下獄することにしました
過ぐる四月三〇日、東京高裁で「控訴棄却」の判決を受けました。
現在の国際・国内情勢を反映した、極めて政治的な裁判でした。判決文なるものは「非国民」「テロリスト」を糾弾するアジテーションであり、わが国に於いては政治に反抗する者には、時の経過と共に時効どころか、益々量刑が増えていくことを示すものです。
今の裁判状況の下で、「これ以上上告して争う意味がない」と判断し、下獄することにしました。従って、実刑一二年が確定します。
一九七〇年三月の「よど号ハイジャック」から三〇年ぶりに祖国に帰国しての裁判斗争、拘置所生活も三年になろうとしています。
この期間、力強く励まされ、闘う勇気を与えてくれたのが、この「人民新聞」です。かつての青年学生の反乱、反抗の時代、「人民新聞」が産声をあげた時の意気込みや思いがそのまま、現在の社会政治問題に対する真摯な取り組みとして、権力の不正や腐敗を憎み、闘い抜く姿勢としてしっかりと貫かれていることは、頼もしい限りです。
国際、国内情勢は、大きな激動期を迎えています。特にニューヨークでの同時多発テロ事件により、現代世界の歪んだ姿が浮き彫りにされました。超覇権帝国として世界に君臨するアメリカが、むき出しの暴力を前面に立たせ、現世界体制の維持のため、好き放題、やり放題の観を呈しています。ネオコン(新保守主義者)に支えられたブッシュ政権の考えや主張が、そのまま世界の正義とされ、法とされ、秩序とされる世の中です。アメリカの対イラク侵略戦争での大量破壊兵器や生物化学兵器といった口実はどうなったのでしょうか、まさに「勝てば官軍」そのままです。
こうした中で、「人民新聞」は総力をあげてアメリカ帝国の野望とどす黒い魂胆を鋭く暴露糾弾しており、パレスチナ問題、第三世界の闘いはもちろん、大企業の不正隠しの告発をはじめとした諸国内問題等、幅広い時事問題で貴重な情報を提供していますし、原則的立場を明らかにしています。
特に日朝間で「拉致問題」が全面化してからの「人民新聞」の冷静な対応は、高く評価できると思います。挙国一致の朝鮮バッシングが吹き荒れ、朝鮮を声高く罵り、激しく叩くことが人権感覚や良心の証とされるような社会状況が生じても、そうした雰囲気にのみ込まれることなく、また、様々な人達の考えや主張を紙上で発表させ、偏狭な視点に陥ることを避けてきました。在日の人々の苦しい辛い胸の内まで心配りする紙面編成に、どんな時でも虐げられた弱者や無権利の人々の立場を擁護する「人民新聞」の確固たる立場に胸を熱くしたのは、私ばかりではないと思います。
マスコミが垂れ流す「誹謗中傷」
それにしても、本当に凄まじい時代となりました。
日朝交渉に於いて、相手の意見を聞くことすら、日朝間の長い歴史に横たわる様々な問題をふりかえることすら「非国民」とされ「国策」に合わぬと非難され、大手の全マスコミが一斉に横ならびの「大本営ニュース」を流すという状況すら生まれています。
普通、政府筋の情報・アメリカ筋の情報には裏の裏を読む良心的進歩的マスコミ人すらも、朝鮮やよど号関係者の情報に関しては、無条件に受入れており、亡命者や、誰か個人の「証言」や「噂」「憶測」が何の検証もないまま、事実として大々的に扱われ、全ゆる誹謗中傷が輪に輪をかけて、これでもか、これでもかとテレビで放映され、出版物の活字を埋めつくしています。「ベールに包まれた国」だからと冷静に慎重に対応するのではなく、誰も検証することができないとばかりに、それが極端で大袈裟であればある程、貴重な情報として、その証言者を「闘士」としてもてはやす状況となっています。
私自身、タイで「ニセドル冤罪事件」の時、テレビ朝日の「ザ・スクープ」という番組で、亡命者なる人間が「田中を工作員養成学校で目撃した」と全くデタラメな「証言」をし、それが全国放映され、私を「ニセドル犯」に仕立てあげる雰囲気づくりに最大限利用されました。現在の無責任な大手マスコミによる報道被害者の一人として、私は今でも怒りをおさえることができません。
「平和か戦争か」が問われている
アメリカ主導、日本追従による「第二次朝鮮戦争」は、机上から既に具体的射程に入ったと見るべきです。クリントン政権時に実現した「朝米合意」を誠実に履行するどころか、ブッシュ・ドクトリンには合わぬとして否定し、主権国家朝鮮に対し、一方的に「悪の枢軸」「ならず者国家」と指弾し、「反テロ戦争」、「テロ支援国家」に対する「先制攻撃」を口実に、日本・韓国を次第に臨戦体制へと移行させています。有事法制や個人情報保護法等の闇雲な国会通過、そしてイラクへの自衛隊派遣が当然の如く実現されようとしています。もはや野党なるものは、極少数の異端児的党を指す言葉になり、憲法の平和精神など過去の世紀の遺物の如く扱われています。わが国は日米安保体制を最上、絶対とする国となって、アメリカの世界戦略・アジア戦略を実現していく突撃隊としての役割を喜々として演じています。
国民の一人一人に、「平和か戦争か」、どの道を選ぶのかが、鋭く問われる社会状況が生まれています。かつての「支那膺懲」を「朝鮮膺懲」とし、侵略戦争に向かってはなりません。今こそ私達は、かつて第二次大戦での深い国家的反省と血の教訓を踏まえ、近隣諸国との平和・友好・信頼関係を築くため、日本国憲法を政治に外交に誠実に実現していくべきであり、汗を流して必死に働き闘いながら、皆が幸福になる社会を求める勤労人民大衆の聖なる課題の達成のため、搾取や抑圧を社会から一掃していく、根本的社会変革を粘り強く、力強く展開していくべきではないのでしょうか。
国家権力による在日の人々に対する各種弾圧や迫害、よど号関係者の不当逮捕、度重なる家宅捜査、長期拘留、不当な量刑判決等、激しい朝鮮叩きの中で、恐れおののき、「同志だ」、「友人だ」と言っていた人の中からも背信者が生じています。進歩的といわれていた人の中にすら朝鮮問題に関しては、アメリカ主導の強行姿勢で、制裁で、戦争によって解決すべきだと主張する人がいる程です。
わが国において、軍靴の足音が響きはじめている状況で、国際政治問題、わが国の政治・経済・外交・文化等全ゆる問題が山積し、深刻化していく中で「人民新聞」の使命と役割は、益々大きくなっています。
私も十年の離世となりますが、いつ、どこにあっても「人民新聞」と共に闘い続けます。
最後に「人民新聞」編集部の人々、「人民新聞」をかかげ闘う人々、そして「人民新聞」の読者、支援者の皆様方の健康と幸福を願い、生活や活動で大きな成果と飛躍があることを期待し、下獄に向けた私の挨拶とします。
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