自治体版総背番号制と
広範な個人情報蓄積

住基ネット前から、住民を番号管理

2002年 9月25日
通巻 1122号

ここまで進んでいる自治体の個人情報収集


 ジューキ、ジューキと騒いでいる場合じゃない!住基ネットは、今のところ氏名・住所・住民票コードなど6情報だけだが、この住民基本台帳を直接管理する市町村では、コンピュータが導入され始めた頃から、住民に番号をつけて(ここでは「住民コード」とする)、番号管理する「自治体版総背番号制」がすでに実施されていたことがわかった。この住民コードは、住民基本台帳だけでなく国民健康保険・国民年金・介護保険さらには、税金徴収の共通番号として使われているのだ。未だ調査中だが、個人情報保護条例もない自治体では、住民コードによって収入・家族関係・病歴・介護保険の使用状況などが一目瞭然、という「先進」自治体も十分考えられる状況だ。自治体における個人情報管理について取材した。


 「電算化している自治体は、その人を調べるときに名前よりも番号で検索するのが一番確実ですから、どこの市町村でもそのようなもの(住民コード)を持っていると考えられます」(豊中市市民課職員)。
 この職員によると豊中市では、出生もしくは転入してきた時点で住民全てに世帯番号や個人番号がつけられる。この番号は、選挙人名簿・国民健康保険・国民年金・児童扶養手当の手続きでも共通番号として使われており、税金その他の部署でも使われている可能性が高いという。
 例えば税金徴収でいえば、共通番号で管理するのは個人情報保護条例の趣旨に反する(目的外使用の禁止)のだが、正確な課税のためには個人の移動や過去の実績などを追跡する必要があるので、そのためにも共通番号を使っている可能性が高いという。少なくとも豊中市においては、住基ネット以前から個人識別番号による管理が行われており、事実上として機能しているのである。
 コンピューター導入と同時に始まったこのような自治体独自の番号管理は、言われてみれば、「さもありなん」な事実ではある。しかし、地方自治体は、総背番号制が個人情報保護条例上「マズイ」こともわかっており、全く明らかにしてこなかった。尼崎市の住基ネット担当者などは、「聞いたことはありますが、あまりよく知らないですね」とおとぼけを決め込んでいる。いずれにせよ、自治体版総背番号制は全く住民に知らされることなく深く静かに進行していたことになる。
 他市にも問い合わせてみた。高槻市市民課は、住民コードの存在は認めたものの、「あくまで市民課だけの番号で他の部署で使っていることはない」と言い切る。「正しい答」ではあるが、真実かどうかは疑問が残る。先の豊中市市民課職員の証言も伝えたが、同じ答しか返ってこなかった。

思想信条・病歴・犯罪歴も収集の対象!?
 この「個人情報ファイル設置届出書」を見て驚かない人は、よほど「おおらか」な人だ。身上調査表のような項目が並んでいるのは、「大阪府個人情報保護条例施行規則・第3条関係用紙」である。
 この用紙は、大阪府が、個人情報を収集する場合、どんな個人情報を、何の目的で、どの範囲で集めて記録するか等をあらかじめ登録し、「一般の縦覧に供しなければならない」とされている用紙。その中の「個人情報の記録項目」を見ると、思想・信仰・信条をはじめ婚姻歴・病歴・学歴・資格・賞罰・成績・資産・収入・借金という項目もある。
 つまり、大阪府が収集する個人情報のなかには、上記のような内心の自由に関わる極めて重大な事項が含まれており、大阪府はこれらのセンシティブ情報を含む個人情報収集を想定していることを示しているのだ。
 しかも、これらセンシティブ個人情報収集を行っているのは、大阪府だけではないこともわかってきた。まず大阪府下の市町村は、大阪府の個人情報保護条例を雛形にして各市町村の条例を作成しているケースが多く、そこではほとんど同じ形式が採用されている。さらにお隣の兵庫県や京都府も、ほぼ同じ形式と内容であった。
 つまり、地方自治体は、大阪府個人情報保護条例(第7条4項)で明確に禁止されている思想信条・信仰の情報や社会的差別の原因となる恐れがある個人情報収集を想定していることになる。
 さっそく、大阪府に問い合わせてみた。個人情報保護担当の「人権推進グループ」によると、思想信条や病歴などの情報は、特に個人のプライバシーに関わるセンシティブ情報であるとした上で、「具体的にどの部署でこのような個人情報収集が行われているのかは、わからない」という。ただ、いくつかのケースが考えられるとして以下の類型を示した。
 (1)思想信条については、信仰上輸血できない場合があるので、病院や保健所で収集するケース。(2)府民からの相談で、思想信条に関わる事柄が話された場合、これを記録し保管するケース(消極的収集)。(3)府が募集する論文・作文コンクールに個人の意思の表明がある場合なども個人情報として保管する。(4)海外研修生の受け入れで、宗教上の配慮が必要な場合があるので信仰の情報を収集する場合もあり得るとのことであった。
 しかし、(1)のケースにしても、輸血を可否を決めるためであれば、すべての人の宗教を把握しておかなければ、突然の事故の場合など対応できない。(2)の場合、自治体への相談がすべて記録されているのかと思うと、おちおちと相談窓口など行けなくなる。
 あまた疑問は残るが、最大の問題は、大阪府の担当部局でも実態を把握していないということだろう。

あなたの町の、情報提供を!
 三重県四日市市では、部落差別につながる個人情報が漏洩して大きな問題となった。京都府宇治市では、住民基本台帳データが持ち出され、自治体の個人情報管理のずさんさが指摘された。さらに、選挙のときに住民データが古参議員に提供されていた自治体もかなりある。
 つまり地方自治体には、思想・信条・病歴・学歴・補導歴を含む膨大な個人情報が収集され記録されている。しかも、これらは自治体版総背番号制によって、一元管理できる条件はすでに整えられているのだ。ただし、地方自治体においては個人情報保護条例によって、情報の統合化による目的外使用に歯止めがかかってきた。しかし、これらの情報が個人情報保護法もない住基ネットに接続されれば、これら自治体に蓄積された膨大な個人情報を統合化する鍵となる。 それこそ、住基コードを打ち込めば、その人の全てがわかってしまうことにもなりかねない。ここに、民間の信用情報などが加わった日にゃ…。
 読者のみなさん。是非あなたの街の役所の個人情報管理がどうなっているのか聞いて、編集部までお知らせください。市民課に電話をすれば、丁寧に教えてくれます。情報待ってます。

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人民新聞社

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