良心を金で買われた研究者たち
神戸空港で壊滅していく大阪湾

讃岐田 訓(神戸大学)

2003年 1月25日
通巻 1133号

 神戸空港埋立島が大阪湾奥部の海洋環境を現実に壊滅させている。
 この事態は、2つの公的機関ですでに予測されていた。その1つは、98年の旧通産省中国工業技術研究所(広島県呉市)が行なった、瀬戸内海の水理模型実験で、神戸空港を予定海域につくると、淀川からの汚染水を大阪湾奥部に滞留させてしまうという研究である。この模型は東西450kmの瀬戸内海を2000分の1に縮小したもので、大阪湾の部分で行なわれた。淀川河口から流した赤い染料水の動向をしらべたもので、建設前では、染料はおもに堺、泉北の沿岸を南下していくのであるが、建設後は湾奥部に滞留して南下しない。
 同様の水理模型実験を京大防災研も行なっており、空港島を設置すると、明石海峡からの下げ潮(東流)が妨害され、大阪湾奥部の汚染を加速すると指摘していた(94年2月7日付、毎日新聞)。
 この予測が現実に起これば、いま瀕死の大阪湾は死滅する。
 「これらの研究を無視するな」と追及するわれわれに対して、神戸市は「数値シミュレーションの方が精度が高く、環境影響はきわめて軽微」と開き直る始末であった。しかし、さすがに神戸市環境局がひるんで、数値計算の正しさを裏付けるためには、水理模型実験もやるべきだとの「意見書」を提出したので、神戸市はやむなく数百万円をはたいて京大防災研に実験を依頼し、紙片をトレーサーにした潮流予測図を市民説明会で公表した。そのパンフレットには、東流最強時と西流最強時に分けて、水理模型での予測図と数値計算での予測図とを左右に並べ、同様の結果を得たので数値計算は正しかったとした。
 しかし、東流最強時の左右の図を比較すると、全然違う。数値計算では空港島を建設しても、明石海峡からの潮流の矢印のすべてが、神戸市の希望通り、みごとに湾奥の方向に向かっているのに、水理模型では、紙片は空港島の南の海域から、どんどん南下しているのである。明石海峡からの潮流が明らかに妨害されている。
 しかも、公表された予測図は、空港周辺に限定されたものしか示されていない。大阪湾全域で予測実験をしたと書かれているのに、周辺だけを切り取っている。全体図を見ればもっとはっきりするはずである。われわれは神戸市議会で「全体図を出せ」と要求した。市側の答弁がふざけていた。「もはや存在しない」。「防災研にもう1度出してもらえ」とわれわれ。「向こうもないといっている」「ふざけるなっ!」。
 この件で、後日さらにわかったことが2つある。
 某新聞の記者が語ってくれたことであるが、この実験をした防災研の今本博健名誉教授に取材したところ、「今回の結論が94年の予測と逆転した理由は?」という質問には、「当時より埋め立てが増えたから」だそうで、「大阪湾の全体予測図をなぜ出せないのか?」には、「ほかの自治体に迷惑がかかる恐れがあるから」と答えたという。どうも、研究者の良心を神戸市に金で買われたらしい。
 いま1つ。水理模型と数値計算との予測図を比較したパンフレットは真っ赤なうそであった。水理模型実験の方は表面に撒いた紙片の動向であるから、表層での水の動きである。ところが、その右側に並べられていた数値計算の予測図は、表層での図ではなく、下層での図にすり変わっていた。表層での図を並べてみるとまったく合わないのだ。
 空港島建設は99年9月に強行着工され、外周護岸は翌年の10月に完成した。いまこそ神戸市のでたらめを、現実として暴いてやる。われわれ「神戸空港工事の中止を求める市民の会」(代表世話人、讃岐田 訓)は翌夏、大阪湾の海洋調査に踏み切った。

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人民新聞社

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