資料・世界各地の論評

イスラエル総選挙でのシャロンの勝利について

グッシュ・シャローム(イスラエルの平和団体)

2003年 2月5日
通巻 1134号

「シャロンは国民的合意」という神話を打ち崩せ
 驚くような結果ではない。選挙前の1ヶ月間の世論調査でも、この2年間、国を途方もない地獄へ導き入れたにも関わらず、シャロンが勝利することは予測されていた。とはいえ、テルアビブ郊外の投票所で、リクード党の票が、他党の票よりも、どんどん山積されていく光景を見て、やはり気が沈む思いだった。その夜遅く、テレビの前で悲しむべき結果と構図を確認した。
 労働党が25議席から19へ落ちたのは、選挙前から予測されたことだったが、メレッツが10から6に減ったのは、予測よりも悪い結果だった。ハダッシュとバラドはそれぞれ1議席づつ増やし、前者は4、後者は3となったが、その分ユナイッテド・アラブ・リストの2議席減となり、現議席は2。全体的に見て、平和陣営にとっては手痛い打撃である。
 リクード党よりシヌイの伸びが大きかったこともあまり慰みにはならない(シヌイは6から15へ躍進)。シヌイはユダヤ教の超正統派を寄生虫と攻撃したことで、労働党やメレッツの票を横取りすることに成功したのだ。イスラエル社会ではイエシーバ(宗教学校)の学生が徴兵義務免除を受けていることへの反感がかなり強くある。ただシヌイには、明確な政治的プログラムがなく、クネセト(国会)に出している議員もほとんど政治的音痴ばかりである。党首トミイ・ラピッドはポピュリストで、イスラエル―パレスチナ紛争に関してはシャロンとあまり変わらない姿勢だ。
 議会外平和団体としての私たちは、これまでにも幾多の苦境をくぐってきたし、今後も、世論の人気があろうがなかろうが、言うべきことを言い続けるしかない。
 私たちのような立場の国民が今しなければならないことは、あらゆる手を尽くして、労働党に政権に入らない決意を守らせることだ。数は減っても、労働党が野党として原則を貫けば、少なくとも「シャロンは国民的合意」という神話を止めることができる。
 これは、米は無理でも、少なくとも欧州に、シャロンのパレスチナ人虐殺政治にブレーキをかけることを期待する道を開くからだ。
 ヨエル・マルクスは、総じてリベラルなコラムニストだが、状況によってころころ意見を変える人物である。しかしそれだからこそ、彼が選挙結果に関して書いた次の記事は、私たちが孤立してないことを示すものなので、以下に引用する。


ピュロス王の勝利(犠牲が大きい勝利)
ヨエル・マルクス

(『ハアレツ』2003年1月28日)


 シャロン氏とその忠実なる友人、顧問、支持者のみなさんに一言申し上げたい。有頂天にならぬよう。屋根の上で踊らぬよう。祝いのシャンペンを飲みすぎぬよう。選挙運動のツケがまわってきて、シャロンの勝利がピュロス王の勝利になりかねないから。なんのことだって?古代ギリシャのピュロス王はローマ軍を破ったが、自分の軍隊は壊滅以来、次のようなフレーズが生まれた。「こんな勝利がもう1度あったら、我々は敗北する」。
 シャロン氏は労働党を破ったが、どのみち労働党はガタガタだった。(中略)世論は右旋回、和平交渉が崩れた今、シャロン氏は器量の狭い超極右政府という悪夢へ向かわざるをえない。かって氏の暴力政治を覆い隠してくれた労働党というイチジクの葉はもうないのだ。弁護してくれたペレスもいないし、平和を語りながらシャロンの望むとおりに動いてくれたベンエリエゼールもいないのだ。(中略)ペレスに代わってリーバーマン(イスラエル・ベイテイヌ党首。4議席)しかいないという事実以外に、選挙は自分に何をもたらしたか、よく考えるがよろしかろう。このままでは極右の囚人となるしかないだろう。
 ラビ(ユダヤ教指導者)・オヴァディア師の至上命令「入植地を捨てるな」は、シャロン氏が、狭量で極端なヘロデ王的政府へ進まねばならないことを決定づけている。米はこれを好まないだろう。シャロンとブッシュの間に生まれた友情を背景に、米は、イラクの後、パレスチナ国家容認と入植地解体について交渉するような政府作りを要求するだろう。イスラエルの「防衛の権利」には理解を示すだろうが、右派の夢精ともいえるアラファト殺害は、米のイスラエル見放しの口実になりかねない。
 シャロン氏は懸命に国民統一政権を口になさるが、それを実現するすべを知らない。労働党の内部分裂をあてにしているのか、ミツナ氏を外して、再び自分のところへ戻ってくるのをあてにしているのか、それともシヌイの政権参加を期待しているのか。しかしシヌイはいわば未確認飛行物体で、まだ鳥か飛行機か分からない。
 まぁ、どんな閣僚を配置して見事な星座を作ってみても、氏は、やはり自分の過去のツケを支払わなければならない。外交政策の失敗、国民を絶望の淵に追いやる治安悪化と経済危機の尻拭いはしなければならない。勝利したものの、がんじがらめの首相の第2章を救うものは、ひょっとしたら、イラク戦争からやってくるかもしれない。イラク戦争が国民統一臨戦政府を作る口実になるかもしれないから。
 賢い人なら労働党に、今は政権の外にとどまり、シャロン政府に取って代わる準備をした方がよい、と薦めるだろう。いずれにせよ、極端な過激政府は長続きしない。国民はシャロン氏を求めたのと同じ熱情で、彼の追放を迫るようになるだろう。シャロン氏自身、それを経験したことがあるではないか。

◇注釈
イスラエル諸政党の特徴


【リクード党】シャロンの出身政党。
【シヌイ】市民組織で、政教分離を主張しているが、政策はこれだけで、政党としての綱領や全般的な政策がない。
【メレッツ】シオニスト左派政党。1967年以降の占領地からイスラエル軍は撤退し、パレスチナ内の入植地も廃止すべきだと主張している。
【ユナイッテド・アラブ・リスト】アラブ系の政党だが、イスラエル国籍を持つパレスチナ人はほとんど投票に行かないので、少数党にとどまっている。

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