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2012/1/14(土)更新

東電倒産は資本主義の枠組みでもごく普通のルール

株主・銀行・取引先も賠償責任を負うべき

京都大学大学院経済学研究科教授(財政学、環境経済学)/「京都市環境審議会」委員
諸富徹さん   

「東京電力が倒産するのは当然」。この一言を封じるための言説が、マスコミを流布しはじめている。「東京電力と社員を憎むのはやめたほうがいい、会社を潰してしまえ、とかむちゃくちゃなことを言う人がいる」と発言する有名作家。原発に関してすら、「黒か白かで判断してはいけない。逆に自分が白黒でなんでも判断するようになったら『これは危ないゾ』というシグナル」と語る精神科医。

諸富徹さんは「東京電力が倒産するのは、資本主義社会の枠であってもごく普通のルール」と憎しみどころか、淡々と話を進める。むしろ東電の倒産こそが、この未曾有の事態に責任を取るための「はじめの一歩」ではないだろうか。(編集部・栗田)

問われないままの「企業責任」

――今回、人民新聞では「東京電力の企業責任を問う」ための特集を組んでいます。

巨額な賠償費用を誰が負うのかという話になると、東京電力が責任を負うのではなく、国家が国債によって東電をフォローする。すなわち個々の納税者がこの巨額の賠償費用を賄う、というシステムができあがりつつあります。諸富さんは、東京電力や、東電を支えてきた株主や銀行こそが、原子力事故の賠償責任を負うために、法的整理を受けるべきだ、とおっしゃっていますが、このことについて、さらに詳しくお話いただけたらと思います。

事業計画シミュレーション− 結果の概観

〈純資産〉
シミュレーションの結果、原子力稼動ケースに関しては、いずれの料金のパターンにおいても、資産超過を維持できると試算されたが、原子力発電所の稼動時期が遅れるとともに徐々に純資産が減少するリスクが拡大していく。

〈資金面〉
全てのケースで資金不足が生じており、原子力稼動ケースにおいても、値上げ率に応じて、約7900億円〜約3兆8000億円までの資金不足が生じると試算されており、資金調達策の検討が必要な状況。
原子力発電所非稼働ケースにおいては、料金値上げのパターンに応じて、約4兆2000億円から約8兆6000億円の資金調達が必要との結果が出ており、著しい料金値上げを実施しない限り、当該前提で事業計画の策定を行うことは極めて困難な状況。

※東京電力経営・財務調査タスクフォース事務局「東京電力に関する経営・財務調査委員会報告の概要」(2011年10月3日)より

諸富…賠償額はどんどん値切られ、東電をはじめ株主や融資先銀行が生き延びていこうとしている。企業責任が「問われなさすぎる」と思っています。

資本主義社会の枠組みの話としても、これほどの社会的損害を与えて、負債を抱えた会社に対して法的整理を行うのは、過激な話ではなく、ごく普通のルールですよね。つまりは「会社更生法」を適用して、東電が倒産するべきという話です。様々な失敗を重ね、社会的に大きな損失を与えて立ちゆかなくなった企業が、どれくらいの負担を負うべきか。その負担について法律上で決められた回路が「倒産」である、と言い換えることもできるでしょう。

東京電力の最近の動きで注目すべきは、電気料金の値上げです。企業向けの電力を、来年4月をメドに2割前後値上げすると発表しました。

いわゆる大口契約(主に企業対象)と家庭用では、電気料金の決め方が違います。大口契約は、国の許可なく、東電が値上げを決定できます。その代わり、東電の独占で

はなく新規の参入事業者も自由に売ることができるのですが、現状は、新規の電力会社も供給能力に限界があります。ですから、東電に継続して契約する企業が大方だと思います。しかし、本丸は家庭用の電力値上げで、こちらもすでに検討中です。

なぜ値上げを、これほど早急に行おうとしているのか。「内閣官房の東京電力に関する経営・財務調査委員会」が提出した「東京電力の純資産額の見通し」を見るとわかります。

この報告では、@原発を稼動せず、電気料金値上げもしない場合、A原発を稼動せず、電気料金を値上げをする場合、B原発を稼動し、電気料金を値上げする場合、とそれぞれのケースで、純資産額がどれほど増減するかというシミュレーションを行いました。判明したことは、もし原発の再稼動をせず、値上げもしないとするならば、来年度以降からは債務超過、つまり確実に東電は赤字になるのです。(左上囲み参照)

