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弟の遺体にすり寄って泣く兄と母親(サドルシティーにて)
更新日:2005/1/3(月)

[海外] イラク反米闘争は米軍の武力介入に対する「現実的選択」だ
──文・写真 福留康友(神戸市外国語大学生)

アメリカのブッシュ大統領再選後、間髪を入れず実行に移されたファルージャでの2度目の掃討作戦。来年のイラク国民議会選挙を控え、アメリカは力で「イラク抵抗勢力」をねじ伏せようとしている。

いま、イラク民衆はどういった状況にあるのか?今年9月に単身で3度目のイラク入りをした福留庸友さん(神戸市外国語大学学生)からの報告をお送りする。(編集部)

医療機関はマヒ状態 幼い命が次々と…

病院での取材中のことだった。少年が救急車で運ばれてきた。ガイドのファタが僕を急いで呼ぶ。「子供が米兵に撃たれて運ばれて来た!」。

担架に乗せられた少年の右こめかみは、正確に撃ち抜かれていた。もう息が無いようだった。しかし、ベッドと点滴が置かれているだけの閑散とした病室で、医者が治療を始めた。「薬はあるが、銃撃を受けた人を治療するような医療機器はない」と院長が語る病院では、少年が助かるはずもない。

「ただ通りで遊んでいただけなのに。なぜだ。武器も持っていなかった」父親は涙をこらえ、状況を語ってくれた。少年は米軍が占拠する建物から、スナイパーに狙撃されたという。

その直後、少年は息絶えた。

緑色のビニールでできた担架で、遺体が病院の建物から運び出される。母親はカッと目を見開いて、「坊や、坊や」とただ連呼するだけであった。不思議と涙は出ていない。少年の兄は歯を食いしばり、遺体に擦り寄って泣く。弟を失った憎悪で、彼が「テロリスト」になる決意をしてもおかしくはない。

私はまさに、抵抗戦士誕生の瞬間を目の当たりにした心境だった。そのすぐ脇には、同じように殺された少女の棺が置かれていた。

イスラム教徒が共存と対立する街・サドルシティ

バグダッド北東に位置するバグダッド市内のこの地域には、二〇〇万人のシーア派住民が生活すると言われている。サダム政権時代には「サダムシティ」と呼ばれ、たびたび弾圧を受けてきた。住民の大半は低所得者である。フセイン政権崩壊後、住民は自らこの地域を「サドルシティ」と呼び始めた。 

サドル家は、一九五〇〜六〇年代に「イスラム教が政治に積極的に関わるべきだ」と主張し、イスラム主義運動を始め、ダアワ党を創設したムハンマド=バーキル=サドルを排出したことで、多くのシーア派から支持を受けることになる。

ムクタダの父・ムハンマド=サーディク=サドルがサダム=フセイン時代の一九九九年に処刑されると、息子のムクタダ=サドルが、そのまま政治基盤を引き継いで現在にいたっている。ダアワ党は、庶民の生活を向上させようと慈善活動を積極的に行ったことが、貧しいサドルシティでの熱烈な支持を受ける原因であった。

シーア派には、大きく分けて二人の指導者がいる。アリー=シスターニと、ムクタダ=サドル。ムクタダとは対照的に、シスターニは「イスラムの政治不介入」を説き、武力抵抗に対しても「今は抵抗する時ではない」と消極的態度を取っている。米軍の駐留に対しても沈黙を守っているため、なによりも平和で安定した生活を望むイラク人からの信頼は厚い。

一方、ムクタダはその過激な武力闘争によりナジャフ・サドルシティ以外ではほとんど支持を受けていない。そればかりか、彼の抵抗が治安を一層悪化させていると、イラクの元凶のように嫌う人も少なくない。

米軍だけでなくイラク警察をも拒む市民たち

そんなムクタダをどうして住民は支持するのだろうか?九月初め、私は抵抗を続ける街に潜入した。

ほぼ真四角に区切られたこの地域の道は、片側三車線ほどの大きさを持つ。道の中央には三bほどの縁石があるが、ここは生ゴミ・空き缶・電化製品などあらゆるごみが捨てられ、悪臭が漂う。そして、なによりも目に付くのが戦闘による傷跡。

道は所どころ、砲撃や道に仕掛けた爆弾でえぐられ、車はその跡を避けるために蛇行しなければならない。破壊された車や米軍戦車のキャタピラも、そのまま放置されている。縁石に放置されたゴミや砲撃跡、破壊された車もバグダッド市内で見かけることはあるが、その数はサドルシティの方がはるかに多い。私は二〇〇三年四月、二〇〇四年三月の過去二回この街を訪れているが、街は訪れる度に汚くなっていた。

街では、交差点で交通整理する警察官を見ることはない。米軍ばかりか、イラク警察までもこの街に拒まれていた。毎日のようにつづく戦闘が街を閉鎖的にしているのだ。警察官の代わりに交通整理をする市民は、同時に街に入る車を監視している。二七歳の民兵は語る。「この街の治安は、自分たちで守れる。だが、米軍が来ることで治安は悪化する」

「ムクタダ支持」は最後の「現実的選択」

米軍の撤退だけで全てが解決するとは思えない

「アメリカはイラクに混乱してほしいんだよ」

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