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2013/3/14更新

ワーキングプアと生活保護

非正規の仕事・労災・賃金未払い・失業…

「どう生きていけばいいか分からない」

インタビュー=垣内文弘さん(仮名・30才)

安倍政権が生活保護費引き下げの根拠としたのは、所得水準を10に分割した最貧困層にあたるワーキングプアの消費支出との比較だ。しかし、この最底辺層がどのような生活・労働実態なのかについての検証は全くない。生活保護制度に年齢制限はないが、若者の受給は、「働ける」という理由で、極めて制限されているのが現実だ。

垣内文弘さん(仮名・30才)は、生活保護受給の瀬戸際にいる。高校卒業後、専門学校で2年間学び、学んだことを生かせる仕事を求めて就職活動を行ったが失敗。製造工場で派遣労働を始めたが、2年半後に契約期限切れで失業。次に就職した会社では、長時間労働による腰痛がひどくなり退職。さらに次の就職先では、賃金未払い状態が1年間も続き、貯金もなくなった。今垣内さんは、「どう生きていけばいいのかわからない」と漏らす。

垣内さんが生活保護受給の瀬戸際まで追い詰められた労働の現場を語ってもらった。低賃金・不安定という劣悪な労働条件をそのままに放置しての保護費引き下げは、生存の否定でしかない。(文責・編集部)

私は、香料の研究・製造に関わりたいと思っていたので、バイオ理化学系の専門学校に入学しました。卒業をひかえて、香料に関する会社と職種を探したのですが、募集が少ないうえに、女性がメインでした。会社の一部門が若干名募集している程度で、面接を受けられたのが10社くらいでした。希望する職種には就けず、浪人できる経済的余裕はないので、派遣社員として製造工場で働き始めました。加工組み立てで2年半働きましたが、契約期間満了で失業しました。また就活です。

お菓子作りが趣味だったこともあり、個人経営のケーキ屋さんに応募、正社員として就職しました。見習い扱いなので時給900円でしたが、クリスマス―バレンタイン、ひな祭りと繁忙期でもあったため、1日18時間に及ぶ長時間労働が続きました。これが原因で腰を痛め、足の痺れ・痙攣が始まり、立っていられない状態になり、6カ月で退職せざるを得ませんでした。

3カ月ほど療養し、回復してきたので、2006年にリラクゼーション・サロンに就職しました。アルバイト雇用で、時給は大阪府の最低賃金である712円でした。その後最低賃金は、731円に上がったのですが、私の賃金がやっとその額になったのは、その年の11月でした。就職から1年後には、給料の遅配が始まりました。給料を請求すると、社長は「ない袖は振れない」と開き直る有様でした。しかし、仕事を辞めても次の仕事のあてもなく、ずるずると半年ほど仕事を続けました。

工場での派遣労働時代に貯めていた200万円ほどの貯金もなくなったので、ハローワークに相談すると、労基署を紹介されました。ところが、労基署が事実確認のために会社と連絡を取り、強制力のない「指導」とやらをすると、会社は、私を「裏切り者」としてイジメ始めたのです。

それでも給料は支払われず、パワハラも続いたので、インターネットで労働組合を調べて相談に行きました。ここで初めて、団体交渉というものを知り、申し入れると、社長は居留守を使って逃げ回りました。3カ月後にようやく開いた団交の場では、「雇用していない」などと言い放つと同時に、私の個人攻撃を始める始末でした。

当初の要求は、遅配賃金の支払いでしたが、社長の態度があまりに酷いので、サービス残業分の支払いも加えて要求書を出し直し、2回目の団交に臨みました。結局社長は、未払い残業代も含めて支払いには同意したのですが、1年間にわたる分割払いを求め、承諾せざるを得ませんでした。こうして給料は支払われることになったのですが、もう働き続けることはできず退職。

すぐに化粧品販売会社の正社員の口を見つけることができましたが、正社員といっても時給制で870円。最低賃金以下です。ところがこの会社は、1年ほどで倒産。失業しました。昨年1月、デパートの販売担当の契約社員として就職しましたが、9月に会社都合で退職となり、無職状態が続いています。

「時給800円」の悲哀

これまで働いたところは、ほとんどが時給800円台です。週6日、8時間/日働いても、毎月の手取りは13万円くらいです。貯金する余裕はなく、失業するとたちまち生活に困ります。失業保険は前職の賃金の7割給付ですから、最賃を下回り、生活はできません。

このままでは生活保護を受給して当座を凌ぐしかないのですが、私のような若い人は、審査が特に厳しいと聞いています。生活保護基準の切り下げは、最賃の切り下げにつながります。今でも生活できない賃金なのに、さらに下がると、どうやって生きていけばいいかわからない状態です。

世間の厳しい目や、生き辛さを感じながらも、時間をかけてエントリーシートを書き、面接の練習もして、履歴書を送りますが、一片の不採用通知が送られてくるだけです。こんな経験を重ねていると、自信が削り取られていって、一歩を踏み出しにくくなるのです。

不採用が繰り返され、貯金もなくなると余裕がなくなり、雇ってくれるならどこでもいいという気分で、ブラック企業に就職することになります。「生活のためとりあえず」というモチべーションなので、仕事そのものへの向上心も保ちにくく、頑張ってやっていると会社が倒産したりで、次の会社ではまた、未経験者として下積みから始めることになります。

面接で、「なぜ、3年も続かないのか?」と聞かれます。でも、もし3年もがんばっていたら、過労死するか、鬱になって路頭に迷っていたのではないかと思います。正社員として安定して雇ってくれる会社は、少なくなっています。失業保険も期間が短いので、最後に頼れるのは生活保護となります。これが切り下げられると生きていけなくなります。

「ダメなのは会社の方だったのだ」

それでも、労働組合の経験は、私に自信をくれたように思います。社長と対等に話ができること自体が驚きでしたし、自分と同じ辛い思いを抱えている人間がたくさんいることも知りました。

「残業には、割増賃金を支払わねばならない」という労働基準法にしても、もっと早く知っていれば、ケーキ屋さんでの辛い経験をしなくてすんだかもわかりません。社長が勝手に法律違反の就業規則を作り、私を含めて従業員は当たり前に受け入れていたのです。先輩に相談しても「甘えている」と叱られ、「体をこわした私がだめなのだ」と自分を責めていました。こんな働き方が違法であることを知った後は、「ダメなのは私ではなく、会社だったのだ」と思えるようになりました。

私のように希望をなくし悩んでいる人も、労働者の権利については知れば、少しは楽になると思います。

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