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2012/12/20更新

【中国共産党第18回大会に見る中国の未来図】

中国人民解放軍タカ派台頭と軍産複合体の形成

民族主義に傾斜する中国共産党

加々美光行さん(愛知大学教授)に聞くA 

自民党・安倍首相の誕生。そして尖閣上空に飛来した中国機。日中関係の悪化は、避けられない情勢だ。習近平氏を新たなリーダーに選んだ第18回中国共産党大会について、加々美光行さんに分析をお願いした。人民解放軍は軍産複合体として自立的性格を強め、軍内タカ派の台頭と合わせて、中国を民族主義に傾斜させているという。「米国の意向をよく理解している安倍晋三氏は、中国の脅威を煽り、米軍の肩代わりを含めて、日本の軍事化に突っ走る」との懸念も表明した。(文責・編集部)

新指導部・習近平新総書記のストレス

18回中国共産党大会で選出された新指導部が背負った課題は、次の4つです。@「公正・平等」を基本とする新たな未来図を描くこと、A一党独裁の歪みに由来する「党・政・企の癒着」による腐敗構造をただすための政治体制改革の課題を提起し、ロードマップを提起すること、B成長第一主義を脱却し、格差是正の具体策を提起すること、外交面では、C南シナ海の南沙、西沙、東シナ海の尖閣の国際紛争を解決すること。いずれも、極めて困難な課題です。

中国の現状は、以下の3点にまとめることができます。

まず、@中国の社会矛盾の激化、です。農民暴動、労働争議、住民紛争が全国で生じていますが、これは、高度経済成長の「ツケ」として階層間格差、地域間格差、産業間格差、民族間格差など、深刻な貧富格差の拡大が背景にあります。環境破壊は、経済成長を目ざした開発政策の結果ですが、民族間格差の背景も、開発問題です。莫大な開発投資が、現地民族住民ではなく、出稼ぎ漢民族に吸い上げられているからです。

1994年にこうした紛争に参加した人数は約70万人でしたが、2011年には、公式数字で約500〜600万人に激増しています。実際は1000万人を超えているでしょう。発生件数・参加人数は、17年間で約10倍という激増ぶりで、特に、開発による環境破壊に関わる紛争の激化が顕著です。この趨勢を放置するなら、体制崩壊につながる危険が増大します。

習近平は胡錦涛を引き継いだわけですが、習近平は、これまでのような高度経済成長が非常に困難であることは理解していますので、大きなプレッシャーとなっています。

次に、外交面でも事態は困難です。後で詳しく説明しますが、軍内タカ派の台頭です。対外強硬論の圧力で、外交交渉の選択肢も狭められています。Cの尖閣について中国は、尖閣の接続水域に常時、継続的に監視船を配備し、断続的に領海に侵犯することで、日本の尖閣に対する「実効支配」および「国有」を有名無実化し、空洞化することを目指しているようです。日本の実効支配の空洞化が現実になった時に初めて「棚上げ論」も含めて日中相互の譲歩によって尖閣の具体的解決が図られうるからです。

今後10年の国家運営を任された習近平は、共産党体制崩壊の危機に立ち向かうという強いプレッシャーの中で、国家主席に就任します。ただし、共産党には未来ビジョンの欠如、という最大の課題があります。胡錦涛は、個人崇拝禁止という党決定を重視し、集団指導体制で国家運営をしてきましたが、これは同時に、個人的リーダーシップを発揮しにくい環境でもあります。

習近平は、軍に十分な人脈はありません。江沢民の影響力が強く、軍産複合体として自己増殖しています。習近平は、この3つの高いハードルを越えられなければ、体制崩壊を招くかもしれない、というプレッシャーの中で指導者となりました。

オバマ政権の「戦略東移」

次に、軍内タカ派台頭の背景を分析します。昨年10月、オバマ大統領は、オーストラリア議会およびダーウィン基地で、新たなグローバル軍事戦略について語り、「アジア重点=中国包囲への転換」を明らかにしました。クリントン・ブッシュ時代の「両洋戦略」(北大西洋と太平洋、両方股にかけてロシアと中国を囲い込む)からの転換を宣言したものでした。

