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2013/3/14更新

下地真樹さん(阪南大学准教授)インタビュー 「正しさ」の根源問い続けたい

悲劇もたらした原子力の否定と責任追及を
支配しない・支配されない関係性を求めて

「モジモジ先生」の愛称で親しまれている、下地真樹さん(阪南大学准教授)のインタビューをお届けする。下地さんは、がれきの広域処理焼却について、「被災地支援にならない」「現在の焼却・埋め立て方法では、安全性に大きな疑問があり、放射能の拡散になる」と、国や大阪市を批判。資料を駆使して反対の論陣を張る理論家であると同時に、「原発カフェ」の世話人、各地の集会・学習会での発言、国・大阪市への徹底した追求、不当弾圧への抗議行動など、運動の先頭で闘っている活動家でもある。昨年末には、不当逮捕されたが、釈放後もその勢いは止まらない。下地さんに「反原発」「がれき焼却反対」などの社会運動と、ご自身の研究活動との関連などについて聞いた。(編集部山田)

【下地真樹さん】沖縄県那覇市出身。1996年、琉球大学法文学部経済学科・経済学専攻。2002年、神戸大学大学院経済学研究科経済学・経済政策専攻博士後期課程。経済学修士 (神戸大学)。専攻は公共経済学、特に、近隣迷惑施設(NIMBY)問題及び社会的選択理論。研究テーマは、「再分配の経済学」。

役人は平気でウソをつく

編集部…大阪でがれき処理が始まって1カ月が経とうとしています。

下地…震災がれきは、我々が主張していたとおり、見積もり量が過大で、実際に運ばれてくるがれきは量が少なくなっているのが実情です。大阪市は、当初「365日、24時間」焼却と言っていたのですが、2月17日はがれきが足りなくて休んでいたようです。見積もりが過大であったことは明らかですが、行政はいったん動き出すと、予算を使い切るまで、なかなか止まりません。他地域からがれきを持ってくることすらやるかもしれません。市民の監視が必要です。

こんな例が多発しています。埼玉県は岩手県野田村のがれき受け入れを決めたのですが、昨年夏頃の見積もり量=5万dが、秋の受け入れ開始時には1万dとなり、最終的に、12月に1千d燃やして終了となりました。当初見積もりの50分の1です。見積もりそのものがいかに過大でいいかげんなものであるか、がわかります。宮城県のがれき処理では、鹿島JVと北九州市とで2重契約であったことが暴露されています。北九州市にがれきを送って莫大な処理費用を支払ったうえで、鹿島JVにも、契約どおりの処理費用を支払う、という2重払いになる可能性が大でした。市民から監査請求が出されて、事実が明らかになりましたが、黙っていたら不正な税金支出が行われていたかもしれません。

広域処理の必要ながれきはなくなったのですが、莫大な予算がついているので、予算消化のために運搬費が水増しされたり、処理を検討するだけで自治体に補助金を交付したりと、意味のないバラマキや不正な支出がまかり通っています。大阪市でも、2月20日に環境問題や医療の専門家らが即時停止を求める記者会見を行いました。現状への抗議や監視を続けると同時に、処理終了後も、責任追及は必要です。

警察も検察も不正を行いうる

編…抗議活動の中で、ご自身が逮捕されました。

下地…勾留理由開示裁判で最も主張したかったことは、「警察も検察も不正を行いうる」ということです。私が教えている公共経済学の世界では、他の官僚組織も含めて、警察・検察が不正を行いうるというのは、当たり前の発想です。ところが、裁判所には全くこの前提が欠落しているのです。裁判所は、警察・検察について、全面的な性善説に立っていて、不正の可能性を全く考慮していません。驚くべきことです。事実、警察は、がれき処理反対運動に限らず、路上では違法な介入行為を繰り返しています。法的根拠を示して追い返しても、しばらくすると同じウソをついてまた介入してくる有様です。

私の逮捕についても、主語すら判然としないいい加減な逮捕状を、裁判所は認めています。駅構内の監視カメラなど、客観的に存在するであろう証拠を確認すればわかる嘘を、チェックできていないのです。司法関係者同士のもたれ合いの中で、警察・検察の「性善説」がまかり通り、警察もウソをつき得るという当たり前のことに、知らんふりをしています。裁判所も「世間知らず」と言わざるをえません。

「弱者」が弱いままでする運動/「迷惑施設の立地問題」研究

編…電力料金の値上げについては?

