人民新聞

キューバ訪問記

素敵なキューバ社会主義

2003年 11月5日
通巻 1160号


環境破壊・エネルギー浪費を続ける私たちに新たな価値観を投げかけるキューバ……阿部 真澄

 「有機農業で自給している国がある」と聞いて、正直、ぼくは疑っていました。色々報告書にも目を通しましたが、どうもピンと来ない。ならば、百聞は一見に如かず。「現地を訪ねて、真偽の程を確かめよう」という事になり、その問題の国・キューバへ行ってきました。

どうして有機?

飛行機を乗り継ぐこと一六時間、ついにキューバへ。ホテルへ向かうバスの窓から眺めていると、まず車の通行量が非常に少ないことに気がつきます。一九五九年のカストロ政権 樹立以来、四〇年余りの歳月を経てもなお、隣国・アメリカ合衆国がキューバに対する圧力を緩めず、輸出入がほぼ麻痺状態にあるので、燃料が乏しいのです。

 疾走する車も半世紀前の、極めてアンティークな感じのアメ車が走っています。故障してもすぐに修理し、何事もないかの様にごく自然に走る年代物が、この国での自動車なのです。

キューバは、九〇年代初めのソ連崩壊から、大きな政策転換を余儀なくされた国でした。砂糖や重工業製品と引換えに、石油その他の生活物資を依存して生計を立てていました。アメリカに依存する現在の日本に限りなく近い状態にあったわけです。そして、大得意先を失ったキューバは、アメリカの国際的圧力により、あらゆる輸出入がストップし、大国・アメリカの喉元で唯一の社会主義国として孤立する羽目になりました。

石油が無くなって重機・自動車は鉄の塊と化し、食糧自給率も惨憺たるものであったために、餓死者が続出。亡命者は後を絶たなくなりました。 そしてキューバは、生き残りを賭けて空き地を耕し始めます。家の裏庭から始まり、学校の校庭にいたるまで農地へと変わっていくその様は、ぼくらには到底、想像し切れるものでなかっただろうと思います。まず、ガソリンが乏しい。それ故、 地方の農村から中央まで食べ物を運搬するのが容易でない為、都市の中で作ってしまおうという発想が生まれるに到りました。そして今度は化学肥料や農薬が底を付き、辺りを見渡しても何も無い。そこで、昔ながらの、自然にあるもので除草剤や防虫剤をこしらえ、飢えを凌ぐことに見事成功したのでした。現在では研究が進められ、国としても「有機農法でやっていくことが最上の策」とみているようです。

キューバの子供たち

そんな、決して裕福とはいえない状態にあってなお、笑顔を忘れることのない人々がこの国の最大の魅力だと、ぼくは感じています。それもそのはず、この国では教育費や高い医療費に悩まされることがまったく無いのですから。全て国庫負担で、なおかつ国の隅々まで病院と学校が存在しています。どんな僻地でも、です。キューバの平均寿命が先進国と肩を並べるほど高く、識字率も発展途上国ではズバ抜けて高い現状も、充分説明がつきます。

現在は外貨獲得の手段として、観光を中心に市場経済を部分的に導入しているキューバですが、依然として平等主義が行き渡っているため、物乞いをする子どもの姿を見ることはまずありません。そして、世界でも有数の人種及び性間差別の少ない国たるその由縁は、教育にありました。ぼくは今回、とある小学校を見学しましたが、そこの校長と教頭はいずれも黒人系の女性でした。そして、ふと校庭で遊んでいる子供たちを見やると、白人系と黒人系の子供が一緒になってはしゃいでいました。

 ああ、そうか。この国の教育環境はこういう光景が当り前なんだなあ。そう思って、なんだかとても嬉しくもあり、悲しくもなります。他の国ではとても考えられない大らかさと、苦境を乗り越えてきたその成果の結晶、それがこの子たちなんだと。今なお、人種差別によって苦しむ人々が圧倒的多数を占めていることを思えば、この子たちが受けている教育がどれほど素晴らしく先進的で、最も理想に近いものであるのだろう。屈託のない笑顔と、澱みのない澄んだ瞳は忘れることができません。この環境で育つこの子たちが、これからどんな国を創り上げていくのでしょう。

ここには新しい価値観がある

 この国のありかたは、まさに類を見ないものでした。今そこにあるものを最大限まで使い続け、大切に扱っているその生き方はまさしく、二一世紀の人類にとって大切な、新しい価値観だろう、と僕は思っています。「発展」の名の下に、環境破壊、エネルギー浪費、その他様々な問題を引き起こし、それでもまだ満足することのない、無限に等しいエゴを解消することに躍起になっている、そんなぼくらに対して、まったく違う別の未来を世界へ向けて投げかけているキューバ。差別することもなく自然と受け入れてくれた、その人々。

 あの「アミーゴ!」「ハマーキ(葉巻)!」と、陽気に声を掛けてきたみんなは、今日も元気にしているのかなあ。

 

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