまり感じていなかったのですが、就労前教育で被曝の影響などを聞いて不安になりました。将来の健康不安と現在の報酬の良さとを天秤にかけて納得したのですが、実際には、富山の部屋は既に引き払っていたので、帰る所がなかったのです。

編集部…危険手当についてはいつ知りましたか?

中田…一緒に働く仲間うちでは、噂として聞いていましたが、朝日新聞のスクープで「やっぱりか」と確信しました。業者が提供する「寮」と称する居室は寒さがひどく、食事も散々で頭に来ていたので、仲間を誘って団交を申し入れました。

1回目の団交(昨年12月)では、危険手当を支払っていないことを会社に認めさせました。会社は「元請けからそもそも危険手当を受け取っていない」と主張したので、その旨も協定書に書かせました。元請け業者を追及するために必要だからです。

2回目(今年1月20日)の団交は、現場の労働者ほぼ全員、20名程が集まり、大衆団交となりました。、社長に対し「元請けから危険手当を受け取っていないとしても、支払う義務がある」と追及し、支払いを求めましたが、「とても払える額ではない」として、支払いを拒否。私たちは、溜まっていた怒りを噴出させて、通勤時の労災事故がうやむやにされた件や管理者による暴力事件も追及しました。

私たちを直接雇っていた除染業者は第3次の下請けで、元請けは鹿島建設です。会社前での宣伝行動など親会社への追及を始めましたが、親会社は逃げるばかりで、埒があきませんでした。しかし、一方で危険手当のピンハネ問題は、国会や大手メディアでも取り上げられるようになり、社会問題化しました。私も、東京での院内集会で実態を証言するなどしました。

そうした事情もあってか、第3回の団交(5月)で、会社は「一括解決できないか」と打診してきました。「危険手当の未払いは認めないが、相当する金銭を解決金として支払う」という内容です。私としては、筋を通して、危険手当の未払いを認めさせ、元請けを追及したかったのですが、争議は長期化しており、早期解決を求める労働者も多くなったので、了解しました。

「手抜き除染」続く裏で被曝対策しない下請業者

編集部…現状は改善されましたか?

中田…形の上で危険手当=1万円は支払われるようになりましたが、賃金が最低賃金レベルに引き下げられ、1万6千円。ここから「食事代と寮費」=2千円が差し引かれるので、支払額は、1万4千円ほどです。「1万円+最低賃金」という日当が一般的になりました。総額で2千円ほど引き上げられたに過ぎません。

国(国土交通省)が除染作業を発注する時の労務単価は、11700円から15000円に引き上げられています。ゼネコンは、これとは別に住居整備費や管理費などを上乗せして、入札しています。環境省は、これとは別に危険手当として労働者一人に対し1日1万円をゼネコンに支給しています。

ところが、危険手当を支払うような除染作業の現場では、福島県の最低賃金しか支給しないのです。危険手当の問題は全く解決していませんし、多重のピンハネは続いています。

作業が始まるとどんどん上がる線量

編集部…安全管理体制については?

中田…被曝量管理に関しては、ガラスバッチとPDという被曝線量計が全員に渡されて、どれだけ被曝したかは記録するようになっています。しかし、肝心の防護装備はずさんです。私たちの働いてる親会社=G社の作業責任者は、「マスクを着けていれば何でもいい」っていうような責任者です。心配だったので、個人的に除染現場の空間線量を測ってみると、作業が始まって粉塵が舞い始めると、線量はドンドン上がっていくのです。

線量が高いことがわかったので、私は、密閉度の高いマスクを自分で買っていました。そうこうしてるうちに、汚染土を保管袋に詰める作業に配置転換されました。その作業は、保護眼鏡をしてても眼に粉塵が入ってくるような状態で、密閉式のゴーグルじゃないととてもできないような作業環境でした。

マスクの問題もあったので、装備について親会社に要求したところ、「明日持ってきます」と言ったのです。ところが、1週間経っても支給しなかったので、環境省の出先機関に電話をかけて、事情を説明し「しっかり指導するよう」求めました。

環境省は、直ぐに元請けに電話をしたようです。元請け会社が、現場にマスクを持って来ました。

犯人捜し、そして軟禁・退職強要

ところが、その日から「環境省に電話をかけた奴は誰だ?」と、犯人捜しが始まりました。最初は黙っていたのですが、居たたまれなくなって名乗り出ました。元請けはそれでよしとしたのですが、下請け会社の方が「環境省に直接もの言うような人とは、怖くて仕事ができない」と言い始め、辞職を強要しました。

会社は、「お前一人の行動のせいで他の労働者も職を失うことになるぞ」「60歳越えたおじいちゃんもいてる、この人の生活どうするんだ」みたいな脅しでした。

私は、「自分からは辞めない。クビにしたいのなら解雇しろ」と頑張ってたんですが、なかば軟禁状態で一晩中「説得」されました。携帯で連絡を取った仲間が助けに来てくれたので、逃げることができました。

この件については、後日、労働組合として団交を申し入れました。すると会社は、解雇を撤回し、いったん現場に復帰しましたが、仕事から干されるようになりました。私もこんな会社で働き続けるのも嫌なので、3カ月分の解雇予告手当を受け取って、退職しました。

編集部…危険手当にしてもマスクの件にしても、ひどい対応ですね。それでも除染労働を続けるつもりですか?

中田…当たり前のことを言ってるだけなのに、煩い奴と思われ、団交で相手の非を認めさせても、結局、金銭解決で自分が辞めなければなりませんでした。筋が通らない現実を前にかなり落ち込み、誰とも連絡を取らない時期もありました。

でも、自分たちの働く環境をよくしたいという気持ちは、今もあります。

政府やゼネコンが言っていることと現実があまりに違いすぎていますし、除染の現場は、理不尽なことばかりです。手抜き除染と言われるいい加減な除染も、相変わらず行われています。現場にいて、周りから聞こえてくる話も聞きながら、除染作業員の待遇改善のために自分にできることは何なのか?を考え続けたいと思います。

* * *

【インタビューを終えて】

「人としゃべるのは苦手」と語る中田さんは、北海道の生まれで下水道職人だったという。そんな人が仲間を募り、団交を組織し、ヤクザまがいの会社と必死で闘っている。1冊のノートを見せてくれた。自分の線量計の記録を几帳面に記録し、労働時間やその日の出来事などを書き込んでいた。線量計を持ち込んで作業現場の線量を計り、管理体制を示す写真を隠し撮りする活動も始めている。過酷な現場が活動家を生み出し、鍛えているのだ。(山田)

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