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2013/10/25更新

武藤類子さん(福島原発告訴団・団長)インタビュー

東京地検 事故責任者らを「不起訴」処分

10/16 検察審査会へ異議申し立て

9月9日、東京地検は、原発事故責任者の刑事責任を問う告訴・告発について、不起訴処分を発表した。福島地検への告発を突如東京地検に移送した上での決定であった。

三春町にある事務所を訪問し、告訴団団長・武藤類子さんに話を聞いた。武藤さんが原発に関わる経緯も、興味深い。(編集部・山田)

※※※

武藤…昨年6月(第1次)と11月(第2次)に行った刑事告訴(告訴・告発人合計=1万4716人)について、東京地検は9月9日に「不起訴」の処分を発表しました。福島地検からこの案件を、「東京地検に移送した」という連絡が入り、僅か1時間後に、東京地検は「不起訴」処分を出しました。

告訴団の弁護士は、不起訴の理由、移送の理由を問い糾しましたが、答えませんでした。後日、説明会を行うとの連絡が入り、9月13日に東京地検で1回目、9月25日に福島で2回目の説明会が開かれました。ただし、東京=15人、福島=30人という人数制限がありました。私たちは100人の会場を予約して、「来て欲しい」とお願いしたのですが、拒否されました。

不起訴理由書を見ると、業務上過失致死傷、公害犯罪法、激発物破裂罪の3つの罪状については、「嫌疑不十分」や「嫌疑なし」という判断です。「津波対策をとらなかったことの罪を問えない」との判断です。私たちは証拠資料として、石橋克彦教授や島崎邦彦現規制委の予測を提出したのですが、検察はさまざまな論理と詭弁を弄して取り上げませんでした。「最初に不起訴ありき」で、不起訴の結論を導くために、さまざまな理由をつけているだけと感じました。

例えば、巨大な津波に対応する防波堤を建設しなくても、非常用発電機を高所に上げたり配電盤を水密化することはできたと思いますが、これらについても「直ちに対策しなかったことが罪とは言えない」と免罪しています。このような理由が付けられて不起訴にされました。

編…検察審査会への異議申立ては、福島で行われず、東京のみでの開催となりますが…。

武藤…告訴団の弁護士が福島地検の担当検察官に、「東京地検に移送すれば福島の検察審査会に申し立てできないことはわかっていたのか?」と質問したら、「わかっていた」と答えました。福島地検は「捜査の統一性と安定性をはかるために移送した」と述べています。「東京と福島で判断が分かれたら困る」ということなのですが、そんなことは絶対あり得ません。検察は、統一見解を出すために、綿密な連携と組織性が担保されているからです。移送は、福島の検察検査会を阻むため以外の理由は見あたりません。

実際、北海道新聞(9月11日)のスクープが出ています。同紙によると、告訴団が強く求めていた東電本社への強制捜査について、東電に書類を用意させたうえで、形だけの強制捜査にしようということが検察内で議論されたと報じています。結局こうした形ばかりの強制捜査すら行われませんでした。記事は、検察の1年間の捜査について、「世論を意識したアリバイ作りだった」との、検察官OBのコメントで締めくくられています。

福島で検察審査会が開催されれば、審査員は全員が被害者です。被害者としての現実と心情を共有しているのですが、東京都民では難しいかも知れません。厳しい状況ですが、10月16日に検察審査会の申し立てを予定しています。

「自分がする」という自覚を

編…あらためて刑事告発の動機を説明してください。

武藤…福島原発告訴団は、事故1年後の2012年3月に結成されました。事故原発は収束にほど遠い状況で、被害者の損害賠償も誠実に行われていませんでした。さらに、二本松市にあるゴルフ場が、東京電力に除染と損害賠償を求めた裁判で、東電は放射能を「無主物」(発生源は東京電力であっても、敷地外に出たものは無関係)と主張しました。許せない主張です。東電も国も責任を取る態度が全く感じられませんでした。

このまま責任をうやむやにしてしまうと、同じ様な事故が再び起きると思ったのです。事故被害者として、「被害を二度と繰り返したくない、他の誰にも味わせたくない」との思いです。それはまた未来世代への責任でもあります。膨大な汚染物と核のゴミを残さざるを得ないのならば、真実と責任の所在を明確にし、責任のある人には責任を取ってもらって、日本社会の有り様やエネルギー政策を変えていかなければならない、と思ったからです。

編…再稼働に向けた準備が着々と進められています。

武藤…再稼働を実現するために、福島事故を矮小化し、できれば「終わったもの」としたい、という意図を感じます。これだけの事故を起こし、原因究明も不十分なまま、再稼働なんて、あってはならないことです。今回の不起訴処分も、原発再稼働や海外輸出の流れのひとつだと思います。

編…反原発運動に入ったきっかけや、今後の展望を聞かせてください。

武藤…私は、チェルノブイリ原発事故(1986年)で原発の危険性を知りました。その頃、姉が白血病になりました。原発事故とは直接関係はないのでしょうが、10年後に亡くなりました。当時私は、福島県の養護学校、知的障がいの子どもたちの学校の教員をしていましたが、こういう私的な出来事もあって、原発に強い関心を持ち、反対運動に関わるようになりました。

1988年、県内の反原発グループが集まって、「脱原発福島ネットワーク」(世話人・佐藤和良)が結成されました。そこで細々と活動していたのですが、原発はなくならないし、六ヶ所村に核燃料サイクル施設もできてしまいました。

そんな時、電通(広告代理店)が作成した「電通戦略十訓」(囲み参照)を読んで愕然としたのです。消費させるために、無駄遣いをさせろ、流行遅れにさせろ、とかいう指南書に、非常にショックを受けました。自分の生活が誰かの手の上に乗せられていたことがわかり、とても頭にきたのと、自分に対しても「消費するためだけの人間だったのか」と腹が立ちました。そして、自分が何かを作り出し、少しでも自給できる人間になりたいと思ったのです。自分の暮らしから考え直そうと思い、42才の時に山の開墾を始めました。

電通戦略十訓
@もっと使わせろ
A捨てさせろ
B無駄使いさせろ
C季節を忘れさせろ
D贈り物をさせろ
E組み合わせで買わせろ
Fきっかけを投じろ
G流行遅れにさせろ
H気安く買わせろ
I混乱をつくりだせ

山を開墾して畑を作り、エネルギーも一部を自給できるような暮らしを始めました。学校の教員も辞め、退職金で小さな家を建てて、後に喫茶店を開きました。喫茶店では、自分たちが作った野菜や山で採れた木の実などを食材にした料理を提供し、エネルギーも自給したいと思って薪を使い、太陽熱を利用した調理器や温水器を使いました。中古のソーラーパネルで電気もというふうにして工夫しながら、化石燃料や電気の消費を減らしていきました。自分たちで作ったエネルギーを大事に使う工夫をすること自体が面白く、大変だという感じはありませんでした。エコロジカルな暮らしとは、工夫することそのものなので、面白いのです。

工夫を重ねて作り上げてきたそんな生活も、原発事故で壊されました。山林は放射能に汚染され、今までと同じ生活はできなくなりました。

さまざまな場所でさまざまな人々が、原発に疑問を抱き活動を始めましたが、一人ひとりが自分の人生のリーダーシップを取ることがとても重要です。同じように、世界を変えていく社会運動も、「自分がする」という自覚が大事だなと思います。誰もが持っている力を思い出し、取り戻す作業が大事だと思います。

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