試行錯誤しながらも運動するアメリカの若者たち

2003年 1月25日
通巻 1133号

 2002年11月、バークレー・スタディーツアーに参加した。「アフガニスタン空爆反対決議」を上げたバークレー市議会を支える市民は、どんな人たちだろう?若者活動家は、いったいどんな方法で運動しているのだろう?その答えを求めてのツアーで出会ったのは…。     (C)

行動するのは、嘘をつかれているから

 「私の名前はゾチ。"NOT IN OUR NAME"プロジェクトの学生オーガナイザーなんだ。日本の若者のみんなに『どうやってこの国の戦争をとめるか』を話すチャンスがあって、とてもうれしいよ!」
 ゾチは大学生。「日本の若者へ」のビデオ・メッセージでの最初の言葉だ。
 「私は、若者を組織できるオーガナイザーを増やす役割をしているんだ」と彼女は自己紹介した。「オーガナイズ」「オーガナイザー」という言葉を、日本で若い人が使える言葉に、どう翻訳できるのか?「集める?」「組織する?」「オルグ?」どれもピンとこない。日常会話にそんな言葉は存在していないから。
 「運動」自体、若者が率いているところが少ない今の日本では、わくわくする言葉たちだ。何かの気持ちを持ち、何かしたいと思った人は沢山いる。しかし、運動を起こすために人を集めようとは思っても、「自分が、オーガナイザーを増やす役割」とは思いついてないと思う。
 私は、カリフォルニア州バークレー市にある高校を訪ねた。昼休みに、「NOT IN OUR NAME」と書かれたステッカーを、若者活動家のメンバー=ゾチと一緒に高校生達に配るためだ。
 バークレーツアーの中で、若い活動家の交流会でゾチに会い、その力強い言葉を聴き、「私と同年代の、いや、もっと若い人へメッセージを是非ビデオに収めたい」と申し出ると、「明日、バークレー高校でステッカーを配布するから、一緒にやらない?」と誘われた。
 ステッカーを一緒に配って気づくこと。それは、高校生達の受け取りが違うこと。日本の高校生に、学校の前でステッカーを配って、果たして受け取るだろうか?ここ、バークレーの高校生は違った。受け取って、すぐに衣服やかばんにステッカーを張る。「自分は戦争に賛成だから、このステッカーはいらないよ」と返してくる。こんな光景も知らない。「ほかの色はないのか。友達に配るからもっと欲しい」と言って、取りに来る生徒もいた。
 ゾチの声が校門前に広がる。「みんな、嘘をつかれたままじゃいけない!自分たちの名の下に戦争させることがイヤなら、声を出そう!伝えることが大切なんだ」と彼女は叫ぶ。
 日本の若者へという彼女のメッセージビデオ撮影中、私はずっと興奮していた。
 「学生や若者の心を動かす一番効果的な方法は、真実を伝えることだと思うよ。アメリカ国内の人々は、みんな嘘をつかれている。メディアにも嘘をつかれ、政府にも嘘をつかれている。何かのきっかけでそのウソに気がつくと、誰でも何かやりたくなる。9・11の前から、大企業が世の中をメチャクチャにするのに反対する学生もいたしね。私たちは、嘘を見抜かなければならないんだ」



バークレーが特別じゃないよ!出来ることはすべてやる!

 日本から来たツアー団の中から、活動家大学生への質問で一番多かったものは、「どうやって運動をしているのか?画期的な方法はあるのか?どうしたら盛り上がるのか?」だった。
 アメリカでは学生が運動に参加してきた歴史がある。1960年代の公民権運動の時代に学生が多く参加していた。すぐあとのベトナム戦争の時も。
 「バークレーは運動の街として非常に有名だし、『ここの学生はみんな活動家でノウハウがある』と思っている人が多いけど、本当はそうじゃない」「ビラを配ったり、デモをしますと知らせたり、どの反戦グループもやっている一般的な地味な活動をしてる。広げるために毎日悩んでる」「音楽を使ったり、アート作品を作ったり、詩を読んだり、思いつく限り、いろんな人の注意を引くことをやってる」と話すのは、カリフォルニア大学バークレー校の大学生。
 それでも、日本ではまだ取り入れられてないアイデアはいくつもあったので、謙虚な若者活動家に代わって、2つ紹介することにする。

 

考えてもらうきっかけにするゲリラ・シアター

 「ヒスパニック系労働者によって始められたゲリラ・シアターは、街頭でやる芝居だ。人を刺激して、考えるきっかけにする。農場労働者は、貧乏で文字が読めない人も多いので、『どうやってチラシを配らずに労働組合を作り、組織化をするか?』を悩んだ結果、芝居になった」
 大学構内のいたるところで芝居をするらしい。死体のふりをしたり、救急隊が到着するところに、「ただ今爆撃がありました」とキャスター役の人が語り出すなど、そんな単純な芝居である。周りにいた人は「大丈夫か?これは人間か?人形か?」と注目するという。
 こういう芝居をすると、新聞・ラジオ、テレビがすぐ報道してくれるらしい。日本でもウケると思い、私はさっそく実践してみたが、反応は目を見張る。道に倒れているだけで注目を集めるのだ。

「何が起きていたか」「いま何が起きているか」
 他にも、視覚的にアピールする方法を聞いた。大学構内に、2つのパネルがある。
1つは『そのころ何が起きていたか』という題のパネルで、ユダヤ人を強制収用し「死のキャンプ」で殺している頃の写真と、日系アメリカ人をトラックに乗せて、強制収容所に収容している写真を貼ってある。もう1つは、『いま何が起きているか』というパネルで、アメリカにいるアラブ人やムスリムが、移民管理センターに集められ、「いま何をしているのか」と、ひどく問い詰められたりしている写真だ。

何がおかしなことなのかそれを知っているのなら
 「私たち、表現する権利を持っている人が集まって、他の人に真実≠聞いてもらえるようにするのは大切だと思う。今、何が起きているか、何がおかしなことなのか、それを知っているなら、私たちがするべきことは、『伝えること』『抗議の声をあげること』!」
 ゾチの声が今、私を動かしている。

人民新聞社

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