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更新日:2006/05/10(水)

[コラム] 母のガンを通じて介護を考える/遥矢当

母の「プライドを守る」介護

「CT(断層撮影)の結果ですが、胆のうの近くに悪性新生物による影が見受けられます」。実家に近い東京都大田区の病院で私は、担当の医師から診察結果を聞かされた。患者は私の母である。私は、一瞬仕事の顔に戻った。診察結果をちょうど母が席を外したタイミングで聞いたのがせめてもの救いだった。

医師は今後の治療計画として、先に自覚のある黄疸の除去を優先させることだけ告げた。これまで他人の介護問題に好きなことを述べてきたが、突然、私自身の介護生活が始まることになった。しかも終末期介護だ。

奇しくもこの春から末期がん患者も介護サービス利用の対象(注)となっていた。私は介護保険制度の矛盾の多さに日々憤りを感じてきたが、母が新設の制度によって恩恵をこうむるという現実に、頭が真っ白になりそうだ。自分と母と仕事と三つの不思議な縁を感じた。こうなると一番の心配は、「病院に無事通い続けることが出来るのか?」という、誰もが思う厳しい現実だった。

私の母はいわゆる団塊世代で、被介護生活に入るにはまだ若い。今年に入って母は、不調を強く訴えるようになった。昨年の夏より気分がすぐれないという訴えは続いていたものの、「更年期障害じゃないか」と楽観視していた。診療所に週に一度は足を運んでいたので、成人病の不安は少ないと決め付けてしまっていた。病気を疑うことは恥ずかしいことでもなんでもない。「忙しいから検査は今度時間がある時に」と話す母を、強引に病院へ仕向ける事こそ、私の役目だったのかもしれない。

私は、「遙矢当さんは専門家だから、周りの人は介護では困らないですよね」とよく言われる。しかし私自身、家族介護の経験はない。確かに介護に関する知識は、一般の人に比べれば多い。でも、大切な家族の為にどんな介護が良いか考えると、思いが複雑になる。ケアマネージャーの中には、近親のケアプランを自ら担当する人も少なくないが、私は母の介護は出来ないと思った。母は「あんたにやって欲しい」と希望したが、本音では最後まで私の母親でいることを希望しているのはわかっている。母は自分の苦しむ姿を息子に見せたくないのだ。

母の介護について父に尋ねても、通帳を眺めてお金の心配しか出来ない。父も「お前が考えろ」というばかりであった。

もちろん私は母を最期まで見届けたい。けれどオムツを替えたり食事を手伝ったりする事よりも、全ての思いを越えて、ただ寄り添いたいと思っている。母は人生の苦しい時も、毅然とした態度で日々を送ってきた。言葉では私の手による介護を望んでも、本当の思いはそこにはないのが分かるからだ。私から介助を受けた母の切なさを思うと、それは実に耐え難い。私は、職業人として自分の母の介護を考えるなら、母のプライドを守る介護が必要だと思う。ただ、最後の瞬間に私が写っていればそれで良いのだ。

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