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2013/8/27更新

大阪探訪

大学・子育て・野宿者と出会う子どもたち

子ども受難時代  地域の人間関係作りから始めたい

ノースキャロライナ州立大学 ローリー校専任日本語講師 植田恵子

5月に3年ぶりに大阪を訪ねた。関西学院大学、子育て支援のNPOグループの現場、釜ヶ崎などを訪ね、一見接点のなさそうな訪問先での様々な人たちとの出会いから、子どもたちを取り巻く世知辛い環境が垣間見えた。(筆者)

「クラスカースト」のカラクリ

「クラスカースト」について興味を持っていた私は、訪問先の大学生たち(関西学院大、大阪教育大、立命館大)に、まず大学入学後の友人作りについて聞いてみた。

関学の学生は言う。「1年生の講義第1日目、僕は出遅れました。ほかのクラスメートたちは、学期が始まる前から、ネットを通して既に友だち作りが始まり、実際に第1日目にクラスで顔を合わせた時にはすっかりグループができ上がり、入る余地がなく、誰も話をしてくれませんでした。

たまたま高校の同級生が同じクラスにいて、僕の隣の学生に隣に座っている子、私の友達だから、話してあげて≠ニ話してくれたので、その子が話しかけてくれました。

でも結局、 どのグループにも入れなくて苦労しました。その後、クラスに行って、空いた席を見つけ、この席 空いていますか?≠ニ隣の女の子に聞いただけで、知らないのに話しかけてくる、この人、変な人だ≠ニ思われて、それがすぐネットで友だちのネットワークを回り、ますます友だちが遠のいていきました。知り合いの中には、大学4年間、友だちができなかった人もいますよ」。

ネットでは会話ができるのに、生身の人間を相手にすると、話せない。知らない人と話すことで生じるトラブルを避けようとする傾向があるというのは本当だったのだ、と驚いた。

大阪教育大の1年生の男子学生も、同じことを言っていた。「僕も事前に根回ししてなかったから、出遅れて、最初は友だちゼロ。できちゃっていたグループに入ろうと思ったんだけど、入れてもらえなくて、結局別のグループに入れたからよかったけど」。

「でも、みんな卒業したら小学校の先生になるんでしょ? グループに閉じこもって、ほかの人を受け入れないような人が、先生になって子どもたちをどうやって指導するの?」と思わず言ってしまった。彼は、「うん、まあそれが現実なんですよね」と答えた。開いた口が塞がらなかった。

トラブルから逃げる「ママ友」

なぜコミュニケーションのできない、「事なかれ主義」の若者が育ってしまうのだろう?一つのヒントを与えてくれたのが、子育て支援NPOで、1人のお母さんが語ってくれた、「公園デビュー」(※注A)経験談だった。

初めて子どもを公園に連れて行った日、子どもは大喜びで、ほかの子どもたちの輪の中に入っていった。その時、子どもの泣き声が聞こえた。どうやら、彼女の子どもが、ほかの子どものおもちゃを取ったらしい。子どもの間でのこと、謝ったり、返したり、仲良く遊べるだろうと思っていたお母さんのところに、おもちゃを取られたお母さんがやってきて、「このおもちゃはあげますから、二度とうちの子とは遊ばせないでください」―そうきっぱりと言われたそうだ。

「今の子どもたちは、おもちゃを貸し借りしたり、一緒に遊んだりしないんです。お母さんたちは、ケンカや揉め事を避けたいために、一人ひとり、みんな同じおもちゃを持たせ、貸し借りなんてしないんです。それにママ友の子どもたち同士でしか遊ばせないんです」と、そのお母さんは悲しそうに笑った。

子どもの頃からトラブルは避けることばかりを教えられ、ケンカして、痛みを感じたり、相手の気持ちを推し量ったり、うまくいかない時に知恵を出し合ったり、助け合ったり、そういった生身の経験をする機会を奪われたまま、育ってしまうのか─と暗澹とした気持ちになった。出遅れて、友だちができなかった大学生の経験は、こんな成長過程の延長上にあったのだろうか。

