人民新聞

ブラジルMST(土地なし農民運動)代表
来日インタビュー

    ブラジルの農地改革を主導する
土地なし農民の実力土地占拠闘争

2003年 10月5日
通巻 1157号


 公有地や大土地所有者の不耕作地を実力で占拠。協同組合を運営し、学校を作り、かたや世界の反WTO運動の先頭に立つMST=「土地なし農民運動」の代表が来日した。MSTは150万人の農民が加盟するブラジルの実力抵抗運動だ。
 MSTの土地占拠闘争は、「ブラジルの土地は、生産するために利用されなければならない」という憲法条文を法的根拠としている。生産のために使わないでいる不耕作地を農民が占拠しても、耕作を始めれば法的には何ら問題はなく、むしろ不耕作のまま土地を放置している大地主こそが憲法に違反しているというわけだ。しかし実際は、MSTが土地占拠を始めると、軍警察や地主の私兵がMST農民や活動家を襲撃する。1996年エルドラード・デ・カラジャスでは、農場の収容を要求してデモ行進をしていた農民たちに対し軍警察が一斉に発砲。農民側に19人の死者が出た。こうした農地を巡る紛争は毎年500〜700件起こっており、多くの死者が出ている。
 大地主も実は土地占拠によって所有地を拡大してきた。公有地を占拠し、一定期間経過した後に使用権を主張して獲得するのである。こうした土地で、不耕作地となっているところを選んで、MSTは土地占拠闘争を行う。
 今回来日したのは、シロ・コレアさん。エコロジーや種子の専門家で、1993年からMSTの活動家として様々な活動を行っている。「人類の共有財産としての種子」という著書もある。コレアさんに、土地占拠闘争や反GM・反グローバリズム運動について聞いた。                     (編集部)

農地に帰りたい


 私たちブラジル農民は、大変な社会的不公正の中にいます。この不公正は500年間続いてきました。ブラジル農村の社会構造は、ポルトガルが植民地化して以降、現在まで変わっておらず、1600万人が飢餓線上で暮らしています。
 人口1億7000万人のうち1%の地主が46%の土地を所有しています。しかも70年代に行われた農業の機械化と農地のさらなる集中化のために、400万人の農民や農業労働者が農地から追い出され、都会に働きに出ざるを得ませんでした。しかし、都市に出ても職が持てず、流民化しているのです。
 このため私たちは、農地改革を進めることによって農民がもと居た土地に帰り、都市と農村の人口分布を再編して人々の生活を改善したいと思っています。
 1970年代の土地を求める大規模な農民運動は、軍事クーデターにより大きな痛手を被りましたが、この歴史を引き継ぎ、1984年第1回土地なし農民全国会議が開かれ、正式にMSTが結成されました。MSTは、都市に流れ込んできた元農民が、再び農村に帰り、公有地や大地主の遊閑地を占拠する運動として出発したのです。



納得するまで話し合い


 私たちの組織は、ボスが支配するのではなく、全員参加の民主主義を保証することで、大きな組織的前進を遂げてきました。現在30万家族・150万人がメンバーとして参加しています。
 MSTは、土地を占拠するまでの臨時居住地キャンプで、あるいは土地占拠闘争の中で組織を拡大し、皆が組織の運営を学びあいます。臨時居住地の運営は全員参加が原則です。10〜20家族で「核グループ」を構成し、各グループから代表を選び、教育・健康・ジェンダー・生産の各部門別会議で議論をし、全体の意思を形成していきます。
 「炊事や薪取りは家族ごとか共同か?飲酒を許すか?」などキャンプ運営に関わるあらゆることが議論され、納得するまで話し合われます。
 入植後も、全員何らかのグループに属し、役割を与えられます。生産委員会は、入植者が生産に困らないようにプロジェクトを推進し、生産物を流通させるルートを探していきます。
 また、いったん土地を得た人々は、これから土地を得たいと思う人々の援助をするわけです。



アルゼンチン経由のGMO汚染


 MSTは、世界の様々な社会運動と連携を持っています。そのもっとも深いつながりがあるのが『農民の道』(VIA CAMPESINOS)です。『農民の道』は、WTOに対抗するために作られた組織です。5大陸84ヵ国の農民が参加しています。
 農業は、人間が生きるために不可欠な食料生産の基盤であるという観点から、『農民の道』は、WTOが農業問題を議題にすること自体に反対しています。
 アメリカ主導のもとで、戦後世界の農業は大きな変化を余儀なくされました。「緑の革命」で一番打撃を被ったのがブラジルでした。アメリカのアグリビジネスといわれる巨大企業のもとでブラジルの農業は浸食されてしまったのです。
 そして今、ブラジルに大量の遺伝子組み替え作物が導入されています。我々はこれに強い危機感を持っています。多国籍でアグリビジネスを展開しているモンサント社が、アルゼンチンで作った遺伝子組み替え作物をブラジル南部に導入しています。これによって深刻な汚染が引き起こされています。
 ブラジルでは、遺伝子組み替え作物の生産・流通・消費を禁止する法律が成立しています。このためモンサントは、まず国境を接したアルゼンチンで栽培を始め、そこからブラジル南部に侵出してきたのです。現ルーラ政権は、表向きは遺伝子組み替え作物に反対していますが、多国籍アグリビジネスの利害にも気を配っており、深刻な矛盾に陥っています。
 WTOが進める農業とは、金持ちの国が進める農業を第3世界に押しつけるもので、我々には何のメリットもないのです。



農民はWTOに反対する


 また、『農民の道』は遺伝子に関する知的所有権にも反対しています。生物多様性は、確保されねばならず、それを特定の企業が独占することは許されません。今地球の中で貧しい国というのは、実は生物多様性という観点では非常に豊かな国なのです。この「豊かさ」に金持ちの国は目を付けているのです。遺伝子組み替え技術のために、有益な植物種を貧しい国から奪っていく『生物海賊行為』にも反対しています。
 私たちは新自由主義的なグローバリゼーションに対して闘っています。貧富の格差の拡大に反対しているのです。しかし、新自由主義的グローバリズムが進行すると同時に、私たちの社会運動も世界に広がっていきました。ブラジル・ポルトアレグレで過去3回行われた世界社会フォーラムには、世界から数万の人々が集まってきました。
 来年1月インドで、第4回世界社会フォーラムが開催されます。アジアで初の開催となります。日本のみなさんも是非参加してください。



MSTは新たな世界を求める


 MSTは80年代、集団による農場占拠を行う「不法団体」とのレッテルを貼られてきた。が、90年代に入り、入植地に協同組合を設立し、有機栽培・共同生産・生産の多様化などを進めた。獲得した土地で自立し、有機農産物を近郊の都市に流通させる方法も獲得した。ここ5年間は、小規模の無農薬有機栽培を推進し、入植する際にも木を切り倒してすべてを耕作地とするのではなく、森林も残して環境にも配慮した農業を心がけているという。
 これらの実践により、今やMSTは、単なる農地獲得運動ではなく、新自由主義とは違う社会モデルを提案する有力な社会運動体に姿を変えつつある。
 土地を実力で占拠してしまうというのも日本では想像もできず痛快だが、そこで耕作し、協同組合を作って、都市への流通回路も造りだす構想力と、実践力は、反グローバリゼーション運動の雄たる実力を見せつけるものだ。

 

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