東電が倒産しなくば、 尻ぬぐいは個人

諸富…つまりは、会社更生法に則って、倒産せざるをえなくなるのです。

会社更生法を適用して倒産するとは、どういうことか。まず注意したいのは、倒産することで、電力が供給されず、生活に影響が及ぶことはありません。たとえば、日本航空のJALは会社更生法を適用しましたが、飛行機は飛び続けていましたよね。

東電に対して会社更生法を適用するということは、具体的には、東電とさらに東電の株を購入している株主、そして東電に融資している銀行に負担を負わせるということです。株主には投資の責任、銀行は貸し手責任というものがあるわけです。

倒産すれば、株は限りなく下落しますし、融資額が全額保障されるということはありえない。株主と銀行だけではなく、東電に対してさまざまな取引を行っていた企業も、賠償その他の負担を負うこととなります。

――それは、たとえば原子 力発電所の部品等を製作し取引をしていた三菱や東芝、日立なども負担を負う、と考えてよいのでしょうか。

諸富…もちろん。東電と取引を行っていた企業は売り掛け債権者となり、東京電力は債務を負う、という形になります。その負債を東電が支払いきれなくなれば、裁判所で調停するわけですが、全額徴収は不可能でしょう。

もちろんこれは自然や命、地域共同体といったものへの責任という話ではなく、「金」のレベルの話です。とはいえ、法的整理をすれば、現状の中途半端なものではなく、徹底したリストラの実施、そして東電が独占していた送電網を売却することとなります。発送電の分離を行えば、東電の独占状態も解消され電力会社を選ぶことが可能となります。

しかし逆に、東電が法的整理を受けない、倒産しないということは、私たちにとって何を意味するのか。つまりは、冒頭に話が出ましたように、国債という税金と、さらに電気料金という形で個々人が東電の尻ぬぐいをするということです。しかも、東電を生き延びさせるために、原発再稼働をさせようとしているのです。

もう一度この「東京電力の純資産額の見通し」(左グラフ)を見てください。まず原発の再稼働をせず、電気料金があがらなければ、2012年度から債務超過が起こり、年を追うごとに増加します。

特に、原発なしで火力発電で電力を賄おうとすれば、追加燃料費の負担で年間8000億円ほどかかります。それに比べて原子力発電所は、減価償却しているので、動かせば動かすほど利益が生じるという計算です。

恐るべき三井住友のロビイング

――それは、東電福島第一原発で起きた事故をまったく 想定してないことになりませんか?大地震は今後もまた日本列島のどこかで起きるでしょうし、54基もある原発は影響を免れえませんよね?

諸富…地震を全く想定していないか、起きても「やむをえない」と思っているかでしょうね。

 (以下一部全文は1434号を入手ください。購読申込・問合せはこちらまで。)

私たちが 今できること

――原発という大きなリスクを地方に押しつけた上、国債という形で納税者に負担を課す。さらに電力値上げで、個々の電力消費者にも負担を課そうとしているわけですね。税金という話で言えば、現在消費税の増額と法人税の引き下げが検討されています。ますます、大手企業が痛みと責任を負わずに済むシステムが成立するこの現状に対して、私たちが今できることは何でしょうか?

諸富…債務超過を防ぐために、東電は必死で電力値上げと原発再稼働に持っていくでしょう。だからこそ、@電気料金値上げの差し止め、そしてA原発再稼働のストップが、必要になります。

《インタビューを終えて》

それにしても企業、銀行の動きの早さには驚いた。地震、津波、原発爆発、その後の余震といった春先の混乱に目もくれず、着々と、賠償責任から逃れるための金策に走っていたのだから。この取材で、企業の動きが何故こんなに速いのかが分かった気がする。複数の立場を考慮することなく、まさにシングルイシュー、「金の利益」しか考えていないからだ。 「資本主義社会の枠組みの話としても」と語る諸富さんは(少なくとも私の受けた印象では)穏当なリベラリストである。その人が「企業の責任が問われなさすぎる」と語るほど、今の企業の無責任体質は凄まじいと言えるだろう。フリーターやホームレスに対しては「自己責任」論が横行したが、それは企業の「無責任」とセットで語られるべきであったのだ。

原発がすべて停止され、東電が解体されたとしても、原発によって失われた命、自然、生活、人間関係、産業が元に戻るわけではない。しかし「金」という有限の責任からも逃れようとする企業体質を許すわけにはいかない。 その追求こそがまた私たちのとりうる「責任」でもある。(編集部栗田)

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