下地…「原子力を使わないと値上げ」という論法は、とんでもない間違いで、真実は「原子力を使ってきたからこその値上げ」なのです。

現状の電気料金は、原発の事故リスクや核廃棄物処理費用を反映していないので、これを発電コストに含めれば、電気代は高くなります。経済的に不合理な原子力を利用してきたからこそ、電気代は高くつくことになるかもしれません。したがって、一般論として値上げは必要だとしても、電気料金値上げの原因が原子力発電にあること、その失敗を認めたうえで、誰がどう負担するのかを議論すべきでしょう。これを曖昧にしたままでの値上げには、同意できません。

私利私欲だけで社会は運営できない

米軍基地をどうするか

編集部…下地さんは沖縄出身です。米軍基地についてはどう考えていますか?

下地…少なくとも、いま問題になっている普天間基地など海兵隊関連の基地は侵略のための軍隊ですから、まったく平和に寄与していません。撤去すべきです。その上で、僕はアメリカも中国も、そもそも国というものを信用しませんので、当面はどちらも動けないようなバランスのところでやってもらう、ということになるかと思います。無条件に全部を撤去した場合、軍事バランスが崩れることはありうる、そう不安に思う人はいるでしょう。撤去は漸進的に進めるのがいいと思います。

しかし、「当面は一部の米軍基地が必要だ」という主張を一部認めるとしても、基地の必要性をもたらす背景とセットで考えなければなりません。たとえば、首相の靖国参拝があります。東アジアの緊張を無用に作り出している要因の一つが、閣僚らによる靖国公式参拝です。

中国政府が戦後賠償を放棄したのは、「中国侵略は戦犯である軍部が行ったことであり、日本人民もその犠牲者だ」という論理でした。これに日本も同意して、日中国交正常化を行ったのです。ところが、後になって首相が堂々と靖国公式参拝するというのは、明らかに信義に反します。相手が怒るのも、こんな国が信頼されないのも当然です。

こうした幼稚なふるまいによって東アジアに緊張関係が作られ、尖閣などの領土問題でのナショナリズムの煽動があって、初めて「米軍基地は必要」となる。だったら、こういう幼稚なふるまいをやめましょう、というのも当然のことです。そこをただしていけば、米軍基地の全面撤去はそれほど難しいことではないはずです。米軍なしでちゃんとやってる地域はいくらもあるし、むしろ、米軍こそが揉め事の種ですからね。

編…反原発運動など社会運動と、大学での研究活動は、どのような関係ですか?

下地…学生時代には社会運動の経験はありません。高校卒業後、半年ほど東京で住み込 みの仕事をし、また大学生のときには、アルバイトとして予備校講師をやっていたので、経営者と待遇改善の交渉はやっていました。基本的には自分に直接かかわる問題だけです。

それ以上の社会運動に触れたのは、大学院生のときにかかわった障がい者の自立生活運動でした。その後、フェミニズムにも関心を持ちましたが、労働運動や反戦運動といった男性が目立つ運動とは印象が違い、弱い人たちが弱さを肯定しながら運動しているようなところがありました。そこがおもしろかったですね。当時は大学院生でしたが、修士論文のテーマが「迷惑施設の立地問題」でした。念頭にあったのは米軍基地ですが、原発やゴミ処理場なども含まれます。「社会が必要とし、どこかには作らざるを得ない」とすれば、迷惑施設を、候補地住民にどう我慢してもらうのか?という問いです。

経済学的には、迷惑料を地元住民に支払えばそれでいいことになってしまいますが、どうにも気持ちが悪かったので、そこに疑問を持つようになりました。その施設が本当に必要かどうかを決める過程、つまり政治プロセスなどを検討することも大事です。そんな調子で、「そもそも正しいってのはどういうことか」「そもそも社会ってなんだ」とか、かなり根本的な問題に付き合わざるをえなくなり、政治哲学や科学哲学など、いろんな分野をウロウロしながら研究しています。

経済学としておもしろいのは、公共選択理論の分野でしょうか。政策を語るときには、「行政官僚や政治家は、理性的で公平な観点で政策決定を行っている」(ハーベイロードの仮定)と想定して、正しい政策を提起すれば官僚たちが真面目にそうする、と考えがちです。しかし、現実の彼らは、様々なしがらみや私欲をもって政策にかかわっているわけです。こういう当たり前のことを前提に政治過程の帰結を検討するのが「公共選択理論」です。

