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2012/8/4更新

第三者機関による再調査を! 大飯原発・志賀原発

活断層の上に建つ原発は 即時運転中止に

志賀原発2号機 運転差し止め判決の元裁判官・井戸謙一さんが語る

内から見た裁判所

見せしめ的差別人事で、もの言う裁判官を冷遇

7月1日、エルおおさか(大阪市中央区)で、志賀原発運転差し止め判決を書いた元裁判官・井戸謙一さんを招いて、司法の独立がどの程度確保され、変化してきたのか?考える集会がもたれた(主催:神坂さんの任官拒否を考える市民の会)。

井戸さんは、2011年に裁判官を退官して、現在滋賀で弁護士を開業している。1979年に裁判官として任官。金沢地裁で、志賀原発2号機運転差し止め訴訟の1審を担当。裁判長として運転差し止めを命じた(2006年)。また、参議院定数訴訟(1993年)では、合議体の一員としてで違憲判決を下した。

現在は、弁護士として「ふくしま集団疎開裁判」(仙台高裁)、若狭原発再稼働禁止仮処分事件(大津地裁)、大飯3・4号機定期検査終了証交付処分差し止め請求訴訟(大阪地裁)に関わっている。講演から原発訴訟に関連する内容を紹介する。(文責・編集部)

志賀原発2号機 運転差し止め判決

井戸氏は、2002年に金沢地裁に着任した際、提訴から3年が経過していた志賀原発2号機運転差し止め訴訟を担当することになり、2006年に運転差し止めを命ずる判決を言い渡した。志賀原発は最近、敷地内の活断層が確認されつつある。同判決は上級審で覆されたが、井戸氏が書いた判決の正しさが証明されたことになる。

差し止め理由は、@北陸電力による地震振動の想定が不十分、A想定を越える地震が発生した場合、多重防護が機能しない、B過酷事故が起こる具体的危険がある、というものであった。

地震動の想定が不十分とした理由は、3点。@邑知潟断層帯が引き起こす地震の規模の評価が小さすぎる、A直下地震の想定が小さすぎる、B想定地震によって生じる原発敷地の地震動の評価方法が合理性を欠いている、というもの。

北陸電力は、裁判で、邑知潟断層帯について、@個々の活断層が動くことがあっても、全体が同時に動くことはない、A原子炉敷地に最も影響が大きい断層による地震の規模は、最大でM6・3、としていた。

ところが、2005年に発表された「邑知潟断層帯の長期評価」(地震調査研究推進本部)によると、断層帯は1つの区間として連動する可能性があり、その場合最大M7・6の地震が発生する予測していたのである。

北電の当時の主張は、大飯原発再稼働を強行した関西電力の主張と酷似している。東洋大・渡辺満久教授(変動地形学)は、「(大飯原発敷地内にある破砕帯は)大飯原発周辺にある海底活断層が動くと、敷地内の破砕帯も連動して動く可能性がある。詳しく調査するべきだ」と話している。

渡辺教授の懸念は、関電株主総会でも議論になった。脱原発派株主が再三にわたって再調査を提案したが、取締役会はこれを拒否。その理由も「ボーリング調査をはじめとする現地調査を実施しているから」というもので、当時の北電の主張とまったく同じだ。「ボーリング調査は、針の穴で地中を突っつくようなもの」(井戸氏)なので、調査地点のすぐ横を断層が走っていてもわからないのである。

電力会社の甘すぎる想定地震動

井戸氏は、電力会社による想定地震動を越えた地震の事例も紹介した。1995年1月の兵庫県南部地震(M7・3)では、神戸大学工学部の実験棟トンネル内の地震計が305・3ガルを記録。電力会社が採用している振動予測方法による振動を、ほとんどの周期で上回ったという。

さらに、2005年8月の宮城県沖地震(M7・2)では、女川町で震度5弱(震源の深さ42q、震央からの距離50q以上)、女川原発の解放基盤表面における加速度は284ガルが記録された。ところが、東北電力が設計用最強地震として想定した仙台沖地震は、M7・4(震源の深さ12q、震央距離48q)で解放基盤表面加速度は250ガル、という計算をしていたのである。

つまり、宮城県沖地震は、東北電力が想定していた地震の約半分の規模であったにもかかわらず、原発敷地内の揺れは、最強地震の想定を越えていたのである。電力会社が採用している振動予測は合理性がなく不十分であることが、事実によって示されることになった。

この「運転差し止め判決」は、耐震設計指針の見直しにも大きな影響を与えた。判決後の2006年に策定された「新耐震設計審査指針」では、活断層の存在が確認されていない場合の直下型地震の地震動の規模がM6・5からM6・8に引き上げられるなど、厳しくされた。

