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更新日:2010/11/29(月)

[社会] 「飼料の自給」という理想だけでは生活できない畜産農家のジレンマ

宮崎・口蹄疫禍から見える日本の畜産業〜当事者の対話から

宮崎で感染拡大した口蹄疫は、輸入飼料で大規模経営するという近代畜産の脆さを露呈させた。萬田正治氏は、@口蹄疫禍は、近代畜産の歪みであり、A経済のグローバル化の中で「清浄国」=(無菌状態)を維持するのは不可能、B今こそ小規模複合農業が見直されるべきと主張した。人民新聞では、この萬田氏の主張を、現場で対策に奔走した矢野獣医師や岩崎防疫監らにぶつけて意見を聞き、レポートしたが、この記事をきっかけに、3者間で意見交換が始まった。随時紹介する。(編集部)

矢野安正さんから萬田さんへ─今の畜産のままでは飼料輸入・大規模集約以外の選択肢がない

初めまして。宮崎県西都市で動物病院を開業しております、矢野安正と申します。口蹄疫発生のど真ん中、児湯郡を中心として三十数年間、牛の臨床をやってきました。

人民新聞1389号の先生の記事を拝読させていただくかぎり、先生と私の考え方にあまり差はないと思います。

私は農家に生まれ、小さいころから仕事の手伝いをし、農を愛してきました。その延長線上にある牛の飼育を側面から支える仕事に就いたわけです。

例えばの話です。牛の飼料を昔ながらの方法で、手刈りして集めていたら、何頭も飼えません。朝から晩まで草刈だけしていても、飼えるのはおそらく十数頭ではないでしょうか。年収にしたら、実際残るところ100〜150万円程度でしょうか。それでは生活できません。

複合経営にしても、他の作物をいろいろと組み合わせて作っても、それぞれに専用の機械が必要になり、経費だけがかさんでくると思います。外国産の安い飼料穀物を多給して集約化を図り、多頭飼育するのは、必然的な流れだと思います。

畑を求め、トラクターを始めとしていろいろな機械を使って飼料作物を作ると、とんでもなく高い餌になります。それらを使った飼育形態となると、一定数以上の牛を飼育せねばならず、結局は今のような畜産が出来上がってしまうのです。

私も、それが良いとは決して思いません。しかし、10頭以上の牛を飼育しようと思ったら、他に選択肢がないのではないでしょうか。

同じ紙面に、間野さんの複合経営の例が出ています。私も30年以上往診に行く農家ですから実情を熟知していますが、先生が言われている内容と程遠いのが実態です。間野さんは、母牛だけでも40頭余りを飼育していた中規模以上の畜産経営で、周りの牛専業農家よりも規模は大きく、他にブロイラーと野菜もやっているというのが本当のところです。

メールではうまく伝えることができません。理想と現実の間で悩んでいるのは、私たち臨床家とて同じです。悩みは深いです。

萬田正治さんから矢野さんへ─「生き方としての農業」が今後ますます重要に

拝復 ご丁重なご返事ありがたく拝受致しました。すぐにご返事をと思いつつも、秋の稲刈りに追われ、遅くなりましたことをお詫び申し上げます。

日本の畜産業が、現実には安い輸入飼料に依存した単一の規模拡大で発展せざるを得なかったことは、ご指摘の通りです。しかしながら、これによるリスクは、ご承知の通り、輸入飼料の量と価格を世界市場にゆだねる不安定経営(何度も危機に遭遇しています)、農薬やポストハーベストなどの不安全性、病原体持ち込みの危険性(すでにBSEで経験済み)、そして地域環境を汚染する糞尿公害(南九州の河川や地下水汚染は深刻)です。

故に今回の口蹄疫発生も、本来は想定内のこととして日頃からの備えがあってしかるべきではなかったのではないでしょうか。特に、非清浄国からの輸入稲わら(以前は北朝鮮の稲わらが中国経由で輸入されていたこともありました)は、口蹄疫のことが危惧されていたはずです。

かつて大学で畜産の研究と教育に従事してきた者として、私は若い頃より(約45年前から)、農業基本法に則った日本畜産の近代化推進を憂慮し、それとは異なる日本型畜産をめざしてきました。その結果、今日では有畜複合経営の道を対案として掲げてきました。

また、農業収入のみでは生計が成り立たない小規模農家は兼業化も大切であると考えてきました(役場、農協、地場産業に従事する多くの兼業農家が食を支えてきております)。私の友人である獣医師では、宮大卒の山田町の開業獣医師H氏などは、野菜栽培の兼業農家です。彼は、有機農業によりすばらしいキュウリを生産しております。

家畜の毎日の世話に追われた有畜複合経営の大変さは、私も承知しています。したがって、家畜のわずらわしさから抜け出した無畜農家が圧倒的な今日の農村の姿も、承知しています。

しかし、循環型農業をめざすのであれば、個別経営内の有畜複合経営こそが、農家の生活と地域環境を守る道と考えております(個別農家を結ぶ地域内循環としての大型堆肥センターが各所に出来ましたが、必ずしもうまく機能しているとは思えません)。

また、農業と農を分けて考え、農業は産業、農は暮らしを意味するものであり、両者の存在が農村社会にあってよいのではないかと考えております。したがって、専業農家のみならず、生き方としての農業(定年帰農、農的暮らし、半農半X、高齢者の年金農業など)の存在も、これから益々重要になってくると思われます。このような多様な形態がこれからの新しい農村再生の道ではないかと考えております。旧来の専業農家イコール農村復活ではないということです。

私はすでに7年前に大学を辞め、鹿児島県中央部の山里に移り住み、ささやか有畜複合経営を実践しております。年金に支えられた農業ですから、「遊び」と言われればその通りですが、私のめざしてきた農と農業の道を実践してあの世に旅発ちたいと考えております。

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