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2013/9/30更新

冷ややかな海外の眼-蘭国より

日本はどこへ?
原発、ヘイトスピーチ、慰安婦、そして五輪

オランダ在住 小淵麻奈

過去と現在の日本

オランダ人にとって、日本は特別悪いイメージがある。太平洋戦争で日本軍はインドネシアを占領し、在インドネシアオランダ人と摩擦を起こした。その体験は、当該のオランダ人に、日本人への決して消えない恨みを残した。

しかし、それを実体験した世代は、時とともに消えつつある。今の多くの若いオランダ人にとって日本への怒りは、歴史書の一頁であり、むしろ彼らは、現在の日本に新鮮な魅力を発見し、好ましいイメージを膨らませている。

アジア人と見れば中国人だと思ってしまう、比較的ナイーブなオランダ人でさえ、現代日本の知識は持ちあわせ、おおむね好印象だ。民主主義国家であること、車、電子製品ほか、さまざまなテクノロジーを持つこと、アニメなど夢を感じさせるポップカルチャーが発展していること、などだ。

しかし、最近の日本の振る舞いは、何とも不吉だ。日本の好ましさに影が落ち、《不可解な政府》という印象が広がりつつある。そんな中で東京が、7年後の五輪開催地に決定した。日本はこの暗い印象を払拭し、方向転換できるのだろうか。

原発事故と再稼働

2011年の大地震、津波と原発事故を契機に、ヨーロッパ中で脱原発運動が再活性化し、大規模なデモ行進や反対集会がたくさん行われた。

地震国・日本の50を超える原子炉数は、オランダ人の理解を超える。オランダで稼働中の原子炉は1基のみ。それでも、原子力ゼロに向けての運動が盛んだ。福島の大事故を、ヨーロッパは《地球の危機と向かい合う機会》と捉えた。ヨーロッパ市民の「脱原発」の声は高まり、原発は確実に縮小している。

それに引き換え、当の日本の与党は、原発再稼働に向けて動いているばかりか、「原子力輸出」までアピールしている。原子力利権にしがみつく人々の魂胆があからさまだ。

「安全神話」を繰り返して未来の地球環境より現在の利益を追求する政治家。人と環境の安全を犠牲にする経済成長策は、もう受け入れられない。

しかもこの2年間、汚染水が漏れ続けていたことが、明らかになった。当初から指摘されていたにもかかわらず、深刻な事実が隠蔽され、否認され、情報の公開までに2年以上もかかったのは、東電のプロ意識のなさ、能力のなさ以外の何ものでもない。それは、現在と未来の世界に関わる甚大な問題の処理を、これまで東電に任せっきりにしてきた政府の責任でもある。

このため、東電どころか日本政府も、問題収束能力のなさが疑われている。しかも、汚染水漏出の深刻さが海外メディアの指摘を受けて日ごとに浸透する中、日本の首脳は東京五輪招致に奔走し、責任意識の低さを露呈させた。五輪招致が成功してしまった今、開催の2020年まで、どのように福島を収束させていくのか。責任は極めて重大だ。

ヘイトスピーチ

オランダの主要新聞では記事にならなかったものの、アメリカなど海外メディアが繰り返し報道したのが、2月以降起こっている反韓デモだ。竹島問題の背景はさておき、反韓デモのかけ声が「殺せ」などという強烈さであることを知り、オランダ人もさすがに眉をひそめている。「なぜそのような言葉を使ったデモが放置されているのか。警察は何をしているのか」と。

ヨーロッパでは、イスラム系移民に対する嫌悪感情は続いている。しかし、公の場で人権を傷つける言葉を使うことは許されない。そんな発言の自由はない。そんなデモを許す政府、許す国だという事実は、基本的人権を守る国から見れば、まさに教養と倫理レベルの低さの象徴である。

従軍慰安婦発言

5月、大阪市長の橋下氏が、戦争時の従軍慰安婦についてコメントした。それが、@慰安婦の存在を容認する内容であったこと、A確固とした証拠がないという理由で組織的な従軍慰安婦制度の存在を否認したこと、さらに、B在日米兵に風俗業を活用するよう提言した上、失言を撤回するどころか暴言を繰り返したことは、大きな問題に発展した。それは、海外でも「深刻な問題発言」と受け取られた。安倍首相が、「『侵略』という言葉の定義がない」などと発言したのも、火に油を注いだ。

オランダには、日本に対して冷ややかな目を持つ人たちが、まだまだ存在する。ここで今一度思い出してもらいたいのは、従軍慰安婦として日本軍の犠牲になったオランダ人およびオランダ領インドネシア人である。彼女たちの体験を記録した本が、日本語で幾冊も出版されている。

@『インドネシアの慰安婦』(川田文子著、1997年、明石書店)。A『オランダ人「慰安婦」ジャンの物語』(ジャン・ラフ=オハーン著、渡辺洋美&倉沢愛子翻訳、1999年、木犀社)。B『インドネシア従軍慰安婦の記録・現地からのメッセージ』(ブディ・ハルトノ・ダダン・ジュリアンタラ著、宮本謙介訳、2001年、かもがわ出版)。C『イアンフとよばれた戦場の少女』(川田文子著、2005年、高文研)。D『「慰安婦」強制連行─史料オランダ軍法会議資料×[ルポ]私は日本鬼子≠フ子』(梶村太一郎&糟谷廣一郎&村岡崇光著、2008年、金曜日)。

ここにまもなく新たな一冊が加わる。それは、マルゲリート・ハーマー著、村岡崇光氏の訳による『もぎとられた花』と題される本である。朝鮮人慰安婦、中国人慰安婦、フィリピン人慰安婦など、さまざまな国の犠牲者の体験記録が数多く書籍として世に出ていることも、再度確認されたい。

オランダには、当時の記録が公文書として保管されている。日本軍が従軍慰安婦組織を使っていたことは、オランダ語資料でも確固たる事実である。橋下氏が「証拠がない」と勘違いしているのは、敗戦直前に、日本軍が手元の証拠文書を大量に焼却処分したからだ。「焼却処分した」という元日本兵の証言は残っており、処分後残っている日本語文書も存在するから、橋下氏の発言は、自身の不勉強をさらしたに過ぎない。しかし、はっきりとその体験を語れるオランダ人にとっては、感情的に到底許すことのできない妄言なのである。

日本人である私は、過去に起こった事実とオランダ人の観点に心を寄せ、常に配慮を忘れず行動言動することが、オランダで日本人として生活する責任だ、と自覚している。

一方、新しい日本を紹介し、両国間の建設的な関係を築くことに微小ながら貢献することも、私の仕事だと思っている。だからこそ、最近の日本の振る舞いの数々は、私には正当化も理解もできない。

五輪招致決定で、日本には今まで以上に関心が高まるだろう。日本の国際関係を草の根レベルで担う私たち海外の日本人が、誇りを持てる国であってほしい、と痛切に願う。

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