判決後に想定地震動を越えた事例も紹介された。2006年3月の能登半島地震(M6・9)では、志賀原発敷地の揺れは最強想定(S1)の約2倍、念のために想定されている振動(S2)をも上回る揺れが観測された。

また、同年7月の中越沖地震(M6・8)では、柏崎刈羽原発敷地内で1699ガルを記録した。これは、S2の4倍近い揺れで、「過酷事故になってもまったく不思議ではない事態だった」(井戸氏)のである。

ことほど左様に、地震による原発の揺れは予測が困難で、電力会社が主張する「安全耐震性」などまったく信頼できないことが、事実によって示されている。

青法協への露骨な人事差別

志賀原発判決に関して、どこからも圧力はなかったのか?井戸氏は、「全くなかった」と共に、「判決をしたことによって冷遇されることもなかった」と言う。

ただしこれには、1967年に始まる政治権力による司法界への執拗な圧力と、それに同調してきた最高裁の長い歴史が関係している。以下、井戸氏の説明だ。

戦後の「民主化」によって、裁判官の世界でも自由闊達な雰囲気が広がった、ものが言える時代が続いた。そうした裁判所司法界への政治介入が公然化したのが、1969年の西郷法務大臣発言だ。「あそこ(裁判所)だけは手が出せないが、今や何らかの歯止めが必要になった」と発言した。1971年には、青年法律家協会(青法協)会員であった宮本判事補の再任拒否事件が発生し、石田最高裁長官(当時)が「(裁判官が青法協に入るのは)好ましくない」と訓示した。

その後は、青法協会員を社会的に重要な事件の少ない支部や家裁に配置するなど、差別的な人事が行われた。こうした露骨な圧力によって、100名以上の裁判官が青法協を脱退した。

毎年のように、青法協に所属している司法修習生の任官拒否が発生した。井戸氏が任官した79年にも、5名の司法修習生が任官を拒否されたが、全員、青法協会員だった。84年には、青法協裁判官部会が青法協から分離独立を余儀なくされた。宮本再任拒否事件をきっかけに結成された全国裁判官懇話会の世話人裁判官らも、司法行政上の枢要ポストにつくことはできなかった。

このように、「青法協」や「全国裁判官懇話会」等、裁判官の自主的な集まりに圧力をかけながら、裁判官への統制が強められていったのである。

裁判所に変化はあるのか?

一連の人事政策の結果、裁判官の自主的集まりは衰退し(現在は、「日本裁判官ネットワークが残っているのみ)、現在では「裁判官が同質化し、裁判官の世界がいわば一色になってしまった」という。井戸氏が司法修習生になった頃にいた元気のいい戦闘的な裁判官が次々と退官し、官僚組織として整備されていった裁判所で、若手裁判官は、先輩裁判官の指導を仰ぐよう徹底的に教育され、「素直な裁判官ばかりになっている」という。

「上級審の動向や裁判長の顔色ばかりをうかがうヒラメ裁判官がいるといわれるが、私は少なくともそんな人は全く歓迎していない」―この最高裁長官の訓示(2004年、新任裁判官の辞令交付式)は、裁判官の官僚化を最高裁当局自身が憂慮せざるを得ない事態を示している。

もはや、志賀原発運転差し止め判決や下級審での違憲判決も、問題視する必要はなく、むしろ司法の健全性をアピールする好ましい事例となっているようだ。

最後に井戸氏は、3・11後の裁判所について語った。福島県二本松市のゴルフ場が東電に対して起こした除染等仮処分の申立ては、東京地裁が却下。井戸氏が代理人となった福島県郡山市の子どもたちが市に疎開させることを求めた申し立ても、福島地裁が却下。大飯原発3・4号機の定期検査終了証交付の仮の差し止めを求める申し立ても、大阪地裁が却下した。行政に配慮する判断が続いている。

こうした裁判所に変化は期待できるのか?井戸氏は、「制度のレベルでは、司法の果たすべき役割と司法の独立には限界がある」としながらも、個人のレベルでは、裁判官個人が、どこからの圧力を受けることなく、正しいと信じる内容を表現することができるので、「市民の認識が変われば、裁判官の認識も変わる」その意味で「市民運動は、重要」と締めくくった。

[話を聞いて]

政治権力への迎合が止めどなく進んでいるように見える裁判所。その内側にいた元裁判官は、これをどう感じているのか?井戸氏は、これを率直に語った。

この講演会を主催した神坂直樹さんが裁判官への任官を拒否されたのは、歴史的に続いてきた露骨な排除と差別的人事をとおした裁判所統制の一環であったことがよくわかる。神坂さんは、弁護士登録という退路を自ら断って、最高裁人事の不当性を訴え続けている。

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