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更新日:2004/04/19(月)

テレビの現場から〜北朝鮮の「核開発疑惑」は日本の武装化の格好の名目だ──黄砂慎也

六カ国協議で「核開発問題」を取材

私は、テレビ報道で働いている。その中で、テレビでは流せない様々なことを体験し、考える。その一端をここに書きたいと思う。

先日、北京での六ヵ国協議を受け、核開発問題を取材した。通常三日くらいの取材期間しかない。とにかく、北朝鮮に核兵器はあるのか、ないのか、国内取材だけで少しでも明らかにしようと思った。

私の問題意識としては、あまりに日本中が「拉致問題」一色になっていることへの危惧があった。「拉致問題」は一刻も早く解決努力をすべきだが、そもそも六ヵ国協議は、そのような場ではない。あくまで核開発問題を取り扱う国際的な場である。被爆国である日本がいわば主導的に北朝鮮に核開発中止のメッセージを発するべきであり、更に言えば、アメリカや中国、ロシアの核開発をも問題にすべき立場にいる。

テレビでは、拉致問題を扱った方が、視聴者の情緒に訴えるからか、視聴率が良い。だから「核」を正面で取り上げる局は皆無だ。実際、私の関る番組では、VTRの時間もコメンテーターの話の時間も、「核問題」は「拉致問題」の三分の一しか与えられなかった。「やっぱり拉致の方がみんな関心あるんじゃないか」とのプロデューサーの鶴の一声で決まる。

そのような現状に苛立ちを覚えながら、私はまず、京都原子炉実験室を訪れ、北朝鮮が秘密裏に行っているとされるウラン濃縮開発について取材した。北朝鮮はこれを完全否定している。濃縮ウランを材料にした核兵器は、広島型原爆である。北朝鮮には天然ウランが豊富にあり、濃縮技術さえあれば、広島型原爆はいくらでも作れることになる。

この一月、パキスタンの「原爆の父」と呼ばれるカーン博士が、北朝鮮に濃縮技術(遠心分離機)を供与していた真実を告白した(おそらく六ヵ国協議を前に、アメリカからパキスタン政府へ「事実を公表しろ」との圧力があったのだろう)。

それにより、北朝鮮が技術をすでに持っている事実が浮き彫りになった。これで天然ウランから、核兵器の材料であるウラン二三五を取り出すことが可能となる。また、ウラン濃縮は、プルトニウム型(長崎型原爆)のように原子炉や再処理施設などの大規模の核関連施設を必要としない。学校や病院などに模した擬似研究所でも比較的容易に作れるので、衛星などで、開発作業の現場をおさえにくいという。

仮に、広島型原爆を北朝鮮が持っていたとしよう。現在その射程は、未完成のテポドンはおいといて、ノドンに搭載することになるので、韓国や日本は当然範囲内になる。それは日本の人民全てが「拉致」されたも同じ状況に他ならないと思える。もちろん単純に「拉致問題」と「核問題」を比較することは愚かだ。だが、IAEA査察官を強制退去させた北朝鮮が、プルトニウム型核兵器を持っている可能性も十分あり(ISIS文献参照)それらを協議する場において、なぜ、あえて「拉致問題」を優先させるような外交的振る舞いを日本がするのか、私には理解できなかった。推測するに「拉致」の方が国民に受けが良いからなのだろうと思えた。

北朝鮮「核開発」情報を米国に依拠する現実

だが、取材するにつれて、日本政府の思惑は到底理解不可能だと思うに至った。外務省に北朝鮮の核問題でのインタビューを申し込んだ時のこと。外務省は「(協議前の)微妙な時期だから答えられない」と応えた。私は「放送しないから、北朝鮮の核兵器をどこまで把握しているのか、教えて欲しい」と食い下がった。すると意外な応えが返ってきた。「アメリカの〇〇というシンクタンクのHPを見て下さい。外務省にはそれ以上の情報はありません」。俄然とした。それから外務省にパイプがある色々な安全保障の専門家に会ったが、実際、外務省には北朝鮮の核開発についての情報収集を行っているところはない、と聞いた。北朝鮮の核問題など、本気で解決しようと思っていないのか、政府の怠慢を恐ろしく思った。北朝鮮の「核問題」の完全放棄を唱えながら、実態はどうなのか研究・分析している部署がなく、CIAを初めとしたアメリカの情報に依存している現実。私には、日本政府が、北朝鮮の核開発を野放しにして、逆にその状況を利用して、軍事的に武装しようとする「政治的思惑」も透けて見える。さらに北朝鮮が核を持っていようと、いまいと、北朝鮮をダシに日本は核武装プランを練っているのかと疑りたくなった。ある専門家と話しをしたら「それはあるでしょう」と言っていた。

私はそれでも、というよりだからこそ、独自に取材して北朝鮮の核兵器の有無について、状況的推測に基づくVTRを作り、放送した。あくまでも可能性として、北朝鮮には一個から七個ほど(全てがプルトニウム型核兵器)の核兵器を保有している結果が得られたし、私自身の責任でそう放送した。視聴者からは、「拉致だけじゃなく、核の問題が重要だと改めて思った」など幾つかの声を頂いた。VTRを受けて、コメンテーターもそう言っていた。私の「思い」が視聴者に届いたことは素直に嬉しかった。

だが、一方、「拉致問題」の方が、やはり視聴率は高かった(私は、視聴率に関心はない。だが、プロとして仕事をしている以上、やはり無視できない)。対北朝鮮外交を「拉致問題」に偏らせないこと、それはつまり感情的な「圧力外交」の道を開くものだし、家族会(主に現代コリア研)を通してしか北朝鮮を見れないとすれば、拉致問題の真の解決は困難だと思えること(その理由はここでは詳しく述べない)、だから核開発問題を再導入してそれらを相対化すること、被爆国日本として「核」の危険、愚かさ等の問題を国際社会に大声で訴えることが重要であること。それら私のVTRの「狙い」が上手くいったとはとても思えない。

だが、少なくとも、政府が、六カ国協議において、成果が得られず、拉致問題においても道筋を得られなかった事実は、おそらく国際社会の場で、日本固有の感情的な問題に固執し、プライオリティーのない独特の日本外交の欠落が招いた結果だと思える。結局、いつものことながら日本から国際社会にメッセージを発することはなく六ヵ国協議は終わった。

(最後に、「拉致問題」に必要な視点として、戦中日本の朝鮮人の強制連行・拉致問題を自省し、その罪を掘り下げる「誠意」を見せなければ、解決には程遠いことを強調したいと思う。家族会が北朝鮮に対し「誠意」がない、と言う時、その言葉は自国の内部奥深くに突き刺さるものだと言う「罪と恥」の意識を持つことなく、唱えることは無効である。私が拉致の問題を取り上げる時はそのような内容になるだろう。おそらく上司らと激しく戦うことになるが)。

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