たとえば、官僚は、必ずしも公共の福祉が最大化するように動くわけではなく、予算獲得を最大化させるために動く、といったことがあります。いったん予算を獲得すると、無駄であっても使い切るまで放さない。今、環境省ががれき広域処理にこだわっているのが、まさにそれですね。

正義・公正さ求める協同の力

この公共選択理論の観点から見ると、政治や官僚組織が腐敗するのはむしろ当たり前なんですね。だから、市民がこれをチェックして止めなければならない。しかし、人々も私利私欲でしか動かないなら、こんな面倒くさいこと誰もしませんよね。かくして、社会は腐敗するわけです(笑)。でも、逆に言えば、こうした腐りきった状況を止めるには、個々人の私利私欲を越えた意思がなければならない、ということでもあります。

僕が学んできた主流派の経済学はおもしろいと思っていますが、しかし、大きな問題を抱えています。この業界では、「私利私欲で動く個人」を前提にして、それでも社会はうまく機能しうることを説明しようとする傾向が強いのです。しかし私は、そもそも私利私欲で動く人間だけで社会をうまく運営するのは無理だ、と思っています。だから、市民運動のように「正義や公正さといった違う動機づけで動く人々の協同」が、社会に影響力を及ぼしうるような仕組みを考える必要があって、そういうことも研究上の関心の一つです。

市民運動の人のつながり方や関係性も、重要テーマです。企業や行政の意思決定はトップダウン方式で、命令と服従によって運営されています。では、これに対抗する市民運動は、どうでしょうか?そもそもトップダウン方式の運営はできませんし、そうなってしまうと、市民運動の存在意義そのものが問われます。誰も支配しない、誰からも支配されないような関係性はどういうものなのか。

こうした研究テーマと問題意識があるので、がれき広域処理反対の市民運動は、一市民としての活動であると同時に、市民運動がどういう相互関係を築けるのかを考えるフィールドワークでもあります。

原子力政策の責任追及と歴史問題は無関係ではない

編…震災がれき処分、核のゴミ処分場について、研究者としてはどう考えていますか?

下地…環境省は、がれき焼却場と最終処分地について、だいたい福島県に関しては自治体ごとに1カ所、その周辺については、都道府県ごとに1カ所指定していくような施策を進めています。処分場設置の必要性については議論の余地がないのですが、環境省には「汚染を拡散せず、いかに集中管理していくか」という発想がありません。当然、汚染の酷い福島の事故現場周辺に集めていくことになります。理不尽な話ですが、現在の意思決定に参加できない未来世代のことも含めて考えれば、現在の人たちで「痛み分け」するための汚染ばらまきは許されません。

同時に、福島への集中は、福島の人々にとって理不尽なことですから、この理不尽さをもたらした原因と責任を徹底的に明らかにすることです。つまり、原子力政策の全面的否定と責任追及が必要だと思います。要するに、落とし前ですよね。

こういう悲劇をもたらした原子力政策の歴史そのものを否定して、誰に、どこに間違いの責任があったのか、しっかり真相究明することが不可欠です。無関係のように見えて、歴史問題は非常に重要です。

理不尽さの責任追及は、再発防止にとっても重要です。数十年後、「放射線防護政策の中核を担ったのは、山下俊一氏であり細野大臣であった」という歴史観が定着したとして、その中で、子どもが甲状腺ガンを発症した時を想像してください。それは単に不愉快というだけでなく、放射線被曝による健康被害の補償は、絶対に実施されません。歴史認識を誤った社会は、必ず同じ過ちを犯します。

その意味では、日本が戦争責任・植民地責任を引き受けずに目をそらしてきたことは、現在の政府の非人道的な姿勢に反映されています。文字通り、同じ過ちを繰り返しているわけです。今度こそ止めなければなりません。

したがって市民運動は、問題が複雑で広大であるときには、優先順位をつけることは重要だとしても、理解や認識の枠組みはできるだけ大きくしておかないと、前に進めなくなります。問題を絞り込んだほうが実現可能性は高いように思い込んでいる人がいますが、絞り込みは市民運動の停滞を招くでしょう。原発を問うなら、もっと広く社会問題を生み出す構造を問うていくことになるのは必然です。

とはいえ、人はそれぞれのペースで理解を深めていくものですから、慌ててあれもこれも問題だっ!とやると、引かれてしまうのもある意味当然です。「シングルイシューじゃダメだ!」と決めつけてしまうのではなくて、実際に異なるイシューの運動をつなげていく、それがわかるような言葉を紡いでいく、そういうことを丁寧に積み重ねていくことで、自然と広がっていくものだと思います。

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