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更新日:2007/03/23(金)

[コラム] 深見史/「戸籍」報道の悪巧みに厳重注意を

「戸籍に性別を誤って記載」、それがどうした?

二十歳の男性が「長女」と誤って戸籍に記載されていたことが発覚、当該行政が釈明し男性に謝罪した、という報道に「おおっ!」と思った。

私にはこの報道に反応する理由がある。なぜなら私自身、十六歳まで戸籍に「長男」と誤記載されていた当事者からだ。私は女性として誕生し、今も女性である。ただ、出生届を受理した担当係が性別を誤った、という単純な過失があったというだけのことだ。

私はこの報道に「おおっ!」と反応したのは行政当局や戸籍係を非難したいからではなく、同情したためだ。それがどうした? 誰かそれで困ったのか? 何のためにこんなくだらないことを報道するのだ? 私は「戸籍誤記載被害者」としてそう言う資格がある。戸籍の性別がまちがっていたところで、必要があれば必要な時に訂正すればすむ話であり、誰も何も困らない。

現在、民法第七七二条の嫡出推定問題も含め、戸籍に関わる不正確で無意味な報道がやたら多い。報道は常に政治的な意図を有している。この「戸籍」報道が極めて気味が悪いのは、戸籍が人格に深く関わっているかのように、人間の資格を決定するほど重要なものであるかのように思い込むよう誘導しているからだ。

…窃盗で逮捕された男性に戸籍が無いことがわかった、貧しくて学校に通わせられないので、両親が出生届を提出しなかったためだ。…前夫に住所を知られるのを避けるため、子どもの戸籍を作らなかったので修学旅行のためのパスポートが発給できなかった。…出生届を提出したところ誤って生まれた日付で死亡と記載されていた、直後に修正したが、「再製」の文字が残り不自然な戸籍になった。

これらの報道は、「戸籍」について嘘を述べ、人々に誤解を与えるように仕向けたものである。

戸籍と就学とは関係がない、戸籍なんぞなくてもが就学通知は来るし、保育所への入所、各社会保険への加入、児童扶養手当・児童手当の支給、税の扶養控除などには影響ない、日本国籍は戸籍の有無によって決まるものではない、戸籍の「自然・不自然」など何の意味もない、ということこそ報道すべきなのである。

戸籍に関わる嘘報道は過去にもたくさんある。「十四年間も戸籍がなく、教育も受けられなかった」(一九八八年八月一日付朝日)、「戸籍なく火葬許可とれず」(一九八八年八月五日付朝日)、「戸籍がなければ法的にはこの世の中に存在しないことになる。義務教育を受ける年齢に達しても就学通知書は来ない」(一九八八年八月九日付AERA)などのでたらめ記事が、戸籍がなければ人間でないかのような、すべての権利が奪われるような印象を与えてきた。

戸籍制度は、明治政府が徴兵と納税のために創出した日本独特の超管理制度であり、まともな感性を持ってすれば「しかたなく出生届や婚姻届を出すが、不愉快」なものだ。国家に屈服するそれらの届出を敢然と拒否し、不利益を受けつつもこの差別制度と闘っている人たちがいることを忘れてはならない。

ところが、この管理制度を有難がり、アイデンティティの拠りどころにしてしまっている人々がいるのも否定しようのない事実だ。自分の首に括り付けられた鑑札を喜び、首輪の色や形にこだわる飼い犬は、飼い主にとってはかわいいものだろう。

戸籍=鑑札の罠に陥らず、首輪のない人生を願おうではないか。

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