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更新日:2004/09/02(木)

[海外] パレスチナ/国際司法裁判所の分離壁判決とヘルツル没後100年
──七月一〇日 ウリ・アヴネリ

イスラエルは「国際テロ」と闘う前哨基地

「ハアレツ」紙の第一面に二つの記事が載った。近代シオニズム運動の創始者テオドール・ヘルツル没後百年記念と、ハーグの国際司法裁判所の分離壁違法判決である。両者の間には関係があるのだろうか?私は、極めて象徴的な関係があると思う。

シオニズムの礎石となったヘルツルの『ユダヤ人国家』の中に、「そこ(パレスチナ)で我々ユダヤ人は、アジアに対するヨーロッパの壁となるだろう。野蛮に対する文明の前哨基地の役割を果たすだろう」という文がある。

この文は今日でも通用する。米国思想家たちは「文明の衝突」を叫び、ユダヤ・キリスト教文化が「野蛮なイスラム」と闘うことを提起している。米政治家は、イスラエルが「アラブ・ムスリムの『国際テロリズム』との戦いにおける、西洋文明の前哨基地だ」と言っている。

シャロン政権は、壁建設の目的を「パレスチナ・アラブのテロの侵入を防ぐため」と宣伝し、機会あるごとに「『パレスチナ人テロ』との戦いは、「国際テロリズム」との戦いの一環だ」と言っている。

米国は、壁建設をイデオロギー面でも財政面でも支持している。半公式名「分離壁」とはよく言ったものだ。民族と民族を分離し、文明と文明を分離するにとどまらず、文化(我々)を野蛮(奴等)から分離するのだ。だから、壁建設には、無意識的にせよ、深いイデオロギー的意味があるのだ。表面的には自爆「テロ」などに対する実際的な処置のように見えるのだが…。

パレスチナ人の存在を無視している「分離壁」

現に一般イスラエル人は、こんなことを書く私に、「アホか!壁と百年も前に死んだヘルツルの間にどんな関係があるというのだ」と言うだろう。しかし、ヘルツルと壁に関してはもう一つ結びつきがある。シオニズム運動初期にスローガンになった彼の有名な言葉に、「土地なき民族に、民族なき土地を」というのがある。つまり、「パレスチナは無人の空き地」と見たのである。

だから、壁建設ルートに沿って旅してみれば、一つ顕著な特徴に気づくはずだ。壁が、そこに住んでいるパレスチナ人とその生活など「まるで存在しない」かのように、建設計画されているのだ。

人が歩く時に、蟻に注意を払わないように、壁はパレスチナ人を踏み潰して進んでいく。農民が畑から切り離され、労働者が職場から切断され、学童が学校から、患者が病院から、遺族が愛する親族の墓から分離される。イスラエルの役人や入植者たちの目に入るのは入植地と軍事基地のみで、それ以外はまったく無人の地なのだ。地形や戦術論的考慮や戦略目的などを議論しながら線引きするだけだ。「パレスチナ人?なんだそれは?」

先週、さすがのイスラエル最高裁も、この点に限ってのみ、壁建設に再考を促す判決を出した。壁がパレスチナ人の生活を圧迫していることを認めたのだ。壁建設を必要だとする将軍たちの主張を退けたのではない。裁判所は、もし将軍がそうせよと言えば、直立して最敬礼するだろう。

また、「壁建設は、イスラエルと占領地の境と一九六七年に国際社会が認めたグリーンラインに沿うべきだ」という裁定を出したわけでもない。「占領地にパレスチナ人が住んでいるという事実を認め、それを少し考慮してやりなさい」と要請しただけである。

壁の欺まん性を暴くのは国際世論だ

判決後、イスラエル軍は壁建設ルートを若干変更する気配だが、抜本的な変更はない。「改善」ルートは相変わらずパレスチナ人を隔離し、複数の飛び地に封じ込め、行動の自由を奪っている。せいぜい数人の農民たちが畑へ行けるようになっただけである。

国際司法裁判所の判決の方が、壁建設に抗議する人々の主張に近い。判決は、グリーンライン以外の地に建てられた壁を「違法」とした。占領地内で壁を作ることは国際法違反で、イスラエル自身が署名した合意や協定にも違反していることを指摘した。従って、その部分をすべて撤去・現状復帰し、被害者パレスチナ人に損害賠償すべし、とした。そして世界各国に、壁建設に対し、いかなる援助も差し控えるように勧告した。

この判決は、イスラエル世論に影響するだろうか?残念ながら期待薄であろう。すでに判決以前からイスラエル政府は、それに備えてプロパガンダ工作をやっていた。国際司法裁判所判事はユダヤ人差別者であり、米国以外の外国はすべてユダヤ国家を潰したがっている、というプロパガンダをばら撒いたのだ。「世界のやつらは俺たちを嫌っているが、俺たちはへっちゃらだ」という流行歌まで使って。

国際世論はどうだろう?少しは影響があるだろう。国際司法裁判所判決はあくまで「勧告」であって、拘束力がない。判決遵守を強制する軍隊も警察隊も持たない。国連の安全保障理事会へ持ち出しても、米国の拒否権で潰されるだけだ。しかし、拒否権が存在しない国連総会では、少なくとも議論になる可能性はある。そうなれば、壁の本当の狙いを明らかにするチャンスが得られる。

シャロンのプロパガンダ・マシーンは、世界大手のメディアの支援を受けて、自爆「テロ」防止壁というイメージをばら撒いている。国連総会の議論の中で、その欺まん性が明らかになることが期待される

パレスチナを殺す「分離壁」を取り除け

私は、国際司法裁判所判決の前日、壁建設の犠牲となっているア・ラム村の抗議テントの中にいた。パレスチナ人・イスラエル人の合同ハンガーストライキ闘争をやっていたのだ。多くの人々が激励に来てくれた。テントの中で、パリ在住の北アフリカ出身イスラエル人シモーネ・ビットンが製作した分離壁ドキュメント映画(The Wall)が上映された。パレスチナ人が壁がもたらした悲劇について語るシーン、キブツのユダヤ人が壁をイスラエル人が自ら作った災禍と呼ぶシーン、アモス・ヤアロン将軍が「壁はパレスチナ人が自ら招いたものだ。抵抗運動をやめれば、壁なんか必要ないのだ」と解説するシーンなどがあった。

しかし最も圧巻だったのは、何の解説もなく、ただ景色を見せるだけの長いシーンであった。緑の平原やオリーブ畑がはるか地平線まで広がる景色、ところどころにミナレットの尖塔が見えるパレスチナの村が点在しているのどかな風景。そこへクレーンが巨大なコンクリート・ブロックを据える。美しい景色が一部見えなくなる。クレーンが二つ目のブロックを置く。景色が大半消える。三番目のブロックで景色がすっかり消えてしまう。八bの高さの巨大なコンクリート壁が一つの村を四方から囲み、その村が完全に死に絶えて行く様を、ただ無言の映像の連続が捉えていた。

その時、私はふと思った。村の生命を閉じるクレーンは、同時にブロックを取り除いて生命を生き返らせることもできるではないか。ドイツではそうだった。ハーグ裁判所判事たちは、コンクリート・ブロック崩しに一役貢献した。ヨーロッパ文化を代表する判事たちが「壁を取り除け」と決定したのは、まさに歴史の皮肉といえよう。ヘルツルの困惑した顔が目に浮かぶ。

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