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2013/1/15更新

村の仲間と未来見据えた地域戦略構想中

二本松有機農家(元農水省官僚) 関 元弘さん 

関元弘さんは、東京生まれで元農水省キャリア組。中央と地方の人事交流で旧東和町役場に2年間赴任したのが、福島との縁となった。いったん本省に戻ったが、「人と環境に優しい生活と農業を実践したい」と、2006年、二本松に新規就農した。有機農家・大野達弘さん(ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会理事長)の人柄と生き方に惹かれた、という。

耕作放棄されていた桑畑の開墾から始め、米・野菜農家となったが、農業だけでは食えないので、冬場、趣味と実益を兼ねて酒造りのアルバイト。これが基礎となって、自家製ビール造りも始めた。放射能の影響については、「もう開き直った」「ご縁があってここに来たので、いいことも悪いことも受け入れるしかない」と笑う。(編集部・山田)

アルコールツーリズム

一昨年7月に発泡酒の酒造免許を取りました。道の駅や直売所で売り始めています。福島空港の売店でも取り扱ってもらえる話もあり、年間6000gの販売が認可基準を満たせるよう努力しています。今は、販売と同時に品質向上に重点を置いています。

▲関さんの自宅にはビールサーバーが

昨年、地元の仲間20数人が集まって、東和果実酒研究会を立ち上げ、9月には「ふくしま農家の夢ワイン梶vとして法人化しました。東和町が果実酒特区として認可されたので、2000gで販売申請しています。この量なら、個人でもがんばれば手が届く販売量だからです。もともと村に「山吹会」というどぶろくを造ってお互いに試飲する同好会があったのですが、「今の時代は、どぶろくじゃなくてワインだ。若い女性に興味を持ってもらわないとダメだ」という話で盛り上がり、研究会立ち上げを決めました。

 農水省の補助金事業に申請したら200万円が使えるようになったので、「東和果実酒研究会」を事業主体にして、5反ほどのぶどう園を造成して、ブドウ作りから始めました。

 酒造免許を取るには法人格が必要なので、8人が50万円ずつ出資して資本金400万円の会社を9月に立ち上げ、免許申請したばかりです。今春には免許が取得できるでしょう。今は会員20名ほどですが、本格的に稼働し始めると、停年を迎えた兼業農家がブドウ作りを始めたりと、地域全体に拡がる可能性もあります。

もともと東和町(合併し、東和地区)にはグリーン・ツーリズム構想があって、民宿は7軒開業していますし、「子どもプロジェクト」と称して修学旅行生を呼び込もうという計画もありました。ところが、原発事故で全て挫折したのです。

一時は挫折した構想でしたが、そうした積み上げもあったので、対象を子どもから大人に変えて、再構築している最中です。清酒やどぶろく造りも視野に入れ、お酒という楽しみの部分を付け加えて、魅力ある地域に作り上げたい、という野望があります。

被災地支援ツアーは今もありますが、そのうち飽きられます。農村そのものを楽しめるような条件を整備して、人を呼びたいと思います。ブドウ作りから始めるワイン醸造体験、麦の種蒔きから始めるビール醸造体験なども含めた「アルコール・ツーリズム」です。自分たちが作った酒を飲みながら、そんな話で大いに盛り上がっています。

もたざる者の強み

除染は、雇用対策としては意味があるのでしょうが、それ以上の効果は期待していません。土から野菜への放射能の移行は、ほとんどないことはわかってきたので、畑の除染には意味がありません。そんなことに税金を使うのなら、もっと将来を見越した事業に使って欲しいです。別な形の公共事業として、5〜6年は除染や復興事業で被災地の景気を支えてもらって、その間に我々は、魅力的な地域作りの基盤を整備します。

 昨年5・9・12月に、中島紀一先生(茨城大名誉教授)を招いて、「地域づくり」の話をしてもらいました。中島先生は、@福島も日本も大きな転換期にある、Aだから目の前にある除染工事に目を奪われて、一喜一憂するのではなく、Bその先を見越した戦略を構想しておかないと、時代に翻弄されてしまう、とおっしゃってました。重要なメッセージだと思いました。こうした人たちを定期的に招いて話を聞くような、地区内外住民の学びの場として「あぶくま農と暮らし塾」(仮称)を準備しています。

 原発事故は大きな痛手でしたが、幸い東和地区の農家は、ほとんど地元に残っています。人のつながりが豊かなので、ここが好きなのでしょう。私も都会から来た新規就農者ですが、新しいことをしても応援してくれるし、助け合いながら進むという結いの精神が生きています。未来像としては、消費者と直接つながっていくような農業を構想しています。

行政も巻き込み協力者に

そうした村づくりをする上では、行政を敵にまわすのではなく、抱き込んで協力者になってもらうべきです。私ももともと行政マンですから、彼らの心理はよくわかっています。行政マンは、いい実績事例を残したいと思っています。新しいことを始めるにあたっては、夢を語り、成功のイメージを見せると、協力者になります。「何かしてくれ」じゃなくて、「こうすればうまくいく」と語りかけて、「お前の実績にもなる」と言えば、乗ってきます。

村づくりのための主導権と実はしっかりつかんで、成果を行政の業績として差し上げればいいのです。今や政府も自治体も財政難で、「市民との協働」を掲げています。今こそチャンスです。

私のような新規就農者は、もともと一定の収入があったわけではありません。今年は良かった、悪かった、という段階ですから、前年と比べてこれだけ収入が下がったというように、放射能被害による実害額を算定しにくいという事情があります。特に有機農業は、土を作りノウハウを蓄積しながら少しずつ上向くというものなので、立証できない未来の利益までの補償は認められないでしょう。

その点、持たざる者である新規就農者は、失うものがないから深刻にならず前に進めるので、有利なのかもしれません。

◇  ◇  ◇

関さんは、事故から2年目を迎えても、村に残るという決意に些かの揺らぎも感じさせない。次から次へと構想を立て、仲間を作って実現への道を歩んでいるように見える。子どもの被曝の不安・農業への放射能被害など、問題や不安は山積みのはずなのに…。「悩みや泣き言を聞いたことがありませんね」と問うと、「わたしは、生来のペシミスト。生きること自体がしんどいもんだとずっと思ってきましたから」との言葉が返ってきた。(山田)

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