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2012/8/30更新

河田昌東さん(「NPO法人チェルノブイリ救援・中部」理事)が語る
「放射能と内部被曝」  

放射能による健康被害、特に低線量・内部被曝の影響については、わかっていないことの方が多い。7月12日、西宮市で「放射能と内部被曝」とのテーマで講演を行った河田昌東さんに話を聞いた。同氏は、チェルブイリ原発事故の後、汚染地帯で医療支援や農地の再生などの活動を続けてきた

「チェルノブイリ救援・中部」の理事。「チェルノブイリで学んだことを日本に還元したい」と、福島の農業再生支援も行っている。同氏は今、「ここまではわかっているが、ここはわからない、ということをはっきりさせ、共有する」=「無知の知 」を提案している。(文責・編集部)

食品からの内部被曝は不可避/1日10ベクレル以下ならかろうじて合格点

汚染の少ない野菜と生物学的半減期

内部被曝を避けるには、放射能の粉塵を吸わないことがまず重要です。次は、汚染したものを飲まない・食べないことですが、これはとても困難です。日常生活の中ですべての食材を放射能測定などできません。ただし汚染しにくい食品を選ぶことは有効です。きゅうり・なす・トマトなどは、土壌が汚染されていたとしても、野菜は大丈夫です。

飲料水ですが、深い井戸水は大丈夫です。南相馬市の水道水を調査しました。南相馬にはダムがあり、森からの水が流れ込むので心配していたのですが、全く汚染されていませんでした。5カ所の水源がすべて地下水だったからでしょう。

ちなみに首都圏の飲料水は心配です。水源である利根川上流には、汚染された森が拡がっています。今は大丈夫ですが、時間が経つと枝葉が腐葉土化して、雨水に溶け出して浄水場に入ってくる危険があります。

いくら気をつけていても、大なり小なり内部被曝から逃れることはできません。重要なのは、被曝の影響を減らすことです。対策の第1は、取り込んだセシウムを体外に出すことです。ペクチン(みかん等に含まれる)やキチンキトサン(きのこ、えび・蟹の殻)を食べると、セシウムを吸着するので、ウンチとして体外に排出できます。ベラルーシの子どもを対象とした実験でも、効果が実証されています。

次に大切なのは、生物学的代謝による影響の減少です。人間の体細胞は常に入れ替わっていますから、新たにセシウムを取り入れなければ、体内のセシウムは減少します。これを生物学的半減期といいます。ですから、代謝が活発な赤ちゃんや子どもを汚染されていない場所に避難させるのは、効果があります。

福島でも食品選べばリスクは抑えられる

政府は、年間1_Svを基準にしていますが、これは体重50sの人だと、76000Bq/年までセシウム摂取を容認することになります。

ベラルーシの医師であり研究者であるバンダジェフスキー氏は、自分の病院で死亡した1500人を解剖し、各臓器ごとのセシウム被曝量を測定しました。

彼の論文によると、「体重sあたり50Bqを越えると危険だ」と結論づけています。極めて大きな開きですが、バンダジェフスキーの基準からすると、日本政府の基準はとんでもなく甘い基準だと言えます。

バンダジェフスキーの基準を目安とすると、毎日10Bqのセシウムを食べたと仮定して計算すると、大人も子どもも約30Bq/sで平衡状態となります(体重50sの人なら1500Bq)。これならかろうじて合格点と言えます。私たちの日常生活では、10Bq/日以下をめざすべきだと思います。

少なくとも関西で生活する人の内部被曝は、10Bq/日未満だと思います。以前、福島の男性2人の内部被曝量をホールボディカウンターで測ったところ、1200Bqと1400Bqでした。微妙なところですが、内部被曝を気にして食品を選んだりすれば、10Bq/日は、福島県内でも可能な数値です。

朝日新聞が、福島県民の一日分の食事を計測した結果を発表しました。約6Bq/日だったそうです。理由は、福島県内産野菜の汚染レベルが低かったからでしょう。

ガンだけでない健康被害/心臓病4〜5年後に激発? 