ホームレス襲撃する少年の孤独

だが、そんな家庭に貧困や不和や失業問題が起こったら、子どもたちは相互扶助の希薄な社会や学校でどうなっていくのか。釜ヶ崎では反貧困運動や日雇い労働者・野宿者支援活動などに取り組んでいる生田武志さんにお会いし、子どもたちが置かれている過酷な現実について話を聞いた。

生田さんの仕事は、貧困に苦しむ釜ヶ崎の人々に救援の手を差し伸べることなのだが、それだけではない。生田さんの重要な活動の一つは、夜回りである。寒空に野宿するホームレスの人々の健康を気遣い、野宿者襲撃から彼らを守る活動を続けている。しかし、点と点を結ぶ夜回りだけでは、野宿者の安全を守ることはできない。

中高生の野宿者襲撃事件の頻発から、殺人にまで発展した時、生田さんは、子どもたちにホームレスをはじめとする社会問題について理解してもらうことを考えた。

まず、事件を起こした高校生が通っていた高校で、生徒たちにホームレスの人々について話すことから始めた。生徒たちと向き合う時、「襲撃してはいけない」と諭すのではなく、なぜ私たちの社会にホームレスの人々が存在するのか、その社会的、経済的な背景や原因をドキュメンタリーなどを見せながら説明する、という。

参加を希望する野宿者有志がいれば、同席してもらい、経験を語ってもらうこともある。そして、生徒たちの質問に答える。例えば、ドキュメンタリーの中で、野宿者がタバコを吸っている。すかさず、生徒の一人が、「あのおっちゃんは、金もないのにタバコを吸っている。無駄遣いではないか。だからホームレスになるんや」と指摘する。そこで、野宿者がタバコを吸う意味についてみんなで考えてみる。そして、最後に感想文を書いてもらう。

その感想文の中で、「知らなかった。初めてこのような社会問題について学んだ」というコメントが多く、「自分も夜回りに参加したい」と書く生徒も2〜3人はいるそうだ。

襲撃した少年たちの心理を自分の内面とダブらせる、重い言葉を綴った生徒もいたそうだ。ある生徒は書いた。「houseはあるけれど、homeはない」─つまり、家という箱はあるのだけれど、安らげる、自分を受け入れてくれる場所がない、と。

その理由は、DVであったり、貧困であったり、家庭の不和であったり、病気であったり、一つではないだろう。家庭に居場所を失った少年少女たちは、夜中まで外でたむろするようになる。

心に傷を負った少女たちは、リストカットなど自傷行為に走りやすい。「心の痛み」を「肉体的な痛み」にすり替えようとするからだ。だが、少年たちは、自分の存在意義を示すため、心の傷を外に向かって、発散する。それが弱者である野宿者を襲撃(他傷行為)という行動になるのではないか、と生田さんは分析する。

個々の家庭が抱える多様な問題を解決する万能薬はない。しかし、家庭から弾き出された子どもたちの居場所を作ることは不可能ではない。そんな思いから、生田さんたちは釜ヶ崎に子どもたちが憩える広場を作った。放課後、子どもたちはこの部屋に集い、宿題をし、食を共にし、ボランティアたちと話したり、遊んだりして、時間を過ごす。子どもの中には、母親が飛田遊郭で働いている家庭の子どももいる。

今年初めて、この部屋に来ていた子どもの中から、2人の生徒が高校を卒業し、奨学金を得て、大学の夜間に進学する。「自分たちのような恵まれない子どもたちのために、保母さんを目指す」と言う。

ふと、先日教会で聞いた説教を思い出した。「イエスは弟子を派遣する時、必ず2人一組で送り出した。どんな困難に襲われようとも、仲間がいれば、希望を失うことなく、使命を果たすことができるからだ」。

子ども受難時代に、子どもたちが心身ともに健康に生きられる社会を取り戻すために、私たち大人がコミュニティの一員として、草の根レベルで子育てに関わっていけることは、いくらでもあるはずだ。例えば、子どもや子育てに疲れたお母さんに温かい声をかけることから始めてみてはどうだろう。

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