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更新日:2004/04/04(日)

[海外・国際] イスラエル人の内なるゲットー

イスラエル人の内なるゲットー
二月二八日 ウリ・アヴネリ

「ゲットーからユダヤ人を出すことより、ユダヤ人からゲットーを出すことの方が難しい」 ― 初期シオニストたちがよく言っていたこの金言が、今や新しい意味を帯びつつある。イスラエルは自らを世界から切断し、ゲットーの中に閉じこもろうとしている。

ハーグの国際司法裁判所で、分離壁に関する聴聞会が始まった。シャロンたちは勝てる見込みがないのを知っているので、ボイコットを決めた。法廷で陳述することを避け、法廷外でパフォーマンスすることにした。昔からイスラエルにある諺 ― 「申し立ての根拠が弱いときには、大声を出すに限る」を、まさに地で行っているのである。

法廷内では、パレスチナ人代表が、「分離壁は西岸地区の真中にあり、違法である」と告訴理由を述べていた。イスラエルが自爆攻撃を恐れて壁を作るのならば、境界線沿いに作るはずだ。実際には占領地の真中に作り、パレスチナ人を分断、それぞれ小さな飛び地に囲い込んでいる。この陳述に対し、法廷内の誰も反論する者はいなかった。

法廷外では、シャロンの部下たちが派手な見世物をやっていた。自爆攻撃で焼けたバスの残骸をイスラエルから運んできて、メディア用に街頭展示。犠牲者の家族を十数人連れてきて、街頭に並ばせた。イスラエル大使館は、九〇〇人の犠牲者の写真を配布したり、ユダヤ人学生にそれを掲げて行進させた。それが伝えるメッセージはこうだ──「ユダヤ人は迫害に苦しむ民族で、それはイスラエルでも同じだ。ユダヤ人はポグロムの犠牲者だ」。

同日午後、今度はパレスチナ人が対抗デモンストレーション。三〇〇〇人のインティファーダ犠牲者への追悼がなされ、占領下のパレスチナ住民の苦しみが訴えられた。ハーグ市民は、まるで「犠牲比べ」の世界選手権に立ち会わされた感じだった。世界のメディアは、両パフォーマンスをそれぞれ平等な時間配分で、数分間放映した。しかし、世界のメディアの最大関心事は「法廷内」の方だった。

イスラエル国内では、まったく異なった画像が放映された。イスラエルのメディアは、一丸となって国民洗脳を志願したのだ。テレビの全ネットワーク、全ラジオ局、すべての新聞が、一つの例外もなく、この国家事業に参加した。朝早くから夜遅くまで、テレビもラジオもハーグの街頭イスラエル・パフォーマンスばかりを、これでもかこれでもかとばかりに繰り返して放送。全世界がイスラエルのデモンストレーションに釘付けになったかのような印象を作り上げた。

法廷内の議事については、「取るに足らぬもの」「パレスチナ人と反ユダヤ主義者どもが演じる、惨めで下手なショー」という扱い。イスラエルの街頭ショーは、世界を揺るがす大イベント扱い。バスの残骸と被害者の家族が、すべてのイスラエルのテレビ画面に何十回も現れ、次々と繰り返し放映された。パレスチナ人のデモンストレーションも映し出されたが、法廷内の議論と同様、ほんの数秒間のみ。イスラエル報道機関は寛大で、民主的だといわんばかりの解説つきで。パレスチナ人代表の発言も、二言三言だけ流された。

イスラエル人の「反壁闘争」は世界との共存をとり戻す闘いだ

メディアがイスラエル視聴者に与えるメッセージは明白だ。「イスラエルの大勝利。全世界は、今やこの紛争ではイスラエルが被害者で、パレスチナ人はテロリスト、分離壁は生命を守るために必要で、『ユダヤ人の命はパレスチナ人の生活より重要』であることを理解した」。軍将校、護衛隊員、報道記者、コメンテーター、大学教授などが、次から次へとテレビ画面に登場、大声で、まったく同じことを語った。「我々が受難者だ。我々が迫害されているのだ。アラブ人は殺し屋で、我々は身を守っているだけだ」と。占領のことには一切触れない。何故触れる必要があるんだ、関係ないだろう、というムードだ。

メディアが一方的ナショナリズム・メッセージを伝えている時、イスラエルの平和運動は、エルサレムの首相官邸付近で、「分離壁反対デモ」を行っていた。国営テレビ「チャンネル・ワン」が、それを四秒間だけ報道した。その日のテレビとラジオ放送は、どの局も、壁建設に反対する人やハーグ国際司法裁判に賛成する人を、一人たりとも登場させなかった。

これは恐ろしいことだ。民主主義の国で実際に起こっているが故に、なお恐ろしい。KGBやゲシュタポがジャーナリストを脅迫しているのではない。ラーゲリや強制収容所が政府と意見を異にする人を待ち構えているわけではない。みんな自由意志で、自ら信じるところに従って、そうしているのだ。

ハーグ国際司法裁判所が開廷した翌日、ゼエブ・ボイム防衛副大臣は議会で、「ムスリムはみんな生まれつきの殺人者で、それは遺伝子の中に備わっている」と言った。アリエル・シャロンの友人だという男がテレビで次のように言った。「アリクは、『キリスト教に反ユダヤ主義が再生していることにひどく頭を痛めている』、と言っていたよ。メル・ギブソンの映画『パッション』がいい例です。そのうえ、今やムスリム世界の大部分が、反ユダヤ主義に冒されているのです」。

これはゲットー・メンタリティだ。我々は普通の国、他の人々と普通に共存する国になるためにイスラエル国を作ったのではないか。しかし、イスラエル・メディアの報道姿勢を見れば、我々はそれに成功しなかったと言わざるを得ない。我々は、心の奥深くゲットーを抱えたままなのだ。

このことは、分離壁問題にも反映されている。壁は、パレスチナ人をバンツースタンに閉じ込めるものだが、同時に、我々をゲットーの現実に引き戻すものだ。それも単に物理的な意味だけではない。

反壁闘争には多くの意味がある。それは、巨大な壁のため地獄の生活に押し込められ、「自発的に」立ち去れという圧力に絶えずさらされている西岸地区のパレスチナ人を解放するための闘いばかりではない。この国の二民族を、絶えず増大する流血サイクルを産みだす状況から解放するための闘いばかりではない。それはまた、イスラエル民族を、心の奥底にある内なるゲットーから解放する闘いでもあるのだ。

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