今年6月には、パネッタ米国防長官が、シンガポールのアジア安保会議で「米海軍のプレゼンス(配置)をアジア=6、ヨーロッパ4にする」と明言します。戦略転換の主な原因は、@イラク・アフガニスタン戦争の泥沼化・失敗と、A米経済の凋落ですが、中国軍部・党内には、急速に危機感が強まり、指導部の中で太平洋戦略が決定的に重要視されるようになりました。

こうして海軍の発言力が増し、タカ派化するのですが、海と空は一体のものとして戦略を構築するとの基本認識があるので、海・空軍の幹部を中心に対米強硬派が一気に台頭しました。これは必然的に日本に対する警戒感につながりました。

というのも、米・中の太平洋に対する軍事的支配権=制海権は、9対1くらいで、圧倒的に米国優位です。中国側から見るとまず、@日本列島|琉球列島そして尖閣・台湾は、中国を封じ込める「海の万里の長城」となっています。これを越えて太平洋に進出するには、わずかな公海しかないので、尖閣の日本領有は、看過できない事態なのです。

また、A中国艦船は太平洋上に補給基地がないために、十分な活動ができません。さらに、Bミサイル防衛網を比較すると、米国が日本・韓国・太平洋上・本土と幾段にも構築されているのに対し、中国は全く未整備です。太平洋における米・中の軍事バランスは、圧倒的に中国劣勢なのです。

万が一、中米開戦となると、海の戦場は中国沿岸海域とならざるを得ず、これは沿岸部に重要都市をもつ中国にとって、致命的です。ミサイルが各都市に撃ち込まれれば、瞬時に勝敗が決します。

中国は、海上での戦線を太平洋上・グアム辺りまで押し返す必要があり、そのために胡錦涛は、党大会政治報告で「海洋強国の建設」を打ち出しました。ですからこれは、対米防衛的な戦略スローガンと言えます。

実際、胡錦涛も習近平も、軍部タカ派の先制攻撃論に対し、「絶対ダメだ」とくり返しています。これは、日本に対しても同じです。尖閣問題で中国が軍事的行動をとり、万が一にも米国の介入を招けば、悲惨な敗戦が不可避だからです。

中国は、尖閣を日本と共有してもいいと思っています。尖閣の周辺で日本が排他的領有権を主張せず、中国艦船が自由に往来できさえすれば、中国の戦略構築の選択肢が増すからです。尖閣問題は、海底油田権益の問題として語られがちですが、中国指導部にとっては、軍事的側面が重要と言えます。実際中国は、尖閣周辺の油田開発について共同開発を提案しています。拒否しているのは日本政府なのです。同じことは、西沙諸島、南沙諸島についても言えます。米国の封じ込め政策との闘いという観点で、インド洋における中国の海洋政策を進める上で重要となっています。

軍産複合体の形成

江沢民は、今年5月、党中央軍事委の郭伯雄副主席・徐才厚副主席と梁光烈国防部長に手紙を出して、「全軍は突発的開戦に準備を固め、ハイテク戦争に勝利する決意をもつよう」主張しました。

第18回党大会に対しても、党中央委、党中央政治局、党 中央書記処、国務院副総理、全人代副委員長に軍指導者を任用するよう要求しました。

軍に対する影響力は、胡錦涛よりも江沢民の方が勝っています。胡錦涛は、中央軍事委主席に就任して、師団長クラスを自派の軍人に替えましたが、それで実態が簡単に変わるものではありません。軍は、軍需国有企業と一体化して巨大な利権集団になっているからです。胡錦涛が上層部を入れ替えても、半年もしないうちに利権集団に包囲され、取り込まれてしまうのです。中国には、米国と近似した軍産複合体が形成されているのです。

2008年の中国の国防費は、日本円換算で約5兆4300億円でしたが、12年の予算額は、8兆4500億円(前年比11・4%増)まで増加しています。日本の約2倍です。過去24年間で、国防費は30倍に増加しています。これは、国営軍需企業に巨大な資金が流れているということです。

この巨大な資金の流れの中で、一部を懐に入れる輩がいないわけはありません。莫大な利権がここにあると思われます。しかも、軍の情報は高度の機密扱いなので、チェックされることもありません。もはや軍は、党中央の手足となって働く機関ではなく、自己増殖する複合体となり、党軍関係の逆転傾向も出現しています。

「中華民族の偉大なる復興」のための「海洋強国論」

胡錦涛は、党大会初日の政治報告で、「海洋強国の建設」を打ち出しました。また、新たに総書記に選出された習近平は、中央政治局常務委員披露の記者会見で、「中華民族の偉大なる復興」を掲げました。

「海洋強国の建設」と「中華民族の偉大なる復興」は、セットになったスローガンです。習近平発言は、9月中旬の尖閣防衛反日の運動が民衆の民族主義の激化と、同時に中国政府批判を含むものだったことを意識して、政府みずからが民族主義を唱導しようとしたものです。つまり「海洋強国」は、官民対立ではなく、官民融合の民族主義によってのみ支えられるのです。

中国は、3500年の歴史がありますが、基本的に大陸国家として中華帝国を築いてきました。明朝時代に「鄭和の大航海」が行われますが、これは例外といえます。「海洋強国」のスローガンは、長い中国の歴史の中でも画期的で、重い意味が含まれています。それは、オバマ政権の「戦略東移」への対抗です。

こうした軍事力強化方針の一因は、尖閣問題で胡錦涛指導部が「妥協的・譲歩的外交」として批判され、窮地に立たされたことです。指導部が傍観している間に、日本は実効支配を強めて「領土問題は存在しない」と開き直るようになり、「国有化」まで許してしまった、と強

い批判を浴びました。胡錦涛と習近平は、「弱腰外交」との批判に応えざるをえなかったのです。

 解決の道を閉ざした外務省

2010年10月、前原外相は、外務省の見解を基に、国会答弁で「『尖閣問題棚上げ論』は、中国が一方的に主張しているもので、日本政府は同意していない」との見解を発表しています。「棚上げ論」は、日中国交正常化(1972年)の際に周恩来が提案し、田中角栄も固い握手で応えたものです。

「戦争状態を終結させて国交を正常化する重要な決断を前にして、尖閣のような小さな島の領有権をめぐって言い争うことはやめよう」という呼びかけでした。

78年、日中平和友好条約のためのケ小平と福田赳夫との首脳会談でも、ケ小平が、再び長期棚上げ論を提案し、調印しています。そうした歴史経過がありながら、今さら外務省が「日本は同意していない」などと主張するのは、常識的に通用しません。外務省は、「尖閣領有問題については議論しない」という立場に固執し、問題解決の道を自ら閉ざしたのです。

中国は、尖閣諸島付近の天然ガスを共同開発したがっているし、公式に提案もしています。69年に地下資源の存在が確認されて以降、日本は掘削をしていません。理由は、尖閣と琉球諸島の間に深い海溝があって、パイプラインを敷設できないため、ガスを那覇に運べないからです。

日中共同開発なら、掘削したガスを中国側の海底に沿ってパイプラインで中国まで運んで、そこで液化してタンカーで日本に運ぶことができます。掘削のインフラ建設と運営は日本が行い、液化・精製は中国の港を借りる、という分担にすれば、分配率は7対3くらいで日本の方が多くなります。《領有権は棚上げして、資源を共同開発する》というのが、最も合理的で現実的な判断のはずです。

資源開発という点でも、外務省が発表した「棚上げ論無効声明」は、本当に愚かな文 書です。

安倍政権誕生への危惧

中国指導部が「海洋強国の建設」を打ち出したので、米国は「中国の軍事大国化」を批判し、日本を煽動するでしょう。米国は軍事費削減の必要もあり、日本政府に「応分の負担」を求めたいからです。

自民党・安倍総裁は、そうした米国の意図がわかっていますから、日本の軍事負担を引き受けるでしょう。彼の祖父である岸信介の行動と全く同じです。

安倍内閣が成立するようなことになれば、中国の軍事的脅威を強調し、防衛費の増額に繋がるでしょう。米国政府は安倍政権を後押しします。

日本では、中国の脅威が宣伝されていますが、中国の目はアメリカを向いているのです。こうした基本構図をしっかり理解すべきです。

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