放射能による健康被害としてガン・白血病ばかりが言及されていますが、チェルノブイリの経験によると、それは病気全体の1割以下です。もっと多いのは心臓病、次いで脳血管病などです。

これらの大半は、成人病です。水俣病の原因は有機水銀、イタイイタイ病の原因はカドミウムというように、これらの公害病は因果関係が明確でしたが、放射能に関しては、特有の病気というのはありません。つまり、放射線による健康被害は、成人病の発症リスクがさらに高まるということです。

ナロジチ村では、事故から4〜5年後にこれらの成人病が急増しています。村の大人の6割が何らかの病気に罹っていました。子どもや赤ちゃんも、この頃から病気が増えています。子どもなのに脳血管病や心臓病が増えています。

こうしたチェルノブイリ事故の経験や教訓が、日本政府の施策には全く生かされていません。全く腹立たしいかぎりです。

福島の子どもの3割に甲状腺異常

山下俊一氏が副学長に就任している福島医大が、福島の18才以下の子どもを対象に甲状腺健康調査をしています。その結果によると、3割の子どもたちに5_以下の脳胞や水疱が見つかりましたが、「悪性ではないので、心配ない」と評価しました。

一方、名古屋に避難してきている福島出身の母親たちが名古屋の病院で独自に子どもたちの甲状腺検査をしたところ、9人中8人に嚢胞ができていました。非常に心配しています。

この結果については、もし、非汚染地域で同様の病状が5%しかなければ、福島の結果は明らかに異常と言えます。ところが、他地域や過去といった比較対象がないので、評価が困難です。

もうひとつ問題なのは、甲状腺検査は全国どこでもできるのですが、福島の子どもたちに関しては福島医大が独占的に調査するので、他の医療機関ではしないよう、山下教授が学会で通達を出しました。

本来、甲状腺検査の基準を決めれば、全国どこでもでき、データも豊富化し比較もできるのですが、福島医大に一元化し、しかも次回の検査は2年後としてしまったために、福島の保護者たちは心配し、不満を募らせています。

歪められた安全基準/原発推進機関IAEAが学会発表を統制

内部被曝に関する国の評価基準は、非常に甘いものだと言わざるを得ませんが、政権が変わっても大きくは変わらないでしょう。これには理由があります。WHOと原発推進機関であるIAEAの契約です。放射能に関する病気は、WHOとIAEAが合意したものしか国際基

準として発表できない、という取り決めがあるのです。国際会議のテーマについても、双方の合意が必要になっています。

つまり、WHOが独自の研究を行ってもIAEAの了解なしに結果を公表することができないのです。これには、歴史的な経緯があります。1959年米ソの冷戦時代にアメリカのアイゼンハワー大統領によって「核の平和利用」政策が発表されます。つまり原発推進宣言です。

そうなると、大量の原発労働者が被曝することになるので、一定の安全基準の策定が必要となりました。この際、当時の国連事務総長が、先のWHOとIAEAの契約を諮問しました。

こうしてWHO・IAEA体制が始まったのですが、チェルノブイリ事故対応の際に矛盾が明らかになりました。事故後、様々な研究や調査結果が発表され議論されたのですが、ことごとくIAEAがストップをかけたのです。

こうして、原発推進に都合のいい研究だけが、WHO=国連の公式基準となっていきました。したがって、IAEAに加盟して原発を推進する各国政府が、これを越える判断や厳しい基準を策定することはありえません。山下教授もWHO基準を錦の御旗にして繰り返しているだけなので、100_Sv基準は、簡単には覆りません。

ガレキ広域処理で安全基準の緩和

震災ガレキの広域処理について政府は、8000Bq/sまでは埋め立て可能という基準を作りました。これは安全基準ではありません。

福島事故の1年前に、低レベル放射能汚染物の処理に関する法律が作られました。原発廃炉にともなう大量の汚染物を処理する必要に迫られていたからです。低レベル汚染物を一般ゴミとして処理するための基準値=クリアランスレベルが、決められました。セシウムに関しては100Bq/sでした。

ところが福島事故が起こり、この基準ではとても処理できないことが明らかになり、環境省の内部討論だけで、いきなり8000Bq/sに基準を緩和しました。この基準は、震災で発生した可燃ゴミを燃やして灰にした時に想定した数値です。つまり、基準値決定の要素は、「安全」ではなく、「処理するため」なのです。

このガレキ処理は、原発廃炉に向けた国民感情の地ならし=放射能への拒否反応緩和という側面が強いと思います。

震災ゴミ量の見直しによって、可燃ゴミは現地処理できることが明らかになりました。残る問題は、コンクリート・鉄・ガラス等の不燃ゴミです。これを全国にばらまいて、埋め立てようとしています。

放射能汚染処理の基本は、「拡散させない」です。放射能ガレキを分け合うというのは、病気を全国で分け合うということです。したがって、賢明な選択とは、現地で確実な防止対策をとることだと思います。基本的には、放射能汚染ゴミはその発生源である福島第1原発施設に集め、惨禍を忘れないためにピラミッドのような大きなモニュメントをつくって、厳重に管理すべきだと思います。(終)

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