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ファルージャ
前列左側が相澤さん

ファルージャ
ファルージャ郊外の自宅で米軍の攻撃を受けたムハンマド君
更新日:2004/06/26(土)

[海外] ファルージャ総合病院に医療品寄贈 米軍の殺人行為と破壊後まざまざ
──PEACE ON 相澤恭行(YATCH)

自衛隊派兵で悪化の対日感情「人質事件」の影響は?

約一ヶ月半にわたるイラク現地での支援、文化交流活動を終え、四月五日に帰国してまもなく、あの日本人拘束事件が起こった。幸い日本とイラクの市民の努力により五人全員が解放され無事帰国したが、当時相次いだ外国人の拘束事件の背景には、米軍に完全包囲され、七〇〇人以上の住民が犠牲になったとも言われるファルージャでの虐殺があった。

「緊急支援として、何かできないか」とイラク人現地スタッフのサラマッドと相談を続けてきたが、五月に入り、米軍も撤退。直接現地調査ができるようになり、彼が総合病院から必要な医薬品のリストを入手してくれたので、五月一二日にサラマッドとフランス人協力者アマラとアンマンで合流し医薬品を注文。翌日購入し、お互い顔の見える直接支援活動に踏み切った。

五月一五日、知り合いの日本人ジャーナリスト二名も同行して、ファルージャへ。例の捕虜虐待事件で、イラク人のアメリカに対する信用は地に落ちている。サラマッドは、「いや、イラク人だけではなく、世界中からの信用を失ったのだ」と強調していた。

市内に入るまで四ヵ所あるチェックポイントでは、米兵とイラク兵が一緒に立っているが、市内は割と落ち着いた様子だ。商店街は、まだ閉まっている店が多く、閑散とした印象。所々新しく配置されたファルージャ防衛隊のイラク人の姿を見かけた。

三月末に占領軍の請負業者のアメリカ人四人が殺されて吊るされたという橋を渡って総合病院へ。戦闘から逃れるために一時郊外に避難していた人々も、ずいぶん市内に戻ってきているが、まだ二割ほどは避難所に残っているという。避難所でのテント生活ではどうしても衛生環境が悪化するとのことなので、下痢や吐き気止め、解熱剤や腹痛を抑える薬、そして皮膚アレルギーに効く薬などを中心に、リストに基づいてアンマンで購入してきた医薬品を届けた。

こうした一般薬は、この戦闘の前、いや昨年のイラク戦争前から慢性的に不足していて、高遠菜穂子さんは昨年の首都陥落後にこの病院に医薬品を運んだ最初の日本人であった。今回の日本人人質事件で、高遠さんのような人道支援のためにイラクに入る日本の市民がいることを初めて知ったという人々は多く、私が出会った限りファルージャの人々はかなり親日的だった。皮肉にもあの人質事件が、自衛隊派兵によって悪化していた対日感情を押し戻すのに一役買っているのかもしれない。ちなみにあの時の日本政府の対応や自己責任論によるバッシングについて何人かのイラク人に聞いてみたところ、皆「全く理解できない」と言っていた。

「ブッシュはテロリストだ…」とつぶやく少年

外科医のDr.イスマエルが入院患者さんのうち二人を紹介してくれた。ムハンマド君(一五歳)は四月六日、ファルージャ郊外の村ガルマの自宅で米軍の攻撃を受け右足に大怪我を負った。さらに衝撃からか脳も障害を受けたらしく、僅かに震えながら瞳を見開き虚空を見つめている。ドクターによるともう元には戻らないという。もう一人のムハンマドさん(二〇歳)は、四月四日にやはり自宅で米軍の攻撃を受け、同じく右足に大怪我を負っていた。苦痛に表情を歪ませている彼を前に、ふと戦時下に訪れたヒッラの病院で、股間を中心にクラスター爆弾の鉄辺を無数に受け、繰り返し「ブッシュはテロリストだ…」とつぶやいていたあの一三歳の少年の表情が重なった。

病院の駐車場には昨年米軍の攻撃を受けたという救急車がそのまま放置されていた。フロントガラスから側面、背面と、あらゆるところで確認できる無数の弾痕は、中にいて殺された人々が果たせなかった数多くの思いと、戦場にて動くものは何でも撃ってしまうという米軍兵士の恐怖心を表しているかのようだった。

「みんな殺してしまいなさい」恋人からの米兵への手紙

総合病院を出て、先月の戦闘で最も激しい被害を受けた地区のひとつ、ジョラン地区のアブダリオさん宅を訪れる。兄弟など親族が集まって、チャイをご馳走してくれた。心から我々を客人として歓迎してくれている。四三歳のアブダリオさんには、奥さんが三人もいて、親戚含めてなんと四〇人で暮らす大所帯だ。アブダリオさんは、先月屋上から米兵がやってくるのを見かけて、家族全員着の身着のまま郊外の砂漠に避難し、先日停戦が発表されたので、ようやくこの自宅に戻ってきたばかりである。

三階の壁は砲撃によって破壊され、外にある墓地が丸見えになっている。隣の民家も同様に破壊され、逃げ遅れたらしく母親と娘が犠牲になったという。床にも大穴が開いていて、至る所にミサイルの破片、洋服、家具、家財道具等が散乱し、ウェディングドレスは瓦礫の中に紛れ込んでいた。どうやら見晴らしがいいアブダリオさん宅は、破壊された後、米軍の攻撃拠点として使われて、しばらく米兵が住み着いていたという。化粧鏡には「MESS WITH THE BEST DIE LIKE THE REST(死んで楽になれ!)」という落書きが。宝飾品など金目のものはほとんどなくなっていたらしい。

周囲を一望できる屋上に上がると、米兵が残していったリュックサック・レトルトなどの携帯食料・弾薬・応急処置用の医療器具・乾いた血がこびりついたガーゼなどが散乱していた。鳩の羽が多いと思いきや、屋上で鳩を飼っていたのだが全て食べられてしまったようだ。

また、アメリカ本土にいる恋人が兵士に宛てた手紙も落ちていて、三月末にアメリカ人四人が殺されたことに触れ、「みんな殺してしまいなさい」とも書いてあった。ファルージャでの米軍の掃討作戦は、あの四人の惨殺に対する報復という見方があるが、まさに手紙の内容からはそうした雰囲気が読み取れる。あの四人は実際には占領軍の請負業者であったが、「民間人」と強調されて報道されたことによって、米国内ではそうしたムードになってしまい、兵士にも蔓延していたのだろう。ぜひこの手紙を受け取った兵士にも聞いてみたいとも思った。

米軍を撤退させたファルージャ

屋上に上がる階段には血が滴り落ちた痕が各段に点々と残っていた。米兵の血である。アブダリオさんは、「ムジャヒディン(戦士)は、ここで米兵を三〇人殺した」と割と得意そうに話していた。ファルージャの人々は、自分たちの手で米軍を追い出したという意識が強いようだ。結局米軍は、四人の米国人殺害の犯人の引渡しすら実現できないまま引き下がったわけである。やはりゲリラ戦で米軍は相当の苦戦を強いられたのだろう。体裁を取繕うために停戦と発表したものの、事実上は撤退したと考える方が自然なのかもしれない。ただし一説には「補給が間に合わなかったために撤退しただけ」ともいうから、これからいつ再侵攻が始まるか、予断を許さない状況でもある。

アブダリオさんは、さすがに三人もの奥さんがいるだけあって子沢山である。ざっと見渡しただけでも二〇人以上はいたであろうか。とってもかわいらしい子ども達だが、米兵の前でアメリカ出て行けとつっかかったりもするらしい。子ども達の一人、羊飼いをしている一六歳の息子は昨日理由もなく米軍に拘束されたまま今日まで戻ってきていないという。

「親米」は一割以下だが「親日」は九割以上だ

高遠さんたち解放についての感謝を述べ、それにまつわる一連の背景について話をすると、アブダリオさんは「政治的な話はしない」と断ったうえで、「日本の市民による支援活動はありがたい。ファルージャの人々の中でアメリカを好きな人は一割にも満たないが、日本を好きなのは九割以上いる」と言って親日ぶりをアピールしてくれた。やはり信頼関係をつくっていくためには、直接お互いの顔が見えるかたちでの支援が、どうしても必要だと改めて感じた。

ただし「今たくさんの外国人がここに写真を撮りに来るが、その後誰も何もしてくれない。一体誰がこの壊されたところを直してくれるのか」と、冷静に話しながらも、言外には静かな怒りが滲み出ているのを感じた。

残念ながら不完全な処方箋だったため、彼らから依頼された薬を全て購入することはできなかったが、感染症や癲癇に効くものなどいくつかの薬と、アマラが個人的に用意した子ども服などを渡した。

帰り際、近所のおばさんから「うちも壊されたのよ。中を見て」と案内されるが、残念ながら時間がなかったのでゆっくり話を聞くことができなかった。危険を避けるためにはどうしても明るいうちに帰らなければならない。

昨年の戦争中も感じたことだが、彼らの「この現状を世界に伝えてほしい」という意気込みは並々ならぬものがある。彼らは我々外からきた人間に伝える他には、伝えたくても伝える手段がないのだ。彼らの思いを伝えるのは、我々見たものの責任であると思う。ただ、伝えるだけではなく、それを知った我々はその先一体何が出来るのかが問われている。

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