ロードマップは「オスロ合意」の歪んだコピーだ
Q・ 米政府は、ハマスを「テロリスト集団」で「平和の敵」と規定しています。反論を聞かせてください(注:米のハマス=テロリスト団体規定に対し、EUはハマスは社会福祉団体だと反論している)。
ムハマド(以下、M)・米国自身の歴史を見てご覧なさい。米国人は、建国の父を英国の支配と戦った英雄、自由の戦士と見ているでしょう。現政権の論理だと、彼らもテロリストになります。同じように、ナチス支配に武力抵抗したドゴールも、テロリストになります。キリスト教原理主義者や、シオニストや右派勢力の影響下にある現米政権が、パレスチナの自由の戦士を「テロリスト」だと決めつけ、ハマスを「平和の敵」と決めつけているだけなのです。アフガニスタン武力占領が米の言う「平和」なら、イラク占領・支配が、そして言うまでもなくイスラエルのパレスチナ占領が、彼らの言う「平和」なら、私たちは喜んで平和の敵になります。アラブ人やイスラム教徒の圧倒的多数が現米政権を「新植民地勢力」と考えていますから、その政権から敵呼ばわりされることは、かえってハマスの士気を高め、政治的・財政的にもプラスになります。
Q・ハマスも他のパレスチナ解放勢力と同様、米提案の和平へのロードマップに反対していますね。ロードマップを受け入れがたい理由を説明してください。
M・ロードマップは、「オスロ合意」の歪んだコピーです。オスロと同じ段階を提示しています。
第一段階では、パレスチナ人の手によって、イスラエルの占領を保護・警備せよと言っています。第二段階で、ゼロの上にパレスチナ国家を作れといっています。国境も主権も領土的連続性もない国家を。その後で、基本的原則とか、長年パレスチナが要求してきたエルサレム問題・難民帰還権・政治犯釈放を議論してもよい、となっています。一番大切な問題を先送りしているだけです。マドリッド交渉から現在までの一二年間、この問題に関する合意や調印を求めてやってきましたが、結果は西岸地区とガザ回廊の再占領でした。マドリッド、オスロ、ロードマップ、名前を変えただけの欠陥システムを、これ以上繰り返すことはできません。
信用できるのは自身の力と結束と民衆の支持だけだ
Q・ハマスの和平へのビジョンを聞かせてください。
M・本物の平和、真実で実体のある平和を求めています。占領地内再配置ではなく、本当にイスラエル軍が撤退することを求めています。占領状態の終結と国際法や人道上の原則に反する入植地の解体を求めています。これが第一歩でしょう。
Q・パレスチナ暫定自治政府の高官が、「イスラエルに約束を守らせるために米使節を監視役として地域に置いて欲しい」と言っていますが、ハマスの意見は?
M・米は信用できません。イスラエルも信用できません。両国の約束はまったく信用できません。さらに、最近EUの中からすら、間接的に米を支持する発言をする人が出てきましたが、こういう人々は信用できません。
私たちが信用できるのは、私たち自身の力と、結束と民衆の支持です。イスラエルが、全領土からの完全撤退と、占領状態の終結と、拘留者全員の釈放に本当に同意すれば、道が開けるでしょうが、実際に彼らがやっているのは、占領地内で軍の位置を変えるだけなのです。それを「撤退」と宣伝します。だから私たちは、彼らの言葉を信用できないのです。私たちは自らの力を強くし、占領を終わらせるために抵抗を続けるしかないのです。信用できるのはそのことだけです。
ブッシュはイラクという湖で溺れるだろう
Q・ 死海で開催されるWEFサミットは、「イラク戦争後の新地政学的状況を米が巧みに利用しようとするものだ」、と評する人がいますが、パレスチナから見て、どう思いますか?
M・ブッシュは、イラクという湖で溺れるでしょう。この四月にやったことが、大変な歴史的過ちである、とやがて明らかになって、彼らは苦境に陥るでしょう。早晩米が、イラクから撤退せざるを得なくなることを、私たちは確信しています。米側の犠牲者はどんどん増えてゆくでしょう。そのうち中東地域の地政学的状況が一変することになります。まぁ、見ていてごらんなさい。時間も薬の一部ですから。
Q・和平、あるいは、ひょっとしてパレスチナ国家が現実になる場合に備えて、ハマスは何か準備していますか?
M・選挙の準備はしています。もし人民がハマスを選んだら、私たちは、よく知られている「反占領」の立場に加えて、もっと純化された体制を作ろうと思っています。
パレスチナ人の福祉を目標とする効果的な社会・経済体制を作り、行政の仕組みを効率化し、パレスチナ民族の統一を促進する政策を実行します。社会の底辺に位置する、弱い立場の人々の問題を最重視します。教育・文化・農業に関しても、効果的で科学的プログラムを作成しなければなりません。
そして、イスラム教に立脚した、本当の近代的文明を実現するつもりです。イスラム教は、人類の歴史で最も建設的な宗教であったし、今もそうです。不正を除去するため、西洋的民主主義よりももっと純化された民主的な「シューラ制度」(注:宗教指導者や地域指導者よりなる評議会、相談会のようなもの)の哲学を実行します。シューラの相談役は、選挙で選びます。これは、信仰する宗教の如何に関わらず、社会成員全員の幸福を増進する仕組みです。(聞き手=T・ムハマッド)
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