2003年 2月25日
通巻 1136号
ブッシュのイラク攻撃は、 (1)反テロ戦争ではない。 (2)大量破壊兵器撤去戦争ではない。 (3)イラクに民主主義を作る戦争ではない。 (4)以上以外の目的の戦争である。 (1)に関して。サダム・フセインは残虐な独裁者だが、彼がオサマ・ビン・ラディンと組んでいると考えるのは馬鹿げている。サダムはまったくの世俗政党バース党のイラク版を率いている。ビン・ラディンはイスラム原理主義者だ。彼のアル・カイーダの目的は中東地域のすべての世俗政権を破壊することだ。サダム・フセイン=アル・カイーダ陰謀説をでっち上げた政府役人は、ほんとうに無知か、人民なんて少なくともしばらくの間は騙すことができると信じているシニック(冷笑的)な人間だろう。 (2)に関して。サダムが恐るべき毒ガスをイラン人(そしてイラク内のクルド人)に使ったとき、アメリカはそれを支援した。イランをやつけるためだったら何だってよかった。今日生物・化学兵器は中東の他の国々にもある。エジプト、シリア、イスラエル。しかもイスラエルには核兵器すらある。 (3)に関して。アメリカは民主主義なんて屁とも思っていない。イスラム圏のアメリカの子分の中には、サダムより残虐な独裁者がいるではないか。アメリカの古いことわざに、「奴は糞たれだが、おれたちの味方の糞たれだ」というのがある。 (4)に関して。一言で言える。石油だ。石油の匂いが充満している。その匂いを嗅ぎ取れない者は何が何だか分からないだろう。しかしいったん匂いを嗅ぎ取れば、シニカル(冷笑的)で偽善的なブッシュ株式会社の行動がまったく論理的なことがわかる。 次の3点がアメリカの戦争目的であろう。 (1)世界第1の埋蔵量のイラク石油を取ること。 (2)カスピ海に埋蔵する石油をアメリカのコントロール化におくこと。 (3)サウジアラビア、クウェート、イラン、など湾岸諸国の石油を間接的にコントロールする環境を作り出すこと。 世界の石油のほとんどをコントロールできれば、アメリカはもう石油市場の気まぐれから解放される。石油供給の蛇口を握るのはアメリカ、アメリカのみとなる。石油価格を決定できるのはアメリカ、アメリカのみとなる。アメリカが価格上昇を望めば、上昇し、値下げを望めば、下降する。片手をちょいと動かすだけで、ドイツやフランスや日本の経済に大打撃を与えることができるのだ。どの国も抵抗できなくなる。フランス、ドイツが戦争反対するのも「むべなるかな」である。自分たちに仕掛けられた戦争だからだ。 フセイン後は代わりの独裁者 アメリカはイラクに侵攻・占領する気はない、民主主義を樹立して引き上げるだけだ、と言う人たちがいる。バカ言うのもいい加減にしろ。アメリカはイラクに侵攻し、何年も、場合によっては何十年もそこに留まるだろう。アラブ・イスラム世界にアメリカが実態として存在することは、新たな地政学的状況を作り出すからだ。 大国が軍事力を使って経済支配強化を企てるのは、これが初めてではない。歴史はそういう例でいっぱいだ。しかし、今のアメリカのような超大国 ― 匹敵する力をもったライバルがなく、今後数世紀にわたって世界経済を支配するために巨大な軍事力を行使できる国家は、歴史上初めてであろう。 こう見ると、予測されるイラク戦争は、軍事的には「小さな戦争」でも、歴史的な意味は大きい。 ブッシュは戦後のイラク占領支配をぼかし、正当性を与えるために、イラク人による政府を作るだろう。第五列員はどこにでもいるものだ。新たな独裁者サダム・フセインをうまく探し出して大統領に据えることだろう。 しかし、戦争はやはり戦争で、いくら万全の準備と事後の計画まで定めて始めても、うまく行かないことが多々ある。そもそも人民の支持が得られるだろうか。アメリカを後ろ盾にした腐敗新政権が、生まれる可能性は高い。それに対する人民の反乱も予想される。トルコが機に乗じてイラク北部のクルド人勢力をいっきに滅ぼそうとして攻撃・虐殺を引き起こすかもしれない。イラク南部、イランと隣接するところにあるシート教徒聖地でトラブルが発生する可能性もある。 「おとなしくしないとシャロンの首輪を外すぞ」 イスラエルにはどう影響するだろうか。イスラエル人が昔から言い続けてきた言葉を借りると、「ユダヤにとって利益になるだろうか」。 ブッシュとシャロンは、ほぼ共生関係にあると言ってよい。シャロンは、中東地域におけるアメリカのプレゼンスはイスラエルの立場を強化し、彼の胸中にある計画を実行しやすくなる、と考えているのは確実だ。しかし、ヘブライには、「太った羊の尻尾には茨がある」ということわざがある。イラク長期占領は、アメリカを一種の「アラブ・パワー」にする恐れがある。占領者としては当然、中東地域の安定と平穏を望み、アラブ諸国に混乱が生じないように気を配るであろう。ところが、シャロンと側近将軍たちの狙いは、できるだけ混乱を起こして、何百万人のパレスチナ人を隣国ヨルダンへ「移動」させることだ。このことが、ブッシュとシャロンの間の矛盾になることは確実だ。 シャロンは過激派であるが、用心深い男で、どんなことがあってもブッシュを怒らせてはならないことを心得ている。慎重な行動をするだろう。忍耐強く、しかし頑固に、ブッシュから、全部とは言わなくても、多少のパレスチナ人を「移動」させること、アラファトを殺害すること(だってフセイン殺害が是なら、アラファト殺害だって是だろう)の承認を得ようと努めるだろう。そうすればパレスチナ人がばらばらになると思っているからだ。 他方、ブッシュはイスラエルがおとなしくしていることを望むだろう。同時に、アラブ諸国にもおとなしくするように要求、その際イスラエルの脅威を利用するだろう。自国民の反乱を絶えず恐れているアラブ支配者たちに、おとなしくしないとシャロンの首輪を外すぞと恫喝をかけるだろう。 これは、イスラエルにとって利益となるだろうか。経済的、社会的、安全保障の面から見ても、答えは「ノー」だ。今や世界は冒険主義の時代に突入、その冒険屋の筆頭がイスラエル国の舵を握っている。ここ中東では地震の地鳴りが響いている。誰も迫ってくる危機がどんなものか予見できない。ただ一つ確かなことは、イラク戦争が平和をもたらさないということだ。 私は、平然と戦争を語れる世代の人間ではない。現実に戦争を体験し、その素顔を嫌という程見てきた。何万人が死に、何万人が傷つき、何万人が障害者になる。何万人が難民となり、何万人が家庭を失う。人間の涙と苦しみの海 ― それが戦争だ。 私も世界の何百万、何千万人の人々と声を合わせて、「ノー」と叫ぶ。 (翻訳・脇浜義